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第十三章 思い出したくない!
06 さすがに不意を突かれたか、無防備な状態で、カズミ
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さすがに不意を突かれたか、無防備な状態で、カズミの鉄拳を顔面に受けた、真紅の魔道着姿の慶賀応芽は、吹き飛ばされて壁に身体を打ち付けた。
足をよろけさせ、壁を背で擦りながら、床へと倒れた。
「デタラメ抜かして、アサキのバカな頭を、混乱させようとしてんじゃねえぞ!」
だんっ、カズミが拳を強く握りながら、激しく床を踏み付けると、配線のため薄いタイル状の床板が、べぎりと割れ砕けてしまった。
壁に吹き飛ばされた応芽は、ゆっくり立ち上がると、なにごともない表情で自分の頬をさすりながら、カズミを一瞥した。
「なんや、雑魚か」
薄い笑みを浮かべた。
「てめえごときに雑魚呼ばわりされる筋合いは、ねえんだよ! ……やっぱり裏切り者だったな。つうか、自分の組織までも敵に回して、なにを考えてやがんだ」
「わたしをね、超ヴァイスタにして、新しい世界に行く……って」
アサキが、腕を押さえて、剣で切られた痛みに顔を歪めながら説明をした。
「はあ? なんだそりゃあ。くっだらねえ!」
カズミは、再び踵で床を踏み抜くと、小さな声で呪文の詠唱を始める。
頭上から二本のナイフが落ちて、左右それぞれの手の中に収まった。
ぎゅ、と柄を握り締め、前方に立つ応芽を睨み付けると、ちらり後ろへと視線をそらし、怒った顔のまま口を歪める。
「アサキ、てめえも勝手なことしてんじゃねえぞ。須黒先生が気付いたからよかったものの」
「ごめん。誰にも迷惑を掛けたくなかったから」
アサキは本心から謝った。
迷惑を掛けたくなかったのは本当だが、確かに、だからといって勝手な行動をしてよいものではない。
「みずくせえんだよお前は。あとでぶん殴ってやるから、その怪我しっかり治療しとけ」
カズミは、前へと向き直る。
向き直ったその視界に入ったのは、応芽のいやらしい笑みであった。
「あとで、がもしもあったならな」
かちゃり、かちゃり、
剣の切っ先を杖にして床を突きながら、慶賀応芽が、ゆっくりとカズミへと近寄っていく。
カズミは、お手玉の要領で左右のナイフを交差させ、持ち換えると、
「あとがないのは、お前だよ。この関西女」
応芽を睨みながら、唇の両端を釣り上げた。
戦いは予告もなく、どちらからということなく、まるで示し合わせていたかのように、始まった。
二人、それぞれが相手へと飛び込みながら、己の手にする得物を相手へと振るい、叩き付けたのである。
ナイフと剣、金属と金属がぶつかり合い、軋る音、火花は爆ぜる。
後ろへと距離を取った瞬間には、二人、もう距離を詰めて打ち付け合っていた。
唸り、斜め上へと疾る剣を、身を低くして紙一枚布一枚のぎりぎりでかわしたカズミは、その瞬間に応芽の懐へと飛び込んで、左手のナイフを内から外へと払って、胸を、真紅の魔道着を切り裂いていた。
いや、裂けては、いなかった。攻撃は確実に当たっていたが、かちんと音がするのみで跳ね返されていた。
「きかへんわボケ!」
どおん、と建物を震わす低い爆音。
応芽の左の拳が、カズミの顔面を捉え、文字通り爆撃の破壊力で吹き飛ばしたのである。
応芽には、アサキの持つ非詠唱能力はない。
通常詠唱している様子もなかった。
つまり、拳の破壊力を増す術式は施されていないはず。
それがこの結果。
この真紅の魔道着が、魔力を効率的に体内循環させているためであろう。魔法使いとしての基礎値が格段に向上し、肉体能力にまで及んでいるのだ。
ひとたまりもなく飛ばされたカズミの身体は、飛ばされたほぼその瞬間には、ぐしゃり壁へと叩き付けられていた。
魔道着の防御性能がなければ、文字通り潰れ、肉塊と化していたかも知れない。
「くそったれ! 油断した!」
頭をふらふらさせながらも、しっかり足を着き、左右のナイフを構え直そうとするカズミであるが、
「ブリッツシュラーク、ゼプテクション!」
顔を上げ、前を向いた瞬間、視界に飛び込んできたのは、
早口で呪文詠唱しながら、ぐんと迫る、応芽の姿だった。
応芽は剣を投げ捨て、今度こそは魔法強化された青白く光る拳で、カズミを殴り付けていた。
殴られ、背後の壁に再び身体を打ち付けられたカズミは、ぐうっ、と呻き声を発し、痛みと衝撃とに顔をぐしゃぐしゃに歪めた。
「しまいや!」
唸る応芽の拳が、カズミの腹部へとめり込んだ。
爆発した。
ぐぅ……
カズミの目が、襲う苦痛に見開かれていた。
そのまま崩折れ、どさり音を立てて倒れたかと思うと、着ていた青い魔道着が、ふわり空気に溶けて消えた。
変身前である、我孫子第三中学校の制服姿に戻っていた。
「畜生……」
変身が解除されたことに焦り、舌打ちしながら、再び立ち上がろうと、床に両手を置くカズミであるが、その首へと、ぶん、と唸りを上げて、斜め上から、剣の刃が振り下ろされていた。
ぴたり、
と、静止していた。
剣の切っ先が、
カズミの喉元に、
薄皮に触れる触れないというくらいの僅かな距離に、突き付けられていた。
カズミは、くっと呻き声を出すと、応芽を見上げ、睨んだ。
「殺さへんよ」
応芽の、喜悦に満ちた声が、しんとした部屋に響いた。
足をよろけさせ、壁を背で擦りながら、床へと倒れた。
「デタラメ抜かして、アサキのバカな頭を、混乱させようとしてんじゃねえぞ!」
だんっ、カズミが拳を強く握りながら、激しく床を踏み付けると、配線のため薄いタイル状の床板が、べぎりと割れ砕けてしまった。
壁に吹き飛ばされた応芽は、ゆっくり立ち上がると、なにごともない表情で自分の頬をさすりながら、カズミを一瞥した。
「なんや、雑魚か」
薄い笑みを浮かべた。
「てめえごときに雑魚呼ばわりされる筋合いは、ねえんだよ! ……やっぱり裏切り者だったな。つうか、自分の組織までも敵に回して、なにを考えてやがんだ」
「わたしをね、超ヴァイスタにして、新しい世界に行く……って」
アサキが、腕を押さえて、剣で切られた痛みに顔を歪めながら説明をした。
「はあ? なんだそりゃあ。くっだらねえ!」
カズミは、再び踵で床を踏み抜くと、小さな声で呪文の詠唱を始める。
頭上から二本のナイフが落ちて、左右それぞれの手の中に収まった。
ぎゅ、と柄を握り締め、前方に立つ応芽を睨み付けると、ちらり後ろへと視線をそらし、怒った顔のまま口を歪める。
「アサキ、てめえも勝手なことしてんじゃねえぞ。須黒先生が気付いたからよかったものの」
「ごめん。誰にも迷惑を掛けたくなかったから」
アサキは本心から謝った。
迷惑を掛けたくなかったのは本当だが、確かに、だからといって勝手な行動をしてよいものではない。
「みずくせえんだよお前は。あとでぶん殴ってやるから、その怪我しっかり治療しとけ」
カズミは、前へと向き直る。
向き直ったその視界に入ったのは、応芽のいやらしい笑みであった。
「あとで、がもしもあったならな」
かちゃり、かちゃり、
剣の切っ先を杖にして床を突きながら、慶賀応芽が、ゆっくりとカズミへと近寄っていく。
カズミは、お手玉の要領で左右のナイフを交差させ、持ち換えると、
「あとがないのは、お前だよ。この関西女」
応芽を睨みながら、唇の両端を釣り上げた。
戦いは予告もなく、どちらからということなく、まるで示し合わせていたかのように、始まった。
二人、それぞれが相手へと飛び込みながら、己の手にする得物を相手へと振るい、叩き付けたのである。
ナイフと剣、金属と金属がぶつかり合い、軋る音、火花は爆ぜる。
後ろへと距離を取った瞬間には、二人、もう距離を詰めて打ち付け合っていた。
唸り、斜め上へと疾る剣を、身を低くして紙一枚布一枚のぎりぎりでかわしたカズミは、その瞬間に応芽の懐へと飛び込んで、左手のナイフを内から外へと払って、胸を、真紅の魔道着を切り裂いていた。
いや、裂けては、いなかった。攻撃は確実に当たっていたが、かちんと音がするのみで跳ね返されていた。
「きかへんわボケ!」
どおん、と建物を震わす低い爆音。
応芽の左の拳が、カズミの顔面を捉え、文字通り爆撃の破壊力で吹き飛ばしたのである。
応芽には、アサキの持つ非詠唱能力はない。
通常詠唱している様子もなかった。
つまり、拳の破壊力を増す術式は施されていないはず。
それがこの結果。
この真紅の魔道着が、魔力を効率的に体内循環させているためであろう。魔法使いとしての基礎値が格段に向上し、肉体能力にまで及んでいるのだ。
ひとたまりもなく飛ばされたカズミの身体は、飛ばされたほぼその瞬間には、ぐしゃり壁へと叩き付けられていた。
魔道着の防御性能がなければ、文字通り潰れ、肉塊と化していたかも知れない。
「くそったれ! 油断した!」
頭をふらふらさせながらも、しっかり足を着き、左右のナイフを構え直そうとするカズミであるが、
「ブリッツシュラーク、ゼプテクション!」
顔を上げ、前を向いた瞬間、視界に飛び込んできたのは、
早口で呪文詠唱しながら、ぐんと迫る、応芽の姿だった。
応芽は剣を投げ捨て、今度こそは魔法強化された青白く光る拳で、カズミを殴り付けていた。
殴られ、背後の壁に再び身体を打ち付けられたカズミは、ぐうっ、と呻き声を発し、痛みと衝撃とに顔をぐしゃぐしゃに歪めた。
「しまいや!」
唸る応芽の拳が、カズミの腹部へとめり込んだ。
爆発した。
ぐぅ……
カズミの目が、襲う苦痛に見開かれていた。
そのまま崩折れ、どさり音を立てて倒れたかと思うと、着ていた青い魔道着が、ふわり空気に溶けて消えた。
変身前である、我孫子第三中学校の制服姿に戻っていた。
「畜生……」
変身が解除されたことに焦り、舌打ちしながら、再び立ち上がろうと、床に両手を置くカズミであるが、その首へと、ぶん、と唸りを上げて、斜め上から、剣の刃が振り下ろされていた。
ぴたり、
と、静止していた。
剣の切っ先が、
カズミの喉元に、
薄皮に触れる触れないというくらいの僅かな距離に、突き付けられていた。
カズミは、くっと呻き声を出すと、応芽を見上げ、睨んだ。
「殺さへんよ」
応芽の、喜悦に満ちた声が、しんとした部屋に響いた。
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