1 / 35
第一話「魔王降臨」
しおりを挟む大魔王ルシファー率いる悪魔軍団と大天使ミカエル率いる天使軍団のとの最終決戦の時、
天は裂け、地は割れ、人間は双方から奴隷や家畜として扱われていた。
主たる神無きこの荒廃した世界ではルシファーとミカエルが地上を支配していた。
人間はと言うとその圧倒的超常的な力には戦車も戦闘機も核でさえ役に立たず、人間は投降し奴隷収容所で働かされていた。
悪魔と天使、その力はこれまで拮抗していて中々勝負がつかないでいた。
しかし天使達が神器ミカエルの槍を見つけると強気になり勢力は天使に傾き天使側が最終戦争を仕掛けたのである。
その槍は大天使の力を増大させると共に、大天使や強力な悪魔を殺す事ができる強力な武器だった。
そして槍を得たミカエルは悪魔を次々と葬り去り、ついにルシファーとミカエルが直接対決で勝負を付ける事となった。
二人には聖書で語られる様な羽は生えていない。
しかし轟く雷鳴の光に照らされるとその影には巨大な2枚の翼が広がっていた。
「ルシファー様!ミカエルの奴がこのホワイトハウスに天使を引き連れてやってきました!」
「そうせかすな、ルイス。今3杯目を入れた所だ。お前も飲むか?」
ルイスと呼ばれたブラックスーツの黒目一色の強面の男、ルシファー配下の悪魔がルシファーに報告する。
ルシファーと呼ばれたその男は漆黒の短髪と顎髭を生やした黒いジャケットと黒いYシャツの陽気な青年で、
カクテルグラスを片手にモヒートを楽しんでいた。
アメリカの秩序の象徴であるホワイトハウスの大統領執務室の椅子の上でである。
今ではただの本革の黒い座り心地の良い椅子だが。
バタン!
勢いよく執務室の扉が開くと槍を持った長身の男が入って来る。
長い銀髪の持ち主で耳に銀色のピアスを付けている。
「ルシファー!堕天した兄弟よ、雌雄を決しに来たぞ!」
「そう急かすな兄弟、今4杯目だ―」
パリン!
ルシファーに兄弟と呼ばれた男は手から衝撃波の様な白い霧を飛ばすとルシファーが手に持っていたカクテルグラスを吹き飛ばした。
「あーあ、まだ飲んでたのに。相変わらずせっかちだな、ミカエル」
「貴様が悠長すぎるのだ!」
ミカエルと呼ばれたその男は炎を司る大天使ミカエルだ。
彼が手に持った槍の柄を地面にドンと叩きつけると魔方陣の形に炎が走った。
そして槍を一閃し振り回すと周囲のルシファーの護衛達の首を吹き飛ばした。
「じゃあ始めるとするか、モヒートを作ってくれるバーテンダーも死んだしな」
ブォン!
ルシファーが執務室の巨大な木の机を片手で軽々と持ち上げると、ミカエルめがけて投げつけた。
ミカエルは槍を机に突きつけると机を粉々に打ち砕いた。
その埃に乗じてルシファーがミカエルに殴りかかる。
その拳に吹き飛ばされたミカエルは執務室の扉もその奥の部屋の扉も壁も粉砕し、ホワイトハウスの外に吹き飛んだ。
しかしミカエルは平気で立ち上がりピンピンしている。
「この程度ではやられんぞ!」
「丈夫だな、兄弟!」
ルシファーが天高くミカエルの頭上を舞い上がったその時である。
ルシファーの体が光出し突然消えた。
―???
「ここは…どこだ?」
ルシファーは何もない闇のみ広がる空間に放り出されていた。
そこにはルシファーと座っていた椅子しかない。
ルシファーがキョロキョロ周囲を見回していると目の前の空間に光が差し少女が現れた。
緑髪の長髪の美しい少女は落ち着いた眼差しでルシファーを見つめている。
ルシファーは臆せず椅子に腰かけた。
その少女も椅子に腰をかけ足を偉そうに組む。
「よく来たわね、田中太郎さん」
「タナカ?僕はルシファーだ、お嬢さん」
「あ、よく見たら日本人じゃないじゃない!また間違えたー!!」
「見た感じ人間じゃないようだが、異教の女神か魔女か何かか?」
「は?確かに私は女神だけど異教じゃないわよ。この世界唯一の神よ」
女神は自身を唯一女神メナスと名乗った。
この世界最高位の存在であるとか……自称だが。
「僕の知ってる神は男だし髭を生やしてる」
「あー、それはあなたが異世界にいるからよ」
「異世界だって?小説やコミックの?」
そういえば最近の日本の小説やコミックで読んだ事がある。
異世界転移がどうだの転生がどうだの悪役令嬢がどうだのチートがどうだのと中世時代をメインとした小説やそれを元にしたコミックだ。
最初からフルスロットルな展開と超パワーで無双するのが面白い印象がある。
「そうそうソレ、その異世界よ。世間に知られてるのは成功談というか上澄みだけどね」
「で、間違えて異世界に飛ばした女神さん、いつ僕を元の世界に戻してくれるのかな?」
「ごめんなさい、元に戻す事はできないの。そっちの神様に頼めないかしら?」
「残念ながら勘当された身でね。それに父はどこかに雲隠れしてる。地球の人間や”僕達”天使を見捨ててね」
「天使って、それに父って……」
「そう僕は堕天使ルシファーさ」
―異世界虚数空間・女神の間
「ルシ・ファーさん?」
「ルシファーだ。変な所で区切らないでくれ。もしかして僕の事知らないのか?」
「残念ながらそっちの事はあまり詳しくないのよ。管轄外だから」
「そうか、じゃあ天使や悪魔の事も?」
「テンシ?アクマ?魔王や魔物なら知ってるけど……」
「ああ、魔王なら僕だ。ニックネームだけどね」
「私が知ってる魔王は女性よ。まあいいわ、間違えたお詫びに一つ能力を授けてあげる」
「そうか、じゃあモヒートを生み出せる力をリクエストしよう」
「モヒート?」
女神が怪訝な顔で聞き返す。
ああこれはまた知らないという奴だ。
「モヒートだ、カクテルだよ。もしかして知らないのか?」
「私お酒はエールしか飲まないのよ」
「材料はミント、ライム、砂糖、氷、ラム酒、炭酸水だ」
「ふーん、一部はこの世界には無い物質ね、それか凄い高価な奴……あ、分かった!あなたソレで一儲けするつもりでしょう!確か前にもマヨネーズとかいう調味料で同じ様な事を―」
「そんなつもりはないよ。ただモヒートが飲みたくてね。ついでにクラブでも開こうかと」
「ああ、あんたもそう(酒飲み)なのね」
「まあね」
「それ位ならいいわよ。じゃあ異世界に転移するわね」
「ああ、頼むよ」
女神はチート能力をルシファーに与えなかった。
だから特に監視もせず放置する事に決めた。
それでこの異世界が大きく乱れる事になろうとは女神は思いもよらなかった。
怪力、サイコキネシス、空間転移……は翼が損傷していて使えないが、その他不思議な能力色々……。
ルシファー自身が元々チートな存在だとは知らずに。
まあ、更にチートな力を授かれば現代でもミカエルを倒せるかもしれない。
ルシファーとしても現代のミカエルをなんとかする力が欲しかったが、魔王のプライドからこんな小娘から施しを受けるのは気に入らなかったのだ。
そう、気に入らなかった、ただそれだけである。
まあそもそも元の世界に戻せない程度の女神にミカエルをなんとかできるとも思えないとルシファーは考えていた。
―異世界イシュロア・荒野
「ここが異世界か。何もないな」
ルシファーが転移したのは何もない荒野だった。
ルシファーは剣も盾も弓もグラスも何も持っていない。
「まずはグラスを手に入れないとな。モヒートも飲めない」
この異世界に来た理由はそれだけじゃない。
確かにモヒート飲み放題は魅力的ではあるが、ルシファーの目的は別にある。
まず怪物ハンターになり怪物達を殺しまくって魔王軍を弱体化させる。
そしてその流れでこの世界の魔王を殺しその勢力を手中に収めてやるのだ。
そして現代に戻り今度こそミカエルを殺す。
ルシファーは黒い野望に燃えていた。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
俺だけステータスが見える件~ゴミスキル【開く】持ちの俺はダンジョンに捨てられたが、【開く】はステータスオープンできるチートスキルでした~
平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人はクラスメイトたちと異世界へ召喚されてしまう。
異世界より召喚された者は神からスキルを授かるが、直人のスキルは『物を開け閉めする』だけのゴミスキルだと判明し、ダンジョンに廃棄されることになった。
途方にくれる直人は偶然、このゴミスキルの真の力に気づく。それは自分や他者のステータスを数値化して表示できるというものだった。
しかもそれだけでなくステータスを再分配することで無限に強くなることが可能で、更にはスキルまで再分配できる能力だと判明する。
その力を使い、ダンジョンから脱出した直人は、自分をバカにした連中を徹底的に蹂躙していくのであった。
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる