魔法使い×あさき☆彡

かつたけい

文字の大きさ
上 下
268 / 395
第二十三章 お姉ちゃんと、妹

09 「逃さないというわけか」白銀の魔法使い至垂徳柳は、

しおりを挟む

「逃さないというわけか」

 白銀の魔法使いだれとくゆうは、ぴょんぴょん逃げる足を止めて、振り返りながら、アサキの剣を弾き返した。

「それは当然でしょう」

 ぐっと力を込めてアサキは、剣をしっかり握り直す。

 また、二人の剣による打ち合いが始まった。

 始まってすぐ、アサキは気付いた。
 至垂の太ももに。
 白銀の布地は裂けたままだが、覗き見える皮膚は完全に癒着しており、傷の痕跡を残すだけになっている。
 骨まで届くほどに深く断ったはずなのに、おそらくもう、皮膚の内側では筋肉組織もしっかり繋がっている。
 逃げながら、非詠唱魔法で治していたのだろう。

 でも、一人でこんな抵抗を続けていて、なにになる?
 他の人たちは、もうみな捕まったというのに。

 ただ、無駄なあがきをしているだけなのか。
 策、考えが、あるのか。

 なにがどうであれ、なにをすべきかは変わらないけれど。
 この人とまともに戦えるのが、わたししかいないというのならば。

 いらない力だけど。
 本当は、こんな、戦う力なんて。
 戦いたくなんかない。
 剣なんか、持ちたくないよ。
 いつもみんなと、笑っていたい。
 楽しく、平和に過ごしたい。
 でも、そのためにも……いまは、いまだけは!

 天井の灯りが壁に作り出す、親子ほども大きさの違う二つの影が、手にした剣を打ち合わせている。
 押しているのは小さい方だ。

「負けんじゃねえぞお!」

 追い付いたカズミたちが、傷だらけのボロボロな姿のまま、戦いへ声援を送っている。見守っている。

 その中で一人、
 広作班リーダーの寿ばるが、左腕のリストフォンを耳に近付けて、誰かと通話をしている。

 なお彼女の右肩から先はない。至垂の返り討ちを受けて、炭化させられ空気に溶けている。

 通話を終えたようで、左腕を下げた。右腕を失ってなお強気な顔を、少し上げた。

「リヒト所長、だれ! 聞け! メンシュヴェルト東京都所属の魔法使いたちが、続々とここへ集結している。近隣県からも、リーダークラスの実力を持つ者へ召集を掛けている。もう、お前に逃げる場所はないと知れ! 確かに我々一人一人は、お前に比べれば弱い。だけど、令堂とこうして戦っていることへの疲労に、加えてこちらの数だ。逃げ切れると思うか?」

 確かに、いくら至垂が無類の強さであっても、体力の完全に果てたところを数でこられては、是非とも出来ないだろう。

 仮に、その無数にいる魔法使いとの戦いで、負けなかったとしても、しかしその間に体力を回復させたアサキと、再び向き合うことになるのだから。

 至垂は先ほど、アサキとの劣勢に逃げ出そうとしたくらいであり、つまりは動揺を誘うに充分過ぎるほどの、仁礼寿春の言葉であった。

 しかし、これはどうしたことか。
 なにがそうさせるのか、至垂はアサキとの打ち合いの最中、にやり深い笑みを浮かべたのである。

「大量に集めてくれるんなら、願ったりかなったりだなあ」

 笑みを言葉にしたものか、本心を隠すための笑みなのか。とにかくリヒト所長は、なんとも嬉しそうな顔で、そういったのである。

「見え透いた強がりをいう。お前が化け物だろうと、選りすぐられた魔法使いマギマイスター数百を相手に、勝てるはずはない」

 広作班リーダーの、その言葉こそ、強がりであったのかも知れない。
 事実どうかは分からないが、そうも見えてしまうほどに、至垂の顔に浮かぶ笑みが、心底楽しげだったのである。

「敵も味方も、勝つも負けるもないだろう? だってきみたちはあ、たかが道具じゃないか」

 根拠は見えないが、そこに確固たる自信あるからには、根拠もあると見るべきなのか。圧倒的な優位を示すはずの、広作班リーダーの言葉は、見えない根拠に小さく握り潰されてしまっていた。

 だが、
 反対に、というべきか、
 だからこそ、というべきか、

「ならあなたこそ、悪魔に使役されているだけの道具だ!」

 アサキが、頭にきてしまっていた。
 平和のために戦っているだけの魔法使いを、道具呼ばわりで嘲笑われたのだから。

 その、怒りにより冷静さを欠いた瞬間を、白銀の魔法使い至垂は逃さなかった。
 剣、と見せかけてブラインド気味にアサキの頬へ左拳を打ち込むと、そのままその手で赤い髪の毛を掴み、顔面を床へと叩き付けたのである。

 単純な筋力量だけであれば、至垂の方が遥か上である。アサキは顔を潰されて、頭ごと、砕かれた床の中へと埋まった。

 逆転勝利に、白銀の魔法使いは、ほくそ笑んだ。
 しかし、今度は彼女の方こそが、その油断を突かれて苦汁を飲むことになった。

 床に叩き伏せられているアサキが、まだ意識あり、背中のバネを使った蹴りを放った。
 それが、至垂の顎を捉えたのである。

 蹴りの静かな動きとは裏腹の、とんでもない破壊力に、

「がはっ!」

 至垂の身体は、吹き飛ばされていた。

 手で床を弾いて、素早く起き上がったアサキ。
 自分が吹き飛ばした、白銀の魔法使いへと、剣を握り直しながら飛び込んだ。

 人と思うな!

 自分にいい聞かせながら、赤毛の少女、アサキは、躊躇わず、剣を振る。
 当たれば胴体を両断といった、鋭い一撃を。

 アサキに躊躇いは、なかった。
 でも、外れた。

 白銀の魔法使い至垂が、床へ落ち掛けたところつま先で自らを跳躍させて、間一髪、かわしたのである。
 かわしざま、空中で長剣を払う。赤毛の少女を目掛けて。

 すっとしゃがみ込む赤い頭髪を、ちっ、と長剣が薙いだ。
 床に両膝を着いたアサキは、剣ごと右手をつくと、非詠唱で呪文を唱えた。

 ついた右手を中心に生じた、青白い光が、一瞬にして大きく広がる。
 直径十メートルはあろうという、巨大な魔法陣だ。

 その魔法陣へと、白銀の魔法使い至垂の身体が落下、着地した瞬間、部屋全体が真っ白に溶けた。
 ばじっ、
 と高圧電流に触れたような音と共に。

 明暗反転のその一瞬が終わると、巨大な魔法陣の中央に、白銀の魔法使い至垂の巨体が倒れていた。

 はあ、はあ。
 息を切らせて仰向けになっている、白銀の魔法使い至垂徳柳。

 はあ、はあ。
 傍らに立ち、油断なく剣を握りしめている、赤い魔道着、アサキ。

 至垂は、息を切らせながら、胸を大きく上下させながら、

「負けた。……降参だ」

 ついに、降参宣言の言葉を発したのである。

 ふう、とため息を吐くアサキ。
 油断はしていない。だが間違いなく、安堵の混じった。

 こうして、ひとまずの戦闘は終了した。

 だが、まだ終わりではなかった。
 預言者ならぬ身で、察しろというのも酷ではあるが。

 ある意味で、始まりですらあった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...