魔法使い×あさき☆彡

かつたけい

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第八章 アサキ、覚醒

15 「すげえ……」カズミは、太ももに負った大怪我の痛みも

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「すげえ……」

 カズミは、太ももに負った大怪我の痛みも忘れて、ぽかんと口を半開きで空を見つめていた。
 アサキの、戦いぶりを。

 遥か上空に、アサキとザーヴェラーが浮かんでおり、そこで激闘を繰り広げているのである。

 カズミに肩を貸しながら、はるも、そしてせいなるも、やはり驚きを隠せない表情で空を見上げている。

 視界の先で起きていることが現実、と理解はしつつも、どこか非現実的な光景でもあり、脳がすんなり受け入れることが出来ないでいるのだろう。

 なお、つい先ほどまでの彼女たちは、魔力が完全に枯渇していたため、通常の人間の視力と変わらなかった。そのため、超高度に浮遊するザーヴェラーを、認識することだけで精一杯だったが、現在は、ほんの僅か回復した魔力によって、その姿、アサキとの戦いを、はっきりと視認することが出来ている。

 魔力の目で、はっきりと、しっかりと、見れば見るほど、彼女たちにとってそれは信じられない光景だったことだろう。

 飛翔の魔法は、客観的視点から自分の襟首を箸でつまむようなものであり間接的。
 したがって、どうしても動作にロスが生じるし、あまり細かな動きも出来ない……はずなのに、アサキは、まるで足元に地面があるかのごとく、自由自在に走り回っているのだから。

 そう、飛んでいるというよりも、二本の足で翔けて、いや、駆けている。足元に確固たる地面が存在しているとしか思えない、そんな動きで。
 これが不思議な光景でなくて、なんであろう。

 駆けながら、両手に握った剣を振り回して、自分へと襲い掛かる無数の触手を次々と切断している。

 ザーヴェラーの、触手による攻撃は、先ほどカズミたちが背に乗って戦っていた時と比較にならないくらい、激しく執拗なものになっていた。
 既に弱点を見抜かれている、それ故に必死なのであろうか。
 魔法使いが自分に対して、このような戦い方で挑んでくる、そうした本脳にはない情報が畏怖させ、過剰防御へと繋がっているのであろうか。

「ちょっとお、飛翔でなんでこんな戦い方が出来るのお?」

 いくら見せられようとも、驚きの衰えない成葉の表情であるが、それがさらに、驚きに目を真ん丸に見開くことになる。
 正香の言葉によって。

「いえ……どうやらこれは飛翔魔法ではないようです」

 その言葉に驚いたのは、成葉だけではなかった。
 カズミ、治奈、そして地に横たわりぜいはあ苦しんでいる応芽の表情も、同様の色が顔に浮かんでいた。

「え、え、ほいじゃあなんなん?」

 動揺し、つっかえつっかえで尋ねる治奈。
 知ってこの戦いの助けになるわけでもないが、聞かずにもいられないというものだろう。

「彼女は、小さな魔法陣を自分へと吸い寄せているんです。そして、足裏には反発するエネルギーを作り出して、それを蹴っているんです」
「そ、それだけでも複数魔法の組み合わせじゃろ?」
「はい。飛翔魔法は間接コントロールなので、素早い動きが出来ませんが、これは魔法陣の上を蹴って歩くだけなので、地上にいるのとほぼ同じ動きが出来るんです」
「はあ、詠唱系魔法を非詠唱で使えるアサキちゃんの特技ならでは、ってことじゃね」
「そうですね。メンシュヴェルト所属の魔法使いは数あれど、おそらくこんな離れ技をやれるのはアサキさんしかいない」
「でも、でも、どうして魔法陣を蹴るのかな」

 成葉が、疑問の言葉を割り込ませた。

「乗って浮くには、飛翔魔法と同じことをしなければならない。ならば、と割り切っているのでしょう」
「アサにゃん……凄いな……」

 あらためて空を見上げる成葉。
 アサキと、ザーヴェラーの戦いを。

 アサキは、ただ自由自在に空を駆けているだけではない。
 隙あらば剣にあらたな魔力を送り込み強化させ、隙あらば自らに魔法障壁を張り防御力を高めつつ、戦い続けている。

 本来ならば、これはありえないことである。
 ありえない光景である。

 経験を積んだ魔法使いが一般的に抱く認識、という観点からすれば。
 複数魔法を同時に発動させて、たった一人でザーヴェラーと、しかも空中で、互角に渡り合うなど。

 でもそれは現実で、
 さらには、それをやってのけているのは新米の魔法使い。

 炎の柱に焼き殺されることを覚悟した治奈たちが、この大逆転ともいうべき状況に、希望を見出し興奮するのも、当然というものであろう。

「しっかり、自分のものにしていますね。能力を」

 予断を許す状況ではないが、とりあえず生じたその希望に、正香は小さな笑みを浮かべた。

「もともと、魔力の器は、とんでもなく大きかったけれど、分散していたけえね。それがしっかり、無駄使いなくコントロールが出来るようになっとるな」
「そうですね。おそらく……絶体絶命の危機に自分が陥ったから、というよりは、わたくしたちを守らなければという強く優しい思いが、彼女の持つ能力を覚醒させたんです」

 二人のやりとりを聞いていたカズミは、

「そうか。……もう、ヘタレとかいわない方がいいなあ」

 鼻の頭を掻くと、ふっと息を吐き、空を見上げながらにんまりとした笑みを浮かべた。

「いけえええ、アサキいいいいいいっ! ぶっ飛ばせえええええっ!」

 右腕を突き上げた。
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