344 / 395
第三十三章 惑星の意思
01 「わあ」アサキは思わず、感嘆の声をあげていた。芝生
しおりを挟む「わあ」
アサキは思わず、感嘆の声をあげていた。
芝生の坂を降りて、公園内の敷地に入り込んで人工樹の茂みを抜けたところ、目の前に池や噴水、様々な遊具類などの眺めが広がっていた。
こんなところにこんなものが、と思わず驚きの声が漏れてしまったのである。
「こりゃあ、まるで遊園地じゃのう」
治奈のいう通り、敷地には様々な遊具が設置されている。
ローラーコースターっぽい、列車やレール。
メリーゴーランドっぽい(ただし馬ではなく、なんだか未知の四足生物)もの。
何故だか、妙にぐにゃぐにゃと歪んだデザインになっている。さすがに、ローラーコースターのレールが歪んでいたら危険なので、そこは通常のようだが。
ぽい、というのは、アサキたちの知るものと色々なズレがあるからだ。
人工惑星が地球から旅立った西暦五千年と、アサキたちの知る仮想世界での西暦二千年、その感覚のズレに起因するものか、それとも別に作り手の思惑があってそこに左右された認識ズレか、そこまでは分からないことだが。
「この人工惑星は、地球の文明を知らしめる役割を兼ねてもいますから。先ほどの居住区と同様、異星人を勝手に想定して、汎用性も持たせた結果、ちょっとズレた感覚になっているのです」
ヴァイス語るには、そういうことのようである。
「こがいなところ訪れておる間に、シュヴァルツたちにサーバを壊されたりはせんのかのう?」
遊具を見回し眺めを楽しみながら、不安にもなったか治奈が尋ねる。
不安になるのも当然というものだろう。
この惑星の内部にある超次元量子コンピュータが作り出す仮想世界は、まだ現存しており、そこには史奈たち、仮想存在の人類がこれまでと変わらぬ生活をしているのだから。
少し前まで自分たちのいた、本物と思っていた世界であり、その世界をシュヴァルツたちは破壊しようとしているのだから。
「ま、大丈夫なんだろ」
言葉を返すのは、茶髪ポニーテールの少女カズミだ。
「あたし、コンピュータとかよく分からないけど。……この惑星全体がコンピュータみたいなものなんだろ? でも、これまで平気だったんだろ?」
「カズミさんの、仰る通りです。地下へはわたし、またはわたしが許可した者しか、行かれません」
白い衣装を着たブロンド髪の少女ヴァイスの、幼い顔ながらやわらかで落ち着いた声。
「であればこそ、あいつらはなにか画策しているわけだけど、でものんびり対策を立てる時間だけはあるってわけだな」
さっすがあたし、とでも思ったかカズミは笑みを浮かべてふふんと鼻を鳴らした。
「いえ、そうもいっていられないのです」
自画自賛も即行で否定されたが。
「なんでだよ! この栗毛!」
「あなたたちに、『呪縛』『制限』を感じません」
「はあ?」
カズミは、渋皮を口に入れた顔をそのまま横に傾けた。
「転造機により物質化された存在である以上は、権限的には『一般ユーザ』、わたしたち以上に制限があって然るべき。なのに、それを感じない」
「ヘイユー日本語でお願いネ! ……よく分かんねえけど、なんにも出来ないはずのあたしたちが、何故か反対にお前ら以上にやりたい放題やれちゃうってこと?」
カズミの質問に、ヴァイスは小さく頷いた。
栗毛といわれたさらさらのブロンド髪が、微かに揺れた。
「何故か、についてですが、元々が『奇跡』によって作られた存在だからだとわたしは推測します。もちろん、この人工惑星自体の意思がある以上は、破壊を望んだところで容易にはままならない。ですが、試みることは、不可能ではない」
「なるほどな」
手のひら叩くカズミであるが、すぐ顔を真っ赤にして、
「って違うよバカ! あたしらが、ここを破壊しようってのかよ!」
怒気満面、声を荒らげる。
暴風浴びようと、ヴァイスの顔色には微塵の変化も見られないが。
「いえ、そうではなく、あなたたちに呪縛がなくて、破壊行動も可能なのだとしたら……」
「ん? んん? ……あ、ああっ! そ、そうか、至垂のクソが、ってことか!」
「でもっ、でも、この宇宙が『絶対世界』だったんだよ! 考えられない!」
アサキは動揺しつつも、至垂がそうする可能性を否定をする。
至垂徳柳は、アサキと同じ合成生物である。
幼少より、つまり生み出されてからずっと、実験体とされていた。
その恨みを晴らすために、神として人類の上に君臨することを決意したのだ。
どこまでが本心かは分からないが、以前にアサキは本人から直接そう聞いている。
なんと小さなとは思うが、ともかくそれが本心ならば宇宙を滅ぼそうなどとは実におかしな話ではないか。
「そうだよ。あいつは神になって自分SUGEEEEEE!ってセコい力を誇示したいだけなんだから、対象である世界や人類は必要だろ」
「動機付けの話は、どうでもよいのです。大切なのは、呪縛されていない者があなたたち以外にもいるという事実」
ヴァイスは、感情動機論をすっぱり切り捨て、でも完全ドライにもなれないのかちょっと弱々しい表情になって、言葉を続ける。
「だから……悠長に構えても、いられないのです。……とはいえ、わたしは無限に等しい時間の流れを生きてきたから、猶予がないといっても、どう急げばよいか分からない。恥ずかしい話ですが、みなさんのお知恵にすがるしかない」
「大丈……」
……夫かどうか、分かるはずもないが、でも大丈夫! と、アサキはにこり優しくヴァイスへと微笑み掛けた。
と、その瞬間であった。
妙な叫び声が、聞こえてきたのは。
「パラッパッパッパパパパラッパッパラッパアアアアアア!」
ファンファーレ、のつもりであろうか。
公園のスピーカーから響く低い声でのスキャットだ。
声といっても、正しくは、スピーカーの振動による微弱な波動を魔力感知し、脳が勝手に音として捉えているだけだ。
この人工惑星に空気はないため、普通発声では音など生じないのである。
アサキたちの声も同様だ。彼女たちは、音声ではなく魔力と脳で会話をしているのだ。
表現の便宜上、すべて声や音であるとして今後も描写はするが。
「至垂えええええ、どこにいやがる!」
カズミの叫び声。
そう、スピーカーから轟くのは、至垂徳柳の声であった。
「男女! シダレ! ハナタレ! 出てこい!」
「さあて諸君、クイズです。第一問。ジャジャッ! わたしは、どこにいるでしょう」
妙にハイテンションかつ挑発的に、至垂の声が問う。
「うるせえバーカ!」
カズミは、きょろきょろ周囲を見回しながら、舌打ちし、激しく地面を踏んだ。
と、まるでなにかスイッチを踏んでしまったかのように、突然、
どおん、
少し離れたところで爆発が起き、地面が間欠泉のごとく噴き上がった。
どおん、
どおん
あちらこちらで爆音、地が弾け飛んだ。
「くそ! 畜生! さっき倒しときゃよかったあああああ!」
どおん、どおん、噴き上がる中、勘か予測か、単なる運か、あちらこちらへ足場を移動し、爆死の未来を回避しながら、カズミはイライラ口調を爆発させた。
「じゃけえ、こっちもまだこの身体に慣れてなくて、ろくに動けなかったけえね」
治奈も、やはり足場を変え、一瞬前までいた場所が爆発して石や砂が飛び散るのを、腕をひさしに防いでいる。
どこかにいるはずの至垂を探して、周囲を見回している。
「でも、この近くとは限らないよ……」
探知のため遠くへ魔力の触手を張り巡らそうと、脳内で呪文を非詠唱しようとするアサキであるが、その瞬間、びくりと肩を震わせた。
まさか、
「この下っ……」
連続する爆発や、近すぎるが故に気付かなかったのだろうか。
でも、いま確かになにかを感じた。
気配であるのか微かな震えであるのか、足元になにかを。
アサキが非詠唱をやめて視線を落とした、その瞬間、
「せーかいっ!」
という叫びとともに、爆発した。
アサキが立っている地面が、大きく揺れた。
激しい地面の隆起。
ぐらぐら揺れて砕ける地面を持ち上げながら、なにか巨大な塊が姿を現した。
蜘蛛だ。
背中に白銀の魔道着を着た魔法使い至垂徳柳の上半身を生やしている、足が六本しかない巨体な蜘蛛であった。
「あ、ああ……」
あまりの質量差に、アサキの目の前、視界が、完全に塞がっていた。
ざんっ、
六本のうち右の前足が、振り被った刀のごとく斜めに打ち下ろされていた。
突然のことに、すっかり油断していたか。
魔力の目で遠くを意識しようとしていた虚を、巧みに突かれたか……
袈裟掛けの一撃が、アサキの身体を引き裂いていた。
ほぼ同時に、巨蜘蛛の左前足が水平に動きガチッと骨と肉を断つ不快な音と共に、アサキの首が空中高く舞っていた。
飛ばされた首は、くるくる回って地へと落ちた。
弾み、転がり、続いて、
どさり、
首を失った胴体が、地に倒れた。
「うあああああああああ!」
カズミと治奈の悲鳴が、この人工の大地を震わせた。
空気もなく音が伝わるはずもないこの空間を、激しく。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ
暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】
5歳の時、母が亡くなった。
原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。
そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。
これからは姉と呼ぶようにと言われた。
そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。
母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。
私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。
たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。
でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。
でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ……
今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。
でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。
私は耐えられなかった。
もうすべてに………
病が治る見込みだってないのに。
なんて滑稽なのだろう。
もういや……
誰からも愛されないのも
誰からも必要とされないのも
治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。
気付けば私は家の外に出ていた。
元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。
特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。
私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。
これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。
飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。
隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。
だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。
そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。
わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました
ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。
大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。
ー---
全5章、最終話まで執筆済み。
第1章 6歳の聖女
第2章 8歳の大聖女
第3章 12歳の公爵令嬢
第4章 15歳の辺境聖女
第5章 17歳の愛し子
権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。
おまけの後日談投稿します(6/26)。
番外編投稿します(12/30-1/1)。
作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる