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第十三章 思い出したくない!
02 振り上げ、振り下ろし、払い、突き、薙ぎ、叩く。剣の
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振り上げ、振り下ろし、払い、突き、薙ぎ、叩く。
剣の切っ先が残像を作り、何本にも見える。
中学校の制服姿、つまりは生身の身体で、ましてや素手で、このような攻撃を避け続けられるはずもない。だからアサキは、魔力消耗のことなどなりふり構わず、また光の剣を作り出して、必死にその攻撃を受け続けていた。
生身の身体で、ここまで持ちこたえることが出来ているのは、潜在魔力もさることなれど、最近ずっと剣道の特訓に打ち込んでいた、その賜物であろう。
すっかり疲労しているくせに尽きぬ魔力、驚異的な粘りに、応芽は段々とイライラが蓄積されているようで、剣を振るい続けながら苦々しげに舌打ちをした。
応芽がイラつこうが、舌打ちしようが、誰がどう見ても劣勢なのはアサキの方であるが。
手にしている光の剣は、見た目は華やかだが所詮は代替品であり、形状維持にすら魔力を消耗してしまう。
であるというのに、加えて、クラフトや魔道着がないため、体内の魔力伝導効率は悪い。
さらには、魔道着はすなわち魔術処理を施された防具であり、それを着ていない。魔術処理された武器による攻撃など、かすめられただけでも致命的だ。
対して応芽は、初めてでまだ慣れていないとはいえ、強力な魔道着を着ている。
大人と子供である。
アサキは完全に、防戦一方に追い込まれていた。
それが膠着状態にあるのは、ただアサキの必死さにあり、応芽が手を抜いているわけでは、決してないのだろう。
本人がいっていた通り、殺すつもりまではないのかも知れない。
だけど、四肢を切り落とすに躊躇いのないくらいには、いや、殺すつもりはなくとも死んだら死んだで構わない、という程度には、応芽は本気なのだろう。その表情から、打ち込む力加減から。
そんな攻撃をアサキは、ほぼ生身で、受け続けているのである。当然、いつまでも耐えられるものではなかった。
「うあ!」
鋭い悲鳴。
制服が裂けて、右の二の腕から、鮮血が上がっていた。
受け損ない、かわし損ない、剣の切っ先にごそっと肉をえぐられたのである。
激痛に顔を歪めながらもアサキは、バックステップで距離を取った。
魔法による応急処置のため、手のひらを傷口へと当てた。
だがそこへ、応芽が一気に詰める。
「治療なんかさせへんよ!」
ぶん、とアサキの頭上で風が唸る。
素早く身を屈めたすぐ上の空間を、応芽の剣が水平に通過した。
遠心力で自身が引っ張られてもおかしくない、大振りな攻撃であったにもかかわらず、その刹那には、戻された切っ先が、アサキの顔へと突き出されていた。
アサキは、横へ跳んで、ごろり転がりかわしていた。
油断しなかったからというよりは、単なる無意識、本能と反射で。
転がる勢いで立ち上がろうとするが、その瞬間を狙って、刃がさあっと空気を切り裂き落ちてくる。
また瞬間的に、輝きを集積、光の剣を作り出し、受け流しながら、今度こそ立ち上がった。
二人は剣を打ち合わせると、そのまま鍔迫り合いもつれ込んだ。
「ウメちゃんが、こんなに、剣が使えるなんて、思わなかった……」
アサキは、苦痛に顔を歪め、肩で大きく呼吸をしながら、荒い息にかすれた声で言葉を乗せた。
「リヒトのチームでは、後方支援で槍を使うとったが、練習では剣は基本やからな。……あたしが令堂に負けとるのは、潜在魔力だけやで。槍でも剣でも、体術でも負けへんよ」
「だけ、ではないでしょう。この世界を救いたい、ヴァイスタからみんなを守りたい、そういった気持ちの量で、わたしに勝ってみせてよ」
「わけの分からへんことを」
「……この世界を、なくそうとしなくても……新しい世界へ行かなくても、雲音ちゃんを助けられる方法は、あるんじゃないの?」
「ない」
応芽は即答した。
「いや、この世界がなくなるかは分からへんけど、新しい世界へ行かなければ、砕けた雲音の魂は救えない」
「魂が、砕けた?」
寝たきりであることは知っていたが、そのような話であったとは。
そうか……
だからウメちゃんは、神の力を手に入れたかったのか。
新しい世界へ、行きたかったのか。
でも、
でも……
だからって……
「新しい世界に行く方法はな、リヒトが散々に調べとるんや。あたしみたいな特使は、情報をある程度は詳しく教えられるから、ある程度は知っとった。天三中の校長室で、データを見よう考えたのは、ただ念押しをしたかっただけでな。そのデータを見たことで……」
応芽は言葉を切ると、顔を険しく変化させ、ぎりぎりと歯を軋らせながら、言葉を続けた。
「思いは、確信に変わった。やはり導き手がおらんと、滅ぶ。絶対世界へは、行かれへん。……超ヴァイスタを作り上げるしか、雲音を助ける方法が、ないんや!」
応芽は声を荒らげながら、剣を振り上げ、打ち下ろした。
まるで取り憑かれたように、何度も、何度も。
変身も出来ず生身で耐えている、赤毛の少女へと。
赤毛の少女、アサキは、ざっくり深く切られた腕の治療も出来ないまま、光の剣を握り締めて、応芽の狂気を受け続けた。
受ける度に、辛さが伝わってくる。
受ける度に、必死さが、泣きたい気持ちが、伝わってくる。
それほどまでに、助けたいんだ。
妹さん、雲音ちゃんのことを。
でも、
でも……それをいうならわたしだって、ここで負けるわけにはいかない。
そうだ。
ウメちゃんの、この悲しい気持ちを救うためにも。
いつかみんなで、笑うためにも。
絶対に……
「負けられないんだ!」
光の剣で、応芽の攻撃を跳ね上げていた。
「負けとるやろ!」
荒々しく言葉を被せながら、応芽は、アサキの持つ光の剣へ、自分の剣を叩き付けて、叩き落とそうとする。
そうなること、アサキは狙っていた。
剣を引いて攻撃を流しつつ、くるり身体を一回転。
ふんわりいなされて、応芽はバランスを崩し、がくりよろける。
と、その応芽の腹へと、アサキは、さっと突き出した左の手のひら当てた。
その小さな手が、カッと青白い輝きを放ったかに見えたその瞬間には、真紅の魔道着を着た応芽の身体は、体重などなきがごとく、後ろへと飛ばされていた。
完全に不意を突かれた応芽は、衝撃に身体が動かす、受け身を取ることすら出来ずに、背中と頭を壁へと強打した。
壁が砕けて、身体の半分がめり込んでいた。
ずるり、壁から剥がれた真紅の魔道着、応芽の身体が落ちる。
着地をすると同時に、ふらふらっとよろめいたが、すぐに正面を見据えて、姿勢を正す。
打撃を受けたお腹へと、ゆっくりと自分の手を持って行き、軽くさすった。
さすりながら、アサキへと視線を向けると、なんとも楽しげな笑みを浮かべた。
「驚いたわ。まさか、魔道着もなしにここまでやれるとは。……こんな嬉しいことないで、こんな嬉しいことは」
歩を踏み、ゆっくりとアサキへと近寄る応芽。
顔に浮かんだ、その楽しげな笑みが、
「つまりは、超ヴァイスタの器やと、証明しとるわけやからなあ」
さらに濃いものになっていた。
「わたしは、そんなのじゃない」
一瞬にしてその言葉を、その笑みを、アサキは突っぱねた。
そうだ。
ただ、必死なだけだ。
魔道着なしで頑張れるのは。
それ以上でも以下でもない。
ただ、みんなを助けたいだけなんだ。
みんなで、笑っていたいだけなんだ。
だから……
剣の切っ先が残像を作り、何本にも見える。
中学校の制服姿、つまりは生身の身体で、ましてや素手で、このような攻撃を避け続けられるはずもない。だからアサキは、魔力消耗のことなどなりふり構わず、また光の剣を作り出して、必死にその攻撃を受け続けていた。
生身の身体で、ここまで持ちこたえることが出来ているのは、潜在魔力もさることなれど、最近ずっと剣道の特訓に打ち込んでいた、その賜物であろう。
すっかり疲労しているくせに尽きぬ魔力、驚異的な粘りに、応芽は段々とイライラが蓄積されているようで、剣を振るい続けながら苦々しげに舌打ちをした。
応芽がイラつこうが、舌打ちしようが、誰がどう見ても劣勢なのはアサキの方であるが。
手にしている光の剣は、見た目は華やかだが所詮は代替品であり、形状維持にすら魔力を消耗してしまう。
であるというのに、加えて、クラフトや魔道着がないため、体内の魔力伝導効率は悪い。
さらには、魔道着はすなわち魔術処理を施された防具であり、それを着ていない。魔術処理された武器による攻撃など、かすめられただけでも致命的だ。
対して応芽は、初めてでまだ慣れていないとはいえ、強力な魔道着を着ている。
大人と子供である。
アサキは完全に、防戦一方に追い込まれていた。
それが膠着状態にあるのは、ただアサキの必死さにあり、応芽が手を抜いているわけでは、決してないのだろう。
本人がいっていた通り、殺すつもりまではないのかも知れない。
だけど、四肢を切り落とすに躊躇いのないくらいには、いや、殺すつもりはなくとも死んだら死んだで構わない、という程度には、応芽は本気なのだろう。その表情から、打ち込む力加減から。
そんな攻撃をアサキは、ほぼ生身で、受け続けているのである。当然、いつまでも耐えられるものではなかった。
「うあ!」
鋭い悲鳴。
制服が裂けて、右の二の腕から、鮮血が上がっていた。
受け損ない、かわし損ない、剣の切っ先にごそっと肉をえぐられたのである。
激痛に顔を歪めながらもアサキは、バックステップで距離を取った。
魔法による応急処置のため、手のひらを傷口へと当てた。
だがそこへ、応芽が一気に詰める。
「治療なんかさせへんよ!」
ぶん、とアサキの頭上で風が唸る。
素早く身を屈めたすぐ上の空間を、応芽の剣が水平に通過した。
遠心力で自身が引っ張られてもおかしくない、大振りな攻撃であったにもかかわらず、その刹那には、戻された切っ先が、アサキの顔へと突き出されていた。
アサキは、横へ跳んで、ごろり転がりかわしていた。
油断しなかったからというよりは、単なる無意識、本能と反射で。
転がる勢いで立ち上がろうとするが、その瞬間を狙って、刃がさあっと空気を切り裂き落ちてくる。
また瞬間的に、輝きを集積、光の剣を作り出し、受け流しながら、今度こそ立ち上がった。
二人は剣を打ち合わせると、そのまま鍔迫り合いもつれ込んだ。
「ウメちゃんが、こんなに、剣が使えるなんて、思わなかった……」
アサキは、苦痛に顔を歪め、肩で大きく呼吸をしながら、荒い息にかすれた声で言葉を乗せた。
「リヒトのチームでは、後方支援で槍を使うとったが、練習では剣は基本やからな。……あたしが令堂に負けとるのは、潜在魔力だけやで。槍でも剣でも、体術でも負けへんよ」
「だけ、ではないでしょう。この世界を救いたい、ヴァイスタからみんなを守りたい、そういった気持ちの量で、わたしに勝ってみせてよ」
「わけの分からへんことを」
「……この世界を、なくそうとしなくても……新しい世界へ行かなくても、雲音ちゃんを助けられる方法は、あるんじゃないの?」
「ない」
応芽は即答した。
「いや、この世界がなくなるかは分からへんけど、新しい世界へ行かなければ、砕けた雲音の魂は救えない」
「魂が、砕けた?」
寝たきりであることは知っていたが、そのような話であったとは。
そうか……
だからウメちゃんは、神の力を手に入れたかったのか。
新しい世界へ、行きたかったのか。
でも、
でも……
だからって……
「新しい世界に行く方法はな、リヒトが散々に調べとるんや。あたしみたいな特使は、情報をある程度は詳しく教えられるから、ある程度は知っとった。天三中の校長室で、データを見よう考えたのは、ただ念押しをしたかっただけでな。そのデータを見たことで……」
応芽は言葉を切ると、顔を険しく変化させ、ぎりぎりと歯を軋らせながら、言葉を続けた。
「思いは、確信に変わった。やはり導き手がおらんと、滅ぶ。絶対世界へは、行かれへん。……超ヴァイスタを作り上げるしか、雲音を助ける方法が、ないんや!」
応芽は声を荒らげながら、剣を振り上げ、打ち下ろした。
まるで取り憑かれたように、何度も、何度も。
変身も出来ず生身で耐えている、赤毛の少女へと。
赤毛の少女、アサキは、ざっくり深く切られた腕の治療も出来ないまま、光の剣を握り締めて、応芽の狂気を受け続けた。
受ける度に、辛さが伝わってくる。
受ける度に、必死さが、泣きたい気持ちが、伝わってくる。
それほどまでに、助けたいんだ。
妹さん、雲音ちゃんのことを。
でも、
でも……それをいうならわたしだって、ここで負けるわけにはいかない。
そうだ。
ウメちゃんの、この悲しい気持ちを救うためにも。
いつかみんなで、笑うためにも。
絶対に……
「負けられないんだ!」
光の剣で、応芽の攻撃を跳ね上げていた。
「負けとるやろ!」
荒々しく言葉を被せながら、応芽は、アサキの持つ光の剣へ、自分の剣を叩き付けて、叩き落とそうとする。
そうなること、アサキは狙っていた。
剣を引いて攻撃を流しつつ、くるり身体を一回転。
ふんわりいなされて、応芽はバランスを崩し、がくりよろける。
と、その応芽の腹へと、アサキは、さっと突き出した左の手のひら当てた。
その小さな手が、カッと青白い輝きを放ったかに見えたその瞬間には、真紅の魔道着を着た応芽の身体は、体重などなきがごとく、後ろへと飛ばされていた。
完全に不意を突かれた応芽は、衝撃に身体が動かす、受け身を取ることすら出来ずに、背中と頭を壁へと強打した。
壁が砕けて、身体の半分がめり込んでいた。
ずるり、壁から剥がれた真紅の魔道着、応芽の身体が落ちる。
着地をすると同時に、ふらふらっとよろめいたが、すぐに正面を見据えて、姿勢を正す。
打撃を受けたお腹へと、ゆっくりと自分の手を持って行き、軽くさすった。
さすりながら、アサキへと視線を向けると、なんとも楽しげな笑みを浮かべた。
「驚いたわ。まさか、魔道着もなしにここまでやれるとは。……こんな嬉しいことないで、こんな嬉しいことは」
歩を踏み、ゆっくりとアサキへと近寄る応芽。
顔に浮かんだ、その楽しげな笑みが、
「つまりは、超ヴァイスタの器やと、証明しとるわけやからなあ」
さらに濃いものになっていた。
「わたしは、そんなのじゃない」
一瞬にしてその言葉を、その笑みを、アサキは突っぱねた。
そうだ。
ただ、必死なだけだ。
魔道着なしで頑張れるのは。
それ以上でも以下でもない。
ただ、みんなを助けたいだけなんだ。
みんなで、笑っていたいだけなんだ。
だから……
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