魔法使い×あさき☆彡

かつたけい

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第二十六章 夢でないのなら

02 どおん どおん 激しい振動が、伝わってくる。アサキ

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 どおん
 どおん

 激しい振動が、伝わってくる。
 アサキの、全身に。

 おそらく、誰かが叩いたり、蹴ったりしているのだ。
 壁の、向こうから。

 誰?
 誰がいるの?

 アサキは、不安になっていた。
 魔力の目により視覚はあるといえ、漆黒の闇とも認識しているこの狭い空間。どこかも分からないのに、外側から誰だかに壁をガンガン叩かれているのだから。

 一体、誰が……
 それとこの、音の感覚だけど、やっぱりおかしい……

 向こう側で、ここまで強く壁を殴るか蹴るかしているのだ。
 もっとこう、破れ鐘を叩くような、頭の内側で響く不快な感じがあっていいはず。
 それが、ない。
 やっぱり、耳で音を聞いていない。
 振動による空気の震えを、鼓膜が捉えて音と認識しているのではなく、皮膚への刺激を、脳が無理やり音に組み立てている感じだ。

 ガンガン叩かれる不安に怯えながらも、試しに、両耳に手のひらを当てて覆ってみる。
 離して、かぶせて、何度か繰り返してみたが、予想通りだ。
 聞こえる音に、寸分の変化もない。

 つまりわたしは音を聞いていない、ということになる。
 聞いてはいないけれど、でも……


 おーい


 はっきりと、声が聞こえる。
 脳はそう認識している。
 皮膚に伝わる振動にしては、はっきりしすぎだ。魔力の目でこの暗がりの中を見ているように、届く意思を、直接に捉えているのかも知れない。組織から教わったことはないけれど、いわば魔力の耳とでも呼ぼうか。


 おい。
 返事しろよ。
 誰かいるのかあ?


 なにがどうであれ、肉声にせよ違うにせよ、誰かが呼び掛けていることに違いはない。

 でも、誰?
 と、あらためて思った瞬間である。
 びりっ、と全身を電撃が突き抜けていた。

 自分へと呼び掛けている誰かの、この声というか、気配というか、よく知るものだったのである。

 カズミ、ちゃん?
 きっとカズミちゃんだ!
 でも、
 どうして、ここにいる?
 わたしの前で、はるちゃんと一緒に、ヴァイスタに……

 じゃあ、これは幻聴?
 これは夢?

 あとだ。
 いまはそんなことどうでもいい。

「カズミちゃん? いるよ、わたし、ここに! アサキ、わたしアサキだよ! 壁に囲まれた中で、出るところがないんだ!」

 叫んだ。
 届くかどうか分からないが、精一杯叫んだ。
 向こうの大声だって届いているから、きっと届くだろう。


 なにいってんだあ。お前バカなのかあ。


 ほら、
 すぐ言葉が返ってきた。
 この口の悪さ。間違いない、カズミちゃんだ。


 壁の中? からくり部屋じゃねえんだ。ドアがあんだろが!


 カズミちゃんと思われる女性の、乱暴な言葉遣いに、怒鳴り声。

「どこ? ないよ、ドアなんて。変な形の壁に、四方を囲まれているだけだよ」


 はあ?
 ったく、世話の掛かる女だなあ、てめえは。
 こっちはさっきから、そのドアをぶっ叩いてんだよ。
 じゃあ、ドアの右と左を殴るから、それで当たりをつけろ! こっちが右っ端、でこっちが左だ。分かったかオシッコタレの鼻水女。


 がんがん

 がんがん

 壁を殴る音が聞こえる。耳でなく、肌で感じる。
 感じた位置の壁を、まじまじと凝視してみると、なるほど、見付けた。
 注意しないとまったく気付かないが、確かに、壁の真ん中に扉があるようだ。

 でも、正面に立ってみても、まったく開く様子がない。
 ボタンとか、認証センサーの類も、見当たらない。

 開閉システムが壊れている?
 でも、ここに出入り口があると分かっているのなら……
 壁の向こう側が存在することが分かり、さらにそこにカズミちゃんがいる、そう分かっているのならば……

 ぐっ
 おそらく扉と壁との境であろう、という箇所へ、右手で手刀を作ると、そっと指先を突き当てた。
 そのまま、力を込めて押す。
 非詠唱魔法を使って、右手を魔力強化しながら。
 輝く右手の手刀を、押す。

 扉と壁との境へと、扉と壁とを砕きつつ、指先が少しめり込んだ。
 扉の側面への手掛かりが出来たので、今度は指に力を込めつつ、しっかり床を踏みしめつつ、全身に力を入れて、横へとスライドさせていく。

 分厚い鉄板なのかというほどに、扉は相当に重たかった。
 微動だにもしない。
 だが、それでもが渾身ガムシャラ力を込め続けていたら、がりがり砂を潰すような振動と共ともに、僅か横へと動いて、扉と壁との隙間が出来、広がった。

「お、お前っ、相変わらず規格外のことしやがるな!」

 壁の向こうから、驚く女性の声。
 こうして壁と扉に隙間が出来たためか、今度ははっきりと聞こえた。
 声が聞こえた、といっても、やはり鼓膜が捉えたものではないのだろうが。

 もうひと踏ん張りしようと、指を掛け直した。

 手伝おうというつもりか、反対側からも、指が差し込まれた。

 指と指とが、触れ合った。

 やっと闇から抜け出せて、そして人に会える、その相手はカズミなのだ。
 嬉しくないはずがない。
 だというのに、口をついて出たのは、自分でも予期せぬ言葉だった。

「誰?」

 一瞬、確かに指先にはカズミちゃんを感じた。
 でもそれは一瞬のことで、なんだか違和感だらけ、他人の感触だったのである。

「お前、誰だ?」

 向こう側からも、同じような言葉。

 カズミちゃんじゃないなら、そうもなるか。
 わたしのことなんか、知らないのだろうから。
 あれ……でもさっきわたし、アサキだって名乗ったはずだけど。
 その上での、言葉のやり取りがあったはずだけど。
 じゃあ、やっぱりカズミちゃん?
 規格外とか、よくからかい半分でわたしにいってた言葉だし。オシッコ漏らしとか、鼻タレ女とかも、やめてよって怒ってもやめてくれなくて。

 どういうことなんだ。
 誰が、いるというの?
 ここに、この扉の、向こうには。
 カズミちゃんなの?
 知らない人なの?

「お前が誰だろうとも構やしねえ。せっかく、ついに人に会えたんだ。あたしは開けるぞおおお!」

 また、カズミのような別人のような女子の、乱暴な声。

 ついに、人に会えた、って?
 どういう、こと?
 と、いまはそんな時じゃない。

「分かった。タイミング合わせて開けよう」
「おう。せーのっせーでっ」

 二人の力により、扉が、動き始めると一気に加速が付いて、一気に全開した。

「いって! 人差し指ちょっと巻き込まれたっ!」

 少女は、慌てて指を引き抜いた。

 薄桃色のシャツに、デニムスカート姿。
 茶色い髪の毛を、ポニーテールにした、少女。

 アサキと見つめ合い、

「ああ……」

 お互い、唖然としてしまっていた。
 ぽかんと、口を開けたまま。

 アサキの目の前に姿を見せた、向こう側から扉をガンガン殴っていた、言葉遣いのやたら乱暴な少女は、まさかというべきか、やはりというべきか、

「カズミ……ちゃん」
「アサキ……」

 ここは生者の世界か。
 死者の世界か。

 アサキは、ごくり唾を飲み込んだ。
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