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第一話「魔王降臨」

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 大魔王ルシファー率いる悪魔軍団と大天使ミカエル率いる天使軍団のとの最終決戦の時、
天は裂け、地は割れ、人間は双方から奴隷や家畜として扱われていた。
 主たる神無きこの荒廃した世界ではルシファーとミカエルが地上を支配していた。
 人間はと言うとその圧倒的超常的な力には戦車も戦闘機も核でさえ役に立たず、人間は投降し奴隷収容所で働かされていた。

 悪魔と天使、その力はこれまで拮抗していて中々勝負がつかないでいた。
 しかし天使達が神器ミカエルの槍を見つけると強気になり勢力は天使に傾き天使側が最終戦争を仕掛けたのである。
 その槍は大天使の力を増大させると共に、大天使や強力な悪魔を殺す事ができる強力な武器だった。
 そして槍を得たミカエルは悪魔を次々と葬り去り、ついにルシファーとミカエルが直接対決で勝負を付ける事となった。
 二人には聖書で語られる様な羽は生えていない。
 しかし轟く雷鳴の光に照らされるとその影には巨大な2枚の翼が広がっていた。

「ルシファー様!ミカエルの奴がこのホワイトハウスに天使を引き連れてやってきました!」

「そうせかすな、ルイス。今3杯目を入れた所だ。お前も飲むか?」

 ルイスと呼ばれたブラックスーツの黒目一色の強面の男、ルシファー配下の悪魔がルシファーに報告する。
 ルシファーと呼ばれたその男は漆黒の短髪と顎髭を生やした黒いジャケットと黒いYシャツの陽気な青年で、
 カクテルグラスを片手にモヒートを楽しんでいた。
 アメリカの秩序の象徴であるホワイトハウスの大統領執務室の椅子の上でである。
 今ではただの本革の黒い座り心地の良い椅子だが。

バタン!

 勢いよく執務室の扉が開くと槍を持った長身の男が入って来る。
 長い銀髪の持ち主で耳に銀色のピアスを付けている。

「ルシファー!堕天した兄弟よ、雌雄を決しに来たぞ!」

「そう急かすな兄弟、今4杯目だ―」

パリン!

 ルシファーに兄弟と呼ばれた男は手から衝撃波の様な白い霧を飛ばすとルシファーが手に持っていたカクテルグラスを吹き飛ばした。

「あーあ、まだ飲んでたのに。相変わらずせっかちだな、ミカエル」

「貴様が悠長すぎるのだ!」

 ミカエルと呼ばれたその男は炎を司る大天使ミカエルだ。
 彼が手に持った槍の柄を地面にドンと叩きつけると魔方陣の形に炎が走った。
 そして槍を一閃し振り回すと周囲のルシファーの護衛達の首を吹き飛ばした。

「じゃあ始めるとするか、モヒートを作ってくれるバーテンダーも死んだしな」

ブォン!

 ルシファーが執務室の巨大な木の机を片手で軽々と持ち上げると、ミカエルめがけて投げつけた。
 ミカエルは槍を机に突きつけると机を粉々に打ち砕いた。
 その埃に乗じてルシファーがミカエルに殴りかかる。
 その拳に吹き飛ばされたミカエルは執務室の扉もその奥の部屋の扉も壁も粉砕し、ホワイトハウスの外に吹き飛んだ。
 しかしミカエルは平気で立ち上がりピンピンしている。

「この程度ではやられんぞ!」

「丈夫だな、兄弟!」

 ルシファーが天高くミカエルの頭上を舞い上がったその時である。
 ルシファーの体が光出し突然消えた。

―???

「ここは…どこだ?」

 ルシファーは何もない闇のみ広がる空間に放り出されていた。
 そこにはルシファーと座っていた椅子しかない。
 ルシファーがキョロキョロ周囲を見回していると目の前の空間に光が差し少女が現れた。
 緑髪の長髪の美しい少女は落ち着いた眼差しでルシファーを見つめている。
 ルシファーは臆せず椅子に腰かけた。
 その少女も椅子に腰をかけ足を偉そうに組む。

「よく来たわね、田中太郎さん」

「タナカ?僕はルシファーだ、お嬢さん」

「あ、よく見たら日本人じゃないじゃない!また間違えたー!!」

「見た感じ人間じゃないようだが、異教の女神か魔女か何かか?」

「は?確かに私は女神だけど異教じゃないわよ。この世界唯一の神よ」

 女神は自身を唯一女神メナスと名乗った。
 この世界最高位の存在であるとか……自称だが。

「僕の知ってる神は男だし髭を生やしてる」

「あー、それはあなたが異世界にいるからよ」

「異世界だって?小説やコミックの?」

 そういえば最近の日本の小説やコミックで読んだ事がある。
 異世界転移がどうだの転生がどうだの悪役令嬢がどうだのチートがどうだのと中世時代をメインとした小説やそれを元にしたコミックだ。
 最初からフルスロットルな展開と超パワーで無双するのが面白い印象がある。

「そうそうソレ、その異世界よ。世間に知られてるのは成功談というか上澄みだけどね」

「で、間違えて異世界に飛ばした女神さん、いつ僕を元の世界に戻してくれるのかな?」

「ごめんなさい、元に戻す事はできないの。そっちの神様に頼めないかしら?」

「残念ながら勘当された身でね。それに父はどこかに雲隠れしてる。地球の人間や”僕達”天使を見捨ててね」

「天使って、それに父って……」

「そう僕は堕天使ルシファーさ」

―異世界虚数空間・女神の間

「ルシ・ファーさん?」

「ルシファーだ。変な所で区切らないでくれ。もしかして僕の事知らないのか?」

「残念ながらそっちの事はあまり詳しくないのよ。管轄外だから」

「そうか、じゃあ天使や悪魔の事も?」

「テンシ?アクマ?魔王や魔物なら知ってるけど……」

「ああ、魔王なら僕だ。ニックネームだけどね」

「私が知ってる魔王は女性よ。まあいいわ、間違えたお詫びに一つ能力を授けてあげる」

「そうか、じゃあモヒートを生み出せる力をリクエストしよう」

「モヒート?」

 女神が怪訝な顔で聞き返す。
 ああこれはまた知らないという奴だ。

「モヒートだ、カクテルだよ。もしかして知らないのか?」

「私お酒はエールしか飲まないのよ」

「材料はミント、ライム、砂糖、氷、ラム酒、炭酸水だ」

「ふーん、一部はこの世界には無い物質ね、それか凄い高価な奴……あ、分かった!あなたソレで一儲けするつもりでしょう!確か前にもマヨネーズとかいう調味料で同じ様な事を―」

「そんなつもりはないよ。ただモヒートが飲みたくてね。ついでにクラブでも開こうかと」

「ああ、あんたもそう(酒飲み)なのね」

「まあね」

「それ位ならいいわよ。じゃあ異世界に転移するわね」

「ああ、頼むよ」

 女神はチート能力をルシファーに与えなかった。
だから特に監視もせず放置する事に決めた。
 それでこの異世界が大きく乱れる事になろうとは女神は思いもよらなかった。
 怪力、サイコキネシス、空間転移……は翼が損傷していて使えないが、その他不思議な能力色々……。
  ルシファー自身が元々チートな存在だとは知らずに。
 まあ、更にチートな力を授かれば現代でもミカエルを倒せるかもしれない。
 ルシファーとしても現代のミカエルをなんとかする力が欲しかったが、魔王のプライドからこんな小娘から施しを受けるのは気に入らなかったのだ。
 そう、気に入らなかった、ただそれだけである。
 まあそもそも元の世界に戻せない程度の女神にミカエルをなんとかできるとも思えないとルシファーは考えていた。

―異世界イシュロア・荒野

「ここが異世界か。何もないな」

 ルシファーが転移したのは何もない荒野だった。
 ルシファーは剣も盾も弓もグラスも何も持っていない。

「まずはグラスを手に入れないとな。モヒートも飲めない」

 この異世界に来た理由はそれだけじゃない。
 確かにモヒート飲み放題は魅力的ではあるが、ルシファーの目的は別にある。
 まず怪物ハンターになり怪物達を殺しまくって魔王軍を弱体化させる。
 そしてその流れでこの世界の魔王を殺しその勢力を手中に収めてやるのだ。
 そして現代に戻り今度こそミカエルを殺す。
 ルシファーは黒い野望に燃えていた。

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