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第五章 古代から生き永らえたもの
第七十二話 決着
しおりを挟む「片手だが、我も力を貸す、後一歩だ! 力を入れろ、リビコッコ!」
「おうや! 『鋼死鬼殺弾(デス・ギガント)!』」
リビコッコはデカラビアの応援に応え、更にもう一発小型な光弾を上空に瞬時に発生させ、ファイたちのいる方に撃ち込もうとした。小型といえど、大きかった。
死霊魔兵はここまで高いポテンシャルがあるのか。
「な、拙い! 『鋼死鬼殺弾(デス・ギガント)!』をもう一発、撃ってきやがった!」
ファイが動揺し、手が力でぶれた。その時だった!
「坊主、気を抜くなぁ! あんな小型ギガント、魔闘気が入るまでに、仕留めてくれるわぁ!」
「レギンさん!」
レギンだ。レギンが敵の先を読んでいたかのように、後方でスタンバイしていた。
何やら、魔闘気が手に集中していた!
その間にも鋼死鬼殺弾(デス・ギガント)は獰悪に動いていく!
もう一歩で、小型ギガントは光弾に減り込もうとしていた。
「『豹狼波(イーリアウルファー)!』」
その瞬間、レギンの手から豹の頭をした鋭い波動が飛び出した。
豹撃だ。その波動は、鋼死鬼殺弾(デス・ギガント)に瞬時にぶつかり、互いを相殺した。
見事に先を読んだレギンの行動のお陰で小型『鋼死鬼殺弾(デス・ギガント)!』が光弾に入ることなく粉砕した。
「己ぃ、あの、白豹め!」
デカラビアが行動を阻まれた事に、憎たらしい顔をし、悔しそうに舌打ちをする。
次の瞬間、勝機を決した!
「今だ、くたばれ、デカ物! うぉらぁ!」
ファイは、自身の力が尽きるくらい、魔闘気を最大にして振り絞り叩き込んだ!
それを見計らってか、エリューやテアフレナ、ヒョウも意図を汲み取るように、魔法力、魔闘気を全力で叩き込んだ!
波動は波を成し、膨張し、更に消滅竜撃は威力を増して、あの巨大ギガントを押し返した。
並み成らぬ速さでギガントは上空にいた死霊魔兵に追い討ちを駆けた。
「(防御壁が……)し、しまった」
直撃する瞬間、デカラビアが瞬時に防禦壁を張り巡らせた。
だが、防禦壁で防ぎ切れるエネルギー量ではなかった。
「こ、こんなはずが、我ら死霊魔兵、二人が掛って、こんなはずが……グ、」
押し返されながらも、二人の死霊魔兵は同時に防禦壁を張る。
だが、いとも簡単にそれは仰け反られた。
それを見計らい、ファイが思いっきり、魔闘気を帯びた紋章の右手を前に出し、決した!
「終わりだ、先に地獄に行ってろ! 『消滅竜撃(ルーインドラゴン)!』」
紫色の竜が弾け飛んだ。
「がぁっぁぁぁぁぁぁぁっぁぁっぁ! 死霊騎士様ぁぁぁぁぁあッ!」
DWOOOOOOOOOOOON!
その瞬間、真面に『消滅竜撃(ルーインドラゴン)』に死霊魔兵は飲み込まれ、姿形が消えた。
これが最期の断末魔となっていた。
ギガントも『消滅竜撃(ルーインドラゴン)』と一緒に消えた。
爆音が響き、辺りには砂塵が散っていた。
未だに舞い、煙が立ち込め、焼ける匂いがする。
ファイは息を切らしていた。皆、それは同じだった。力を使い果たし誰もが疲弊していた。
だが、ファイには、一つ懸念することがあった。死霊だからだ。生体そのものはないに等しいからだ。
「はぁはぁ、やったのか」
ファイは地面に手をついて、脚を落としながら片目を瞑り、せこそうに喘ぐ。
もう一つの目で辺りをくまなく見遣っている。何かを探している。ヒョウも怪訝な面持ちで鋭い眼光を光らし探していた。
ファイが何かを見つけたのか、顔の動きが止まった。
「消えな! 灰になれ(アッシュ)!」
爆音が爆ぜ、煙り巻いたところから這い出てきた霧をファイは見つけ、言うと同時に右手を握り、膂力を振り絞り、抹消した。
死霊独特の現れる霧は消えた。
だが、四散していた霧はそれだけではなかった。煙りに近いものも動かないがあった。
だが、現れる根源はどうやらないようだ。完全に霧は消滅した。
その瞬間、その場にいる誰もに、笑顔が浮かんだ!
「やったな!」
「おぅ!」
隣にいたヒョウがポンとファイの肩を叩いた。ファイも振り向き手でジェスチャーした。
近くにいたエリューが笑顔で近寄ってきた。
レギンやイーミ姫さま、キュラたちもファイの方に近付いてきている。
「ファイさん、良かったですぅ」
「やったどん」
「やったぁ、ファイ、やるぅ!」
「ニミュエ、エリューが途中から力を貸してくれたお陰だよ」
エリューの顔には笑顔が満ちていた。涙目にもなっていた。あのギガント直下に死ぬのを覚悟して、入り込んだこともあるからだろう。嬉しさで満ちていた。ファイはエリューに笑顔で返した。
レギンが近付いてきて、重い口を開いた。
「ふぅ、一段落だな、サムソン村長、仇は取ったぞ!」
そういい、レギンは天に顔を上げ、十字架のジェスチャーをして、拝んだ。キット、サムソン村長にも届いているはずだ。
隣で、その模様をみていたイーミ姫さまが関心しながら、見遣っていた。
「(レギンさんて、案外、義理人情が強いのね)」
「終ったな」
ヒョウが、屈んだ姿勢から立ち上がり、口を開いた時だった。
「まだよ」
「!」
イーミ姫さまが怪訝な面持ちで、意味深な言葉を発した。皆、一様の顔をした。
「皆、強敵を打ち倒して、一息つきたいだろうけど、気は抜けないわよ。サムソン村長の為にも、オリヴィエさんを死霊騎士から、救出するわよ」
「姫様の言う通りだ。ヒョウ、確か、死霊騎士は『ヒュルディースにこい』って言ってたよな?」
ファイが姫様の意志を汲み取り、続け様に言い、ヒョウの方を振り向いた。
「ああ、そうだ。そこに、奴(やっこ)さんはいるはずだ」
「姫様、ヒュルディースッて?」
エリューが困惑した面持ちで言った。驚いて、言葉が少し早口になっていた。
「丁度、私たちのソレイユとソワール王国の国境ね。拙いわ、死の境界線を通らないといけないわ」
イーミ姫さまの顔色が曇った。何かを懸念しているように見えるが。
隣にいたレギンが考察した表情で口を再び開いた。
「死の境界線? あの魔王アガスラーマが大地に施した呪術の線を通り越さねばならんのか?」
やはり、少しはそのことに知識があり、知っているようだ。
皆、黙り込み、顔色を曇らした。ヒョウが話を再び切り出した。
「そうだ、運が悪ければ通る限り敵は現れる」
「そう簡単には、渡さないってことか」
レイティスが懸念した面持ちで重苦しく言った。誰もがそれは感じていた。
「フン、どんな敵が来ようが、俺が斬る」
ヒョウが、魔剣の段平を返した。表情には自信が満ち溢れていたが、その自信が皆を勇気付けてくれていた。
皆に、少し、笑顔が戻った。
「レギンさん、あなたはどうするの? ソワール王宮に帰るの?」
「いや、俺も一緒に行かせてもらう。娘さんまで死なせちゃあな、サムソン村長に顔向けが出来ないしな」
イーミ姫さまの問いに、軽くレギンは答え、ファイや、エリューを見遣り、目利きした。
「(リビコッコが最後に放った小型ギガントも相当なものだった。簡単に粉砕できるほどの膂力があるのか。だが、余裕がある。恐らくまだ、本気じゃないな)」
だが、ヒョウだけは、先を見た蒼い眼光で思惑を巡らし、考察していた。
闘う者の勘なのか。
その時だった。
テアフレナが何らかの魔法の詠唱にもう、入っていた。
「行きますよ。皆、魔法円陣に入って。私が場所は知っているから、記憶移動魔法で飛んでいくわ」
「はい」
エリューがそう言うと同時に、魔法円陣は完成していた。
皆も、疲れていたが、円陣の中に素早く入った。テアフレナ自身の魔法力は可也、余裕があったのだ。
そして、記憶移動魔法の光に全員が包まれると、ベイリン村を後にした。
どんな困難が待ち受けていようとも知らず。
だが、イーミ姫たちの目は鮮明だった。皆、助けることに対しては、一様の想いだった。
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