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第十章 とあるヴァイスタの誕生と死と
01 ちらちら糸くずが入り込む、古いフィルムを映写機で映
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ちらちら糸くずが入り込む、古いフィルムを映写機で映しているかのような、汚い白黒映像である。
明治時代の洋館を思わせる古風な洋間に、一人の女性が倒れている。
目をかっと見開いたまま。
口は半開きで、瞳孔が完全に開いている。
頭から血が流れており、その血がどろりと床に広がって色を変え、染めている。
映像は、自分視点であろうか。
自分、よりも少し前に、頭半分ほど背の高い少女が立っており、身体を震わせている。
その少女は、元は可憐で可愛らしいであろう顔を、獣のようにぐしゃぐしゃに醜く歪めながら口を大きく開いて、目の前にいる大人へと飛び込んでいく。
右手のナイフを、闇雲に振り回しながら。
次の瞬間、少女が横殴りに吹っ飛ばされていた。
目の前に立つ大人の、返り討ちを受けたのだ。
右手に握られているハンマー、これで頭を一撃されたのだ。
このような凶悪な鈍器で、小さな子供が殴られて、どうしてたまろうか。
少女の身体は、既に床に倒れ血みどろになっている女性へと、重なり合って崩れた。
ハンマーを持つ大人の足が、ゆっくりと角度を変えて、こちへと向いた。
叫び声。
限界まで、目を開いていた。
跳ね起きて、
両の手に、シーツを手繰り寄せ、ぎゅっと掴み、喉の奥から呻き声を発していた。
はあ、はあ、
乱れる呼吸。
大きく肩で呼吸をしているうちに、少しだけ落ちつくと、小さくため息を吐き、すーっと深呼吸をした。
大鳥正香は、長い黒髪の中にある端整な顔を、ふと窓の外へと向ける。
我孫子市高野山地区の平凡な田園町並みを見ながら、そっと胸を押さえると、もう一度小さなため息を吐いた。
落ち着いたといっても、まだ呼吸は荒い。苦しい。
当たり前だ。
こんな夢を見てしまったばかりなのだから。
以前は、年に一回くらいだったのが、今年になってから頻度が多くなって、ここ最近は一週間に一回は見てしまう。
しかも今回は、映像がかなり鮮烈だった。生々しかった。
またしばらく、具合が悪くなりそうだ。
心と身体の調子が。
母と、姉が、むごたらしく殺される夢。
時折、今回のように鮮明に見てしまうことがあるが、仕方がない。
だって、夢の内容は事実なのだから。
自分が体験したことなのだから。
十年前。まだ自分が幼い頃のことだ。
母の不倫を疑った父が、逆上してハンマーで殴り殺してしまったのだ。
さらに姉を殺したところで、父は我に返り自殺。
母と姉の死については、正香は自分の責任だと思っている。
父の死は、自業自得というものであろう。妻を信じられないどころか殺めてしまったのだから。あまつさえ長女までをも。
何故、自分の責任と思うかであるが、ただ怯えているだけで戦わなかったからだ。守ろうとしなかったからだ。
なんの罪もない母と姉が、殺され掛けていたというのに。
自分はまだ四歳であり、仕方のないこととも分かってはいる。
忘れなければならないということも、分かってはいる。
そう。忘れなければ、前に進めない。
でも、自分を自在にコントロール出来るくらいなら、こうして悩まない、あんな夢など見ない。
今回の夢のように、否が応でもたまに思い出してしまい、正香はその都度、最悪な精神状態の底の底まで落ち込むのである。
窓から視線を戻し、今度は机の上に立てられている写真を見る。
つい先日の、学校での合宿時に撮影した、成葉や治奈などみんなと写っている写真。
その横には、もう一枚写真が立て掛けられている。
十年以上も前の、母と、姉と、自分と……
そして……
びきん、と頭の中にヘラを突き刺され掻き回されたかのような激痛に、正香は頭を抱えて、くぐもった呻き声を発し、襲う苦痛に顔を歪めた。
明治時代の洋館を思わせる古風な洋間に、一人の女性が倒れている。
目をかっと見開いたまま。
口は半開きで、瞳孔が完全に開いている。
頭から血が流れており、その血がどろりと床に広がって色を変え、染めている。
映像は、自分視点であろうか。
自分、よりも少し前に、頭半分ほど背の高い少女が立っており、身体を震わせている。
その少女は、元は可憐で可愛らしいであろう顔を、獣のようにぐしゃぐしゃに醜く歪めながら口を大きく開いて、目の前にいる大人へと飛び込んでいく。
右手のナイフを、闇雲に振り回しながら。
次の瞬間、少女が横殴りに吹っ飛ばされていた。
目の前に立つ大人の、返り討ちを受けたのだ。
右手に握られているハンマー、これで頭を一撃されたのだ。
このような凶悪な鈍器で、小さな子供が殴られて、どうしてたまろうか。
少女の身体は、既に床に倒れ血みどろになっている女性へと、重なり合って崩れた。
ハンマーを持つ大人の足が、ゆっくりと角度を変えて、こちへと向いた。
叫び声。
限界まで、目を開いていた。
跳ね起きて、
両の手に、シーツを手繰り寄せ、ぎゅっと掴み、喉の奥から呻き声を発していた。
はあ、はあ、
乱れる呼吸。
大きく肩で呼吸をしているうちに、少しだけ落ちつくと、小さくため息を吐き、すーっと深呼吸をした。
大鳥正香は、長い黒髪の中にある端整な顔を、ふと窓の外へと向ける。
我孫子市高野山地区の平凡な田園町並みを見ながら、そっと胸を押さえると、もう一度小さなため息を吐いた。
落ち着いたといっても、まだ呼吸は荒い。苦しい。
当たり前だ。
こんな夢を見てしまったばかりなのだから。
以前は、年に一回くらいだったのが、今年になってから頻度が多くなって、ここ最近は一週間に一回は見てしまう。
しかも今回は、映像がかなり鮮烈だった。生々しかった。
またしばらく、具合が悪くなりそうだ。
心と身体の調子が。
母と、姉が、むごたらしく殺される夢。
時折、今回のように鮮明に見てしまうことがあるが、仕方がない。
だって、夢の内容は事実なのだから。
自分が体験したことなのだから。
十年前。まだ自分が幼い頃のことだ。
母の不倫を疑った父が、逆上してハンマーで殴り殺してしまったのだ。
さらに姉を殺したところで、父は我に返り自殺。
母と姉の死については、正香は自分の責任だと思っている。
父の死は、自業自得というものであろう。妻を信じられないどころか殺めてしまったのだから。あまつさえ長女までをも。
何故、自分の責任と思うかであるが、ただ怯えているだけで戦わなかったからだ。守ろうとしなかったからだ。
なんの罪もない母と姉が、殺され掛けていたというのに。
自分はまだ四歳であり、仕方のないこととも分かってはいる。
忘れなければならないということも、分かってはいる。
そう。忘れなければ、前に進めない。
でも、自分を自在にコントロール出来るくらいなら、こうして悩まない、あんな夢など見ない。
今回の夢のように、否が応でもたまに思い出してしまい、正香はその都度、最悪な精神状態の底の底まで落ち込むのである。
窓から視線を戻し、今度は机の上に立てられている写真を見る。
つい先日の、学校での合宿時に撮影した、成葉や治奈などみんなと写っている写真。
その横には、もう一枚写真が立て掛けられている。
十年以上も前の、母と、姉と、自分と……
そして……
びきん、と頭の中にヘラを突き刺され掻き回されたかのような激痛に、正香は頭を抱えて、くぐもった呻き声を発し、襲う苦痛に顔を歪めた。
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