魔法使い×あさき☆彡

かつたけい

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第十九章 なんのために殺し合うのか

04 「お、おい、どこ、行っちまったんだよ、アサキは」カ

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「お、おい、どこ、行っちまったんだよ、アサキは」

 カズミは、あたりをきょろきょろ、アサキの消えた壁へと近付いて、手のひらで叩いた。

「別に、次元を越えたとかじゃなく、隣の部屋に移動しただけだよ。誰にも邪魔されないためにな。……好きなんだよ、さいとうは、あの部屋で戦うのが」

 楽しそうに説明しているのは、黒に青ラインの入った、スカートタイプの魔道着、やすながやすである。

 なお、斉藤というのはさいとう
 アサキと共に壁の向こうに姿を消した、白スカートの魔法使いである。

「そこで斉藤は令堂和咲を殺し、ここであたしはお前ら全員を殺し、それぞれが、あたしらこそが最強の二人であることを、証明するってわけだ」

 手の指を組み、こきぱきと鳴らすと、唇の片端を釣り上げた。

「はあ?」

 カズミは、手を翳した自分の片耳を、黒スカートの魔法使い、康永保江へと向けた。

「耳遠くなったのかなあ。誰が最強で、誰を殺すってえ?」

 強気で、気怠そうな、カズミの笑み。
 不安や恐怖も当然ありつつ、それ以上に、見くびられていることが我慢ならないのだろう。

 黒スカート、康永保江は、親指を立ててカズミへと向ける。
 その親指を、今度は自分の首に当て、ぴっ、とかっ切る仕草を取った。

「殺ってみやがれ! あんまり舐めんなあ!」

 二本のナイフを取り出し構えたカズミは、怒気満面、身体を飛び込ませた。
 にやり笑みを浮かべている、黒スカートの魔法使い、康永保江へと。

 右のナイフを振り、左を振り、それは風を起こし、空気を切り裂いた。
 目にも止まらぬ早業である。

 だが、ただ風を起こし空気を切り裂いただけであった。
 攻撃が楽々見切られ、かすりもしないのである。

 残像を残しつつかわした黒スカートの魔法使い、康永保江は、回り込んでカズミの側面から足を蹴り上げて、強引に空中へと浮かせた。
 浮かせたその足を掴み、円弧を描いて床へと叩き付けた。

 ぐあっ、
 遠心力で床へ落とされた、カズミの呻き声。

 黒スカートの魔法使いは、まだ足を掴んだまま。
 ぶん、ぶん、
 とカズミの身体をハンマー投げの要領で振り回すと、壁へと勢いよく放り投げた。

 ぐじゃり、
 壁に激突して、肉の潰れる不快な音。

 カズミの身体が、ではない。

「治奈!」

 驚いて叫んだのは、カズミである。

 そしてカズミを抱きかかえ、壁との間で潰れているのは、治奈であった。
 投げられたカズミが壁に打ち付けられる寸前、治奈が間に入り、受け止め、代わって自らがその勢いにぐしゃりと潰されたのである。

 カズミを下ろした治奈は、がくり膝を着いた。

「思い切り、全身を打ったけえね」

 ぐっ、と呻き、顔をしかめると、後頭部をおさえ、さすった。

「助かったよ、治奈。つうか無茶すんな。酷い目にあったフミちゃんを、誰が抱き締めてやるんだよ」

 苦笑しながらカズミは、腰を少し落とす。
 二本のナイフを、構え直した。
 そして、黒スカートの魔法使い、康永保江を、ぎろり睨んだ。
 むしろ心地よさげ、
 という反応、表情に、睨み付ける顔がさらに険しくなった。

 ぎりり、歯を軋らせる。

「確かにこの女、信じられないくらい強い。……プライドがとか、そんなんどうでもいい。みんなで、同時に攻めっぞ」
「最初からそうすべきでしょ」

 万延子は苦笑しながら、カズミの横に立った。
 両手の木刀を、正眼に構える。
 薄青色のスカートと木刀、そしておでこに掛けた青白ストライプの巨大メガネが、なんともアンマッチであるが、まるで気にせず、真剣な表情である。

 銀黒の髪と魔道着の嘉嶋祥子も、小さく頷くと、二人と肩を並べた。
 トレードマークともいえる、柄のない巨大戦斧を、構え直した。

 床を蹴っていた。
 カズミ、祥子、延子の三人が。
 全員、まったく同じタイミングで。
 誰が合図をしたわけでもないのに。
 ぴったり揃った呼吸であった。

 だが、次の瞬間には、床に張っていた。
 三人も、床に打ち付けられて、苦悶の表情でのたうち回っていた。

 別段、特殊なことが起きたわけでもない。

 まず、康永保江が、自ら一歩を詰めて、延子の握る木刀を、側面から蹴った。
 それにより、ぐんと曲がった木刀の先端が、蹴りの力をもって、カズミの腹部へとめり込んだ。
 康永保江の、木刀への蹴り足は、そのまま反発を利用して、万延子の顎へと後ろ回し蹴り。
 斜め上へと、顔を首からねじ切るような凄まじい打撃にのけぞった延子の、腹を蹴り飛ばす。
 蹴られた延子の身体が飛んで、祥子へとぶつかった。
 祥子が混乱しながらもらぐっと力を入れて堪えようとしたところ、黒スカートの魔法使いは、上から頭を押さえ付けて、足払いしつつ床に顔面を叩き付けた。髪の毛掴んで少し起こすと、また叩き付けた。

 と、ただそれだけである。
 それだけであるが、あまりにも速く、あまりにも力強かった。

 いまの、一瞬の早業により、倒れている三人。
 先ほど、カズミを庇って身体を打ち付け、まだうずくまっている治奈。

 四人の魔法使いを、見下ろしながら、

「お前ら、いくらなんでも……弱過ぎねえか?」

 黒スカートの魔法使い、康永保江は、ちょっとつまらなそうに、頭を掻いた。
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