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第八章 堕天使レビが遺したもの

第百四話 風の爆弾

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アジトの部屋中には植物の弦が無数にはびこっていた。
 植物の頭はギラりと眼光を光らせた。
 オネイロスが怪力で弦を引きちぎった。
 反撃に打って出ようとしたときだった。
「歯向かうのか、こうしてくれる」

魔植矢デッドローザー
 無数の弦がオネイロスに凄まじいスピードで突っ切っていった。

「ぐはぁ」

「きゃー」「オネイロス!」
 なんと、槍のように弦の先がとがり、オネイロスの身体を無残にも貫通した。
 血が吹き飛んだ。幾重にも次々刺さっていく。

 姫様とニミュエは悲痛の声音をあげると、みてられないと目を閉じた。
 ファイも剣幕が変わっていた。余りの突出した出来事に声音があがった。
「団長!」
「くそ、なんて吸着力だ、身動きがとれん、この私が」
 キュラは必死に手足を動かし動こうとした。
 だが、弦は凄まじい力で巻き付いており、びくともしない。

「畜生、この手足に巻きついている弦さえなければ!」
 ファイがそういった矢先だった。

 植物がギラりと眼光を照らした。
「次は、そこの小娘!」
 いうが様に、植物はイーミ姫様の方に弦を走らせた。
 瞬間、皆の顔色が一変し凍り付いた。

「姫様には触れさせない。そうはさせるか、この植物め」

炎固撃ファイヤーブリッド!」
 キュラだ。キュラが掌から、アータル系、炎魔法レベル2の炎の弾をその弦目掛けて放った。
 炎の弾は、姫様に直撃しかけの、弦の先端から中間までくらい、見事に当たり燃やした。

 だが、相手も魔物だった。一筋縄ではいかない。
「クハハ、そんなもの容易い!」
 幾重にも出ていた弦の内の何本かでデッドプラントは炎魔法を次から次へと全て弾いた。
 デッドプラントは不敵な眼光を照らした。
 ドロッとした声を漏らした。

「さすが、ソレイユ最強の魔法騎士、使えるものがあれば、手を休めぬか。その手を縛り上げてくれるわ!」
「ぐ、ぐあああぁ」
「キュラ様!」
「いけない、腕を折られる」
 キュラは手に巻き付けられていた弦の力を強められ、手が圧力をかけられたようにへこんでいく。ウィードは見兼ねて、檄を飛ばした。

「(このままじゃ、全滅だ、一体どうしたら?)」
 ファイはこのピンチに、脳裏で必死に状況の打開方法を考察していた。

 しかし、魔剣士といえど、手足身体がしばられ、動けなければ赤子の手を握るようなものだった。
 そのときだった。

 ウィードが動いた。
「ごめん、僕の所為せいだ。僕の魔剣で感知されたんだ。透明状態にしておけばよかった」

「責任は僕がとる。キュラさんは死なせない、皆さんも」
 そういい、ウィードは念じるように目を閉じた。

「はぁああぁっ、風魔弾ウィンドブリッド!」
 なんと、床に落ちていた風の魔剣から、ラスタが放出される口のようなところから、あの風の弾丸が出でて、数個、デッドプラントに向かっていく!

「ぐはぁッ、なに、魔剣から弾丸が」
 それは見事にデッドプラントの身体に命中した。

 当たった瞬間、植物の体液が飛び散った。
「油断したな、植物、攻撃できるのは手だけじゃないぞ」
 ウィードはニヤリと不敵な笑みをみせた。

「風の弾丸よ、爆発せよ!」

風魔爆ウィンドバースト!」

DWOOONN!

「ぐがぁあぁぁつ」
 なんと刺さっていた風の弾丸がウィードの念動で爆発し、植物の弦やら身体やらを風とともに切り裂き爆発した。
 その攻撃でファイたちの弦も切れて、動けるようになった。

「やった、弦が解けたぞ」

「しまった、外に逃げた」
「キュラ様、手が」
「ぐ、剣が持てん、私としたことが」
 キュラの手はデッドプラントの弦の凄まじい力でひしゃげていた。
 剣も持てる形をとどめておらず、ピクリとも両手が動かなかった。
 キュラは持とうとしたが剣を床に落とした。

 キュラが立ち往生している最中にもデッドプラントは上手く外に這い出ていった。
 
そのときだった。テアフレナが言い寄ってきた。
「大丈夫です、私の回復魔法で、しばらくかければ元通りになりますよ」
「すまない、テアフレナ」
 そういい、瞬時にテアフレナは魔法力を投じ、キュラに回復魔法をかけだした。
 キュラは痛そうな顔をしていたが、隣にいたファイに檄を飛ばした。

 キュラも唐突なことに気に食わぬ顔をしていた。
「ファイ、動ける者のみで、さっきの植物の殲滅にあたってくれ。そうしないと、民に被害が及ぶ」

「了解だ」
「ファイいくぞ、答えはわかってた」
「僕もいく」
 ファイはヒョウ、ウィード、レギンと目で合図をした。
「おっさんもだ」「おうよ」
「私も」
「だめだ、エリューは回復に当たってくれ。姫様とテアフレナでは人数が足らん。負傷者が多いのでな」
 エリューの返事に、キュラは急いで外にいかすのを止めた。
「はい、わかりました」
 そう返事すると、エリューはニミュエとともに魔法を唱え、回復にあたった。

 部屋の隅で、戦闘に参加しようか何か回復の手伝いをしようかと、一人ぽつんと熟考しているネコ様がいた。

 確かに負傷者は多い。テアフレナと姫様では手に負えなかったからだ。

 しかも、姫様は移動魔法でかなりの魔法力を消費していた。

 外では悲鳴が上がっていた。魔物の植物は狂気していた。






☆☆
アップ予定。感想おまちしてます。
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