魔双戦記アスガルドディーオ 神々の系譜

蒼井一

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第一章 アスガルド

第十九話 魔獣ドルギアス

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ファイがベルフェゴールと戦っていたころ、キュラたちは魔獣ドルギアスとの激戦が繰り広げられていた。

「(ファイは上手く、ベルフェゴールのところへ行ったか?)」
 キュラは剣を構えながら、思惑を張り巡らせた。
 シータラーは怒声を発した。余りの失態に奮起した。
「おのれぃ、おのれぃ、よくも、ベルフェゴール様のところにいきおって」
「ふん、憐れだな、今のお前の姿は、力を欲しただけの醜いただの怪物だ」
 キュラがきつい餞別を言い渡した。
 それをきいたシータラーが表情を一変させた。
「ほざけぇ、皆殺しにしてくれるわ」

「テアフレナ、エリュー、オネイロス、アザレ、レイティス、総力戦だ。やるぞ!」
「はい」
 キュラがいうと、みな、動揺しながら返事を返した。
 どうにかして、切り抜けようという思いは強かった。それが連携につながる。
 そのときだった。

「私が、仕掛ける、援護を頼む」
 キュラがそういったときだった。
 テアフレナが真っ先に動いた。

「テアフレナ!」
 テアフレナは詠唱しきっていた魔法をシータラーに叩き込んだ。
「やぁあ、雷風波(サンダーウェーブ)!」

DWWOOOON!

「なんのぉ、きかんわ」
 いとも簡単に、シータラーはテアフレナの雷系レベル3にあたる魔法を防いで相殺してしまう。なんと魔獣の手で簡単に弾いてしまった。

 弾くといっても、テアフレナの雷の魔法は術者のレベルによって、違い、テアフレナの魔力は卓越しており、普通の魔法の水準より強力にアレンジが施されていた。
 それを鞭うつように簡単に弾いたのだ。
 相当の攻撃でないとダメージを与えれないのが、面子にもわかり、痛感させられた。
 シータラーは苦言を呈した。

「いっておくが、そんなヤワな攻撃はこのドルギアスには通用せん。この魔獣ドルギアスは地獄にいる魔獣だからだ」

「な、なに?」
 キュラが表情を曇らせた。
 その瞬間だった。
「魔獣ドルギアスの灼熱の火炎をくらえぇ」

 BUOOOOOOO!

 なんと、ドルギアスの口から、ヘルムンガンドの地獄の火炎を凌ごうかというくらいの、凄まじい火炎のブレスが発せられた。

 それは、城の床石を見事に溶かしていく。凄まじい熱量だ。
 あたりが、火の海になった。
 レイティスが飛び散る炎を躱しながら、声音を漏らした。

「くぅっ、何て強力な火炎なんだ」
「ヘルムンガンドの火炎より、遥かに熱量が上です」
「あんなのを受けたら一溜まりもない」
 レイティスの言葉に近くにいたエリューとオネイロスが続けざまに言葉を紡いだ。
 二人の表情も少し曇っていくような感じが見受けられた。
 そのときだった。

 ドルギアスの背びれが紫色に光った。
 エネルギーを拡充していたのだ。
 それをシータラーは発生させた。
「雷連力双撃!(サンダースパーダ)」

「いけない、みんな、さがれ、よけろー」

DWWWOWOOOWWONN!

 なんと、背びれが激しく光り、雷属性のエネルギーを要した、雷の玉を何発もあたり一面に爆弾のように発した。あたりが、雷光に満ち溢れ、多大な爆発を生じた。
 さっきの火炎がまだ残っていた上に、今度は雷が散り、辺りは、熱気に包まれた。

 みな、躱すので精いっぱいで、手の打ちようがなかった。
 攻撃に転じるにも間合いに入り込む余地がなかった。
「く、くそぉ、なんて技だ」
「雷のエネルギーの玉なんて、卑怯な」

 テアフレナが躱しながら、眉間に皺を寄せ、悔しそうにいった。

 だが、シータラーは攻撃の手を休めようとしない。
 さらに、打ち込んでいく。
 辺りが、破壊しつくされていく。

「まだまだぁ、城が壊れようと撃ち続けてやる」
 シータラーがどす黒い声でいったときだった。
 キュラが懸念していた。
「(魔法力が底をつきかけている。なるべく、早期に斃さなければ、魔法剣が使えなくなる)」
 キュラが横手に走った時だった。

 アザレだ。同時にオネイロスも動いた。
アザレが雷の玉をかいくぐって斬りこんだ。
「このぉ!」

GKIINN!

 アザレの一撃は、クリーンヒットしたものの、ドルギアスの鱗が固く、切り傷ひとつつけられなかった。
 そのとき、オネイロスが血相を変え、大剣クレイモアで渾身の一撃を繰り出した。
 剣戟が一閃する。
「うぉりゃあぁ!」

「ぐはぁ」
 なんと、ドルギアスの固いであろう装甲をオネイロスはありったけの怪力で切り傷を負わすことに成功した。
 切り傷からは、どす黒い異色の血が噴き出した。
 しかし、それも致命傷とまではいかなかった。
「おのれぃ、ふらぁ」
「ぐはぁああっ」
 ドルギアスは手でオネイロスとアザレを二人とも遠くに弾き飛ばした。二人は城の壁に減り込んで、動かなくなった。
「オネイロス、アザレーッ!」
 キュラが悲鳴をあげた。

「あの怪力男、怪力で我が装甲を貫きおった。褒めてやるぞ、だが、今の一撃で、二人とも死んだな」
 シータラーは皮肉ったように言う。レイティスが悔しそうに舌打ちした。

「くそぉ、どうすれば」
「ニミュエ、オネイロスとアザレを頼む」
「はい」
 ニミュエはキュラの言葉をきくと、すぐさま飛んで行った。
 キュラはジりりと剣を構え、間合いを詰めていく。
 次の瞬間、キュラが動いた!

「(剣を突き刺した。鱗はヘルムンガンド並みではないということか)なら、これならどうだ」
 キュラは勢いよく、ドルギアスの懐に飛び込んだ。
 間合いはほとんどない。至近距離だ。
 そして、キュラは魔法剣を逆手にもって、ドルギアスに突き刺そうとした。
「やらぁ、いけぇ」

「ぐはぁ」
 なんと、魔法剣は、オネイロスが斬った傷跡に見事に突き刺さった。
 キュラの狙いは、自身の力では斬ることが出来ない鱗、だから、オネイロスが斬った箇所を狙っていた。

 そして、突き刺した状態から、キュラは魔法力を爆発させて、発動させた。
 一瞬、ドルギアスの顔が引きつる。

「魔法剣、ライジングインパクト!」

DWOOOON!

「ぐあぁあぁぁぁぁ」
 ドルギアスの身体に突き刺した魔法剣を伝い、ドルギアスの本体に真面に雷魔法の技が伝導し、炸裂した。
 ドルギアスは電撃で、身体が打ち震え、黒焦げになる。
 しかし、ドルギアスにはまだ余力があった。

「やったか」
「ドルギアスの身体に剣を突き刺して電撃を、さすがキュラ様」
そのときだった。テアフレナがそれを見計らって動いた。
「魔空飛翔翼(スカイウイング)」
「飛んだだと!」
 ドルギアスが咆哮をあげる。
 瞬時に、ドルギアスはテアフレナの方を向き大きく口を開けた。
 まずい、これは灼熱の火炎だ。
 火炎が口から集束してあふれ出した。
 この至近距離では、テアフレナも躱しきれない。
 ドルギアスは雄叫びをあげた。
「くらぇえ」
「テアフレナ、躱せー」
 キュラの願いは遅く、テアフレナをまともに灼熱の火炎が呑み込んだ。

 万事休すだ。この熱量のブレスをまともに受けては、身体ごと溶け去ってしまう。
 テアフレナにまともにあたったとき、テアフレナはそれを見計らっていたのか、策を弄した。
「炎壁(ファイヤーウォール)」
「な、なに防いだだと? 防御魔法か」

 テアフレナは炎系(アータル)の防御魔法を唱えた。レベル1にあたる防御魔法だ。
 テアフレナを包むように炎に耐性があるバリアが展開された。
 それは見事に灼熱の火炎をクリーンヒットさせるのを防いだ。
 防ぎ切ったところで、テアフレナは攻撃に転じた。
 莫大な魔法力が集束していく。

「今まであなたに殺されたものの、恨み、晴らす、この一撃で」
 次の瞬間、テアフレナは大きく身体を振り被った。
「やぁあぁ、地よ、大きな力を得てこの魔物を打ち砕け『地爆撃(マソイルメテオ)!』」
「な、なにい」

DWOOOOOOONNN!

 なんと、テアフレナは地(ソイル系)系のレベル6にあたる、最強魔法をドルギアスに叩き込んだ。瞬時に炸裂し、ドルギアスのいた地盤を地震で砕いた。

 ドルギアスが、地震でバランスを崩し、崩落した地盤へ巨体が落ち込んでいく。
 キュラもこのテアフレナの攻勢には目を見張った。
「地の魔法、そうか地震魔法、足元を」

「今よ、エリュー」
 この機会を待っていたかのように、エリューがすでに飛翔魔法で、ドルギアスが落ち込んだ上空に飛んできていた。
 次の瞬間、あの魔法が展開された。
「はい、やあぁあぁぁ、炎爆撃(フレアメテオ)」
 エリューの両手から、ヘルムンガンドに致命傷を与えることが出来た炎系最強魔法を叩き込んだ。
 強烈な炎の塊が何個も隕石のように落ちていく。

 あたりが爆炎で包まれ、炎が四散する。魔法の熱量で地盤がどろっと溶けていく。
 だが、テアフレナはこれ以上ダメージを与えないと奴が死なないのはわかっていた。
 テアフレナも両手に莫大な魔法力を集中させ、瞬時にそれを発動させた。

「もう一撃、『炎爆撃(フレアメテオ)』」
 フレアメテオが爆発展開中のところに、もう一撃、同じフレアメテオをテアフレナは炸裂させた。最強魔法が二つドルギアスにぶつけられた。
 更に、爆発はヒートアップし、爆炎が爆ぜて舞い散った。
「ぐはぁあぁぁ」

DWWOOOOOONN!

 余りに魔法の威力が凄まじく、中々、爆発が収まらない。
 その中から、ドルギアスの咆哮だけがきこえた。
 エリューは額の汗を拭った。
「やったの?」
 しばらくして、爆炎が収まると、ドルギアスが、地割れから浮かんできた。
 その姿は、傷を負い、血を流し、鱗が剥げ、背びれは溶け、まるで変わり果てた別人のようだった。あの大爆発で生きている。それをキュラたちは目の当たりにして、息を呑んだ。テアフレナには、奴には勝てない、そう悟った。
 だが、ダメージを確実に与えることには成功していた。

「ぐはは、面白い、たかが人間が追い詰められるとここまで潜在能力を発揮できるのか。我が魔獣の体をもってしても、ここまでやられるとは」

「くそ、最強魔法二つ撃ち込んでも死なないなんて、なんてやつだ」
 キュラがそういった矢先だった。

「へ、ドルギアスさんとやら、ボロボロじゃねーか」
「その声は」
「ファイ! お前、手が?」
 ファイだ。フラフラのファイをボンが支え、後ろにはイーミ姫がいた。
 ファイの手は折れていた。手がぐったりし、血が流れていた。
「へへ、どうってことねーさ」 
「ベルフェゴールはやったのか?」
 皆の視線がファイに集まる。ファイは照れ笑いをし、後ろを振り返り、軽く手でジェスチャーをしながらいった。

「キュラ様、ほら、ここに当人がよぉ」
「イーミ姫様」「姫様」
 みなの顔色が明るくなった。姫様を救出することに成功したからだ。
 キュラは嬉しそうな顔で目で合図を送った。

 形勢がこれで逆転した。
 シータラーは動揺の色を隠せなかった。しばらくの間、黙りしていた。
 固唾を呑んだとき、表情の色をシータラーは一変させた。
「なに、ベルフェゴール様がやられただと?」
「シータラー、お前、戦う意味がなくなってきたんじゃねーか、親分はいねーんだぞ」
「くはは、面白い。実に面白い。だが、ベルフェゴール様は恐らく真の姿ではないはずじゃ。どこかで生きておる」
「な、なに? 生きてるだと」
 ファイが怪訝な面持ちで答えた。
 ファイも動く方の腕で魔剣を持って、その切っ先をドルギアスに向けた。
 ドルギアスは躊躇っていた。

「くはは、くそ、形勢は不利か、ここはひとまず態勢を立て直すためにひかせてもらう。次に会う時はこうはいかんぞ、地獄に落としてやる」
 そう言い残すと、シータラーはその場から消えた。
 消えたその場は、ドルギアスに破壊しつくされていた。城の原型がないようだ。
「消えた?」
 キュラは疲れ果てた顔で、その場に座り込んだ。
 相当のスタミナと魔法力を使っていたからだ。
 みな、動けるものはキュラとファイの元へ走ってきた。
 ニミュエがファイの周りをくるくる何回も回った。
「やったーっ、ファイ、撃退よ、撃退!」
「ああ、ニミュエなんとかなったな。よかったぜ」
「妖精? キュラ、この方たちは?」
 イーミ姫がみたことのない人が沢山いたのでキュラに問うた。
 相槌を打たれたキュラは、疲れながらも目に涙をため、嬉しそうにいった。
「姫様、よかったです。後で説明いたします」
「キュラ」
「きっと、ベルフェゴールの体内に呪縛魔法で封印されて、お辛かったことでしょう。ご察しいたします」
 キュラが胸に手を当て敬礼しながらいった。
 そして、更に言葉を紡いだ。
「封じ込められたときは、もう一生、会えないかと思いました。心配いたしました」
「私もあの時、キュラが封印魔石に封印されてもう、会えないかなと思ったよ」
 イーミ姫が少し切なそうな顔でキュラに言った。
 イーミ姫とキュラ、テアフレナは年の頃も似ていて、仲良しだった。
 キュラが立ち上がり、辺りを見渡した。
 「とりあえず、作戦成功だ。傷を回復魔法で治して、記憶移動魔法でソレイユに帰るぞ、テアフレナ、エリュー、ニミュエ頼む」
「はい」
ニミュエはそういうとオネイロスの方へ向かった。
オネイロスをレイティスが支え、身体を引き釣りながらこっちへやってきている。
 アザレも完治はしてないものの、足を引きずりながら、きている。
 そこに、ニミュエとテアフレナが回復魔法をかけだした。
 だんだん、動きが魔法でよくなってきてるのが目に見えてわかる。
「生きていたか、ファイ」
 オネイロスがファイに近づきながら言った。
「ああ、なんとかな」
 ファイはグッドラックのポーズを取った。
 ひとまず、これで苦難は去った。だが、シータラーは生きている。ベルフェゴールも。
 ファイの脳裏の片隅にはそれが引っかかっていた。





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