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第八章 アサキ、覚醒
07 外部から異空に入り込んだ者以外は、色調ことごとくが
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外部から異空に入り込んだ者以外は、色調ことごとくが反転している、この世界の中で、突如、ザーヴェラーが、上空からの急降下で、彼女らに対して攻撃を仕掛けてきたのである。
ぶん、ぶん、ぶん、と震える低い音と同時に、赤黒く光る塊が、アサキたちの頭上に降り注ぐ。
ザーヴェラーの、のっぺらぼうみたいなパーツのない頭部の、人間でいう口にあたる部分から、その光の塊が発射されたのだ。
驚きと怖さとに目を見開くアサキであったが、次の瞬間、きっとした表情になり、叫び声を張り上げながら、左右の手のひらを高く天へと向けた。
その手のひらが青く光って、空中に小さな魔法陣を生み出した。と見えた時には、既にその魔法陣は、彼女たち全員をすっぽりと覆い込むほどの、とてつもない大きさにまで膨らんで、ザーヴェラーの放った光弾をすべて跳ね返していた。
薄皮一枚の頭上で、連続した大爆発が発生し、激しい振動に揺さぶられながら、彼女たちは悲鳴を上げた。
ザーヴェラーは、ぎゅおーんと空気を振動させて低い唸りを上げながら、彼女たちの頭上すれすれを通り過ぎると、上昇を始めた。
どおんっ!
山を超える大きさの巨人が、地に拳を叩き付けたかのような、凄まじいソニックブームが発生し、みな腕を寝かせて庇にして、風の直撃から顔を守った。
ザーヴェラーの巨体は、既に元いた高さ、遥か遥か上空にあった。
「ありがとうアサキちゃん、助かったけえね」
治奈が微笑んだ。
「これくらいしか……出来ないから……」
アサキも、照れた微笑みを返した。
「勝てるかも知れねえ……」
カズミが、にやり唇を釣り上げた。
「え、え、わたしの魔法なんかを期待されてもっ!」
アサキが、突き出した両の手のひらを、ぱたぱた振って、慌てふためいていると、カズミは冷ややかな白い視線を突き刺した。
「勘違いしてんじゃねえよ。……ザーヴェラーは魔法使いとの戦いの時は普通、降りてこない。魔法使いが空中戦を苦手なことを分かっているからだ。……ということは、あれは『なりたて』の可能性が高いってことなんだよ。まだ未熟なんだ」
「なるほど……」
わたしの魔法を褒めてくれたんじゃないのか。
まあいいけど。
作戦で一人だけの特殊な役割を任されるなんて、見習いのわたしには荷が重過ぎるからな。
「講釈は終了。んじゃあ、そろそろおっ始めるかあ」
カズミは、地面に片膝を着くと、二本のナイフを、ぴったりと並べて置いた。
呪文を唱えながら、両手を翳す。
手が青白く光ると、それを受けて二本のナイフも薄青い光に包まれた。
治奈や正香、応芽も同じように呪文を唱え、自分の武器に自分の魔力を注ぎ込んでいく。
「ほおらあ、アサにゃんもやるんだよお!」
一番にエンチャントを済ませていた成葉が、アサキの脇腹をつついて促した。
「え、あ、は、はいっ!」
アサキも慌てて屈んで、地面に剣を置いた。
何故だか、おままごと座りになると、そっと目を閉じた。
呪文を、念じる。
両手が、ぼおっと薄青い光を発する。
「で、こうして、と」
地に置いた剣に手を近付けて、柄の部分から先端まで、青い光を吸い込ませていく。
「自分、ほんま詠唱せんでも詠唱系魔法を使えるんやな」
応芽が、すっげえと小声でいいながら、作業中のアサキを覗き込んだ。
「ま、あたしの弟子だからな」
腰に手を当て、えっへん得意げな顔のカズミである。
「お前には出来ひん芸当やないか!」
「うるせえな! ローリングソバット食らわすぞお!」
「やってみい! そのドタマにスリーポイントシュート投げ付けたるわ!」
「あたしの頭は三千ポイントシュートなんだよ!」
「意味分からんわ」
などと、外野わいわい騒いでいる間に、エンチャントは完了。
アサキは立ち上がると、握った剣の切っ先を、天へと翳してみせた。
「魔力、上手く込められているといいな」
切っ先を下ろすと、柄を握る手にぎゅっと力を込めた。
「おっし、それじゃあ全員準備完了だな」
カズミがぐるり周囲を見回すと、みな、こくりと小さく頷いた。
「よおし、そんじゃ行くぞお! みんな死ぬんじゃねえぞ! ウェルデフリゲンビスヅェ……」
カズミは、気合の雄叫びを張り上げると、続けて飛翔魔法の呪文詠唱を開始した。
ふわり、
カズミの身体が、地から、離れていた。
浮いていた。
浮きながら、空を見上げる。
遥か上空にいるザーヴェラーを睨んだカズミは、あらためて気合を入れようということか、左右の拳をぎゅうっと力強く握った。
これを自分がやるんだから、と、見逃すまいとしているアサキであるが、だが気付いた時には、目の前からカズミの姿が消えていた。
はっ、とした顔で目を見開き、上空へ視線を向けると、ジェット機やロケットに勝るとも劣らないもの凄い速度で、ぐんぐんと上昇しているカズミの姿が見えた。
続いて、
「行っくよーっ!」
呪文詠唱を終えた成葉が、ふわり地を離れたかと思うと急加速で、ザーヴェラーへと向かい上っていった。
今度は、飛び立つ瞬間をしっかりと、目で追うことが出来たけれど、でも、こんなことが自分にも出来るのだろうか。
そんな不安な気持ちが、顔に出てしまっていたのか、
「心配いらん。アサキちゃんにも出来るけえね。……初めては、うちと一緒に飛ぼうか」
治奈が微笑みながら、アサキの左手をぎゅっと握った。
ちょっとカチコチの笑みを、治奈へと返しながら、こくり頷くと、反対の手に握っている剣の柄にぎゅっと力を込めた。
「ほいじゃあタイミング合わせたいけえ、アサキちゃんも非詠唱でなく一緒に声に出して唱えてくれんかのう」
「うん」
ごくり唾を飲み、こくり頷くアサキ。
二人は手を繋ぎながら、早速、飛翔呪文の呪文詠唱を始めた。
「ウェルデフリゲン……」
いざ呪文を唱え始めると、なんだか不思議な感覚に包まれていることに気が付いた。
どんな種類の魔法を唱えているのかを考えれば、まったく当然のこととも思うが。
まるで重力を感じないのだ。
身体が、どんどん軽くなっている。
ずいぶん前に練習して以来の久々だけれど、今度はなんだか……上手く飛べそうな気がする。
以前は、飛べたには飛べたけど、ここまで自分が軽いとは思わなかった。
経験による慣れ?
それとも、わたしの魔力が成長している?
ふわり、浮遊感がどんどん強くなる。
つま先が、ちょこっとだけ地に接しているが、でももう体重は全然感じない。
もしも、つま先を剣で切られて、なくなってしまったとしても、支えなくそのまま浮かんでいられそうだ。まあ、切られたら、痛みに魔法どころじゃなくなってしまうだろうけど。
「しっかり飛翔魔法は掛かっとるな。ほいじゃあ、せーのせーで飛び立つけえね。最初はゆっくりで、段々と上げてこう。うちも速度は落とすよう気を付けるけど、アサギちゃんも頑張ってついてきてな」
「わ、分かったっ!」
飛べるだろうか戦えるだろうかと不安は多々あれど、かつてない不思議な浮遊感に、ちょっとハイにもなっているアサキの顔。
「せーの、せーでっ」
「行っくぞおおおおおお!」
二人の身体は、同時に飛び上がった。
はずであったのだが……
ぎゅっと繋いでいた手をぶっちぎって、
既に、アサキの身体は、治奈を遥か下に置いて、
いや、
それどころか、とうに飛び上がっていたカズミたちをも一瞬で抜き去って、天に一番近い距離にあったのである。
「えーーーーーーーーっ!」
アサキと治奈は、それぞれ天と地とで、同時に、驚愕の叫び声を上げていた。
ぶん、ぶん、ぶん、と震える低い音と同時に、赤黒く光る塊が、アサキたちの頭上に降り注ぐ。
ザーヴェラーの、のっぺらぼうみたいなパーツのない頭部の、人間でいう口にあたる部分から、その光の塊が発射されたのだ。
驚きと怖さとに目を見開くアサキであったが、次の瞬間、きっとした表情になり、叫び声を張り上げながら、左右の手のひらを高く天へと向けた。
その手のひらが青く光って、空中に小さな魔法陣を生み出した。と見えた時には、既にその魔法陣は、彼女たち全員をすっぽりと覆い込むほどの、とてつもない大きさにまで膨らんで、ザーヴェラーの放った光弾をすべて跳ね返していた。
薄皮一枚の頭上で、連続した大爆発が発生し、激しい振動に揺さぶられながら、彼女たちは悲鳴を上げた。
ザーヴェラーは、ぎゅおーんと空気を振動させて低い唸りを上げながら、彼女たちの頭上すれすれを通り過ぎると、上昇を始めた。
どおんっ!
山を超える大きさの巨人が、地に拳を叩き付けたかのような、凄まじいソニックブームが発生し、みな腕を寝かせて庇にして、風の直撃から顔を守った。
ザーヴェラーの巨体は、既に元いた高さ、遥か遥か上空にあった。
「ありがとうアサキちゃん、助かったけえね」
治奈が微笑んだ。
「これくらいしか……出来ないから……」
アサキも、照れた微笑みを返した。
「勝てるかも知れねえ……」
カズミが、にやり唇を釣り上げた。
「え、え、わたしの魔法なんかを期待されてもっ!」
アサキが、突き出した両の手のひらを、ぱたぱた振って、慌てふためいていると、カズミは冷ややかな白い視線を突き刺した。
「勘違いしてんじゃねえよ。……ザーヴェラーは魔法使いとの戦いの時は普通、降りてこない。魔法使いが空中戦を苦手なことを分かっているからだ。……ということは、あれは『なりたて』の可能性が高いってことなんだよ。まだ未熟なんだ」
「なるほど……」
わたしの魔法を褒めてくれたんじゃないのか。
まあいいけど。
作戦で一人だけの特殊な役割を任されるなんて、見習いのわたしには荷が重過ぎるからな。
「講釈は終了。んじゃあ、そろそろおっ始めるかあ」
カズミは、地面に片膝を着くと、二本のナイフを、ぴったりと並べて置いた。
呪文を唱えながら、両手を翳す。
手が青白く光ると、それを受けて二本のナイフも薄青い光に包まれた。
治奈や正香、応芽も同じように呪文を唱え、自分の武器に自分の魔力を注ぎ込んでいく。
「ほおらあ、アサにゃんもやるんだよお!」
一番にエンチャントを済ませていた成葉が、アサキの脇腹をつついて促した。
「え、あ、は、はいっ!」
アサキも慌てて屈んで、地面に剣を置いた。
何故だか、おままごと座りになると、そっと目を閉じた。
呪文を、念じる。
両手が、ぼおっと薄青い光を発する。
「で、こうして、と」
地に置いた剣に手を近付けて、柄の部分から先端まで、青い光を吸い込ませていく。
「自分、ほんま詠唱せんでも詠唱系魔法を使えるんやな」
応芽が、すっげえと小声でいいながら、作業中のアサキを覗き込んだ。
「ま、あたしの弟子だからな」
腰に手を当て、えっへん得意げな顔のカズミである。
「お前には出来ひん芸当やないか!」
「うるせえな! ローリングソバット食らわすぞお!」
「やってみい! そのドタマにスリーポイントシュート投げ付けたるわ!」
「あたしの頭は三千ポイントシュートなんだよ!」
「意味分からんわ」
などと、外野わいわい騒いでいる間に、エンチャントは完了。
アサキは立ち上がると、握った剣の切っ先を、天へと翳してみせた。
「魔力、上手く込められているといいな」
切っ先を下ろすと、柄を握る手にぎゅっと力を込めた。
「おっし、それじゃあ全員準備完了だな」
カズミがぐるり周囲を見回すと、みな、こくりと小さく頷いた。
「よおし、そんじゃ行くぞお! みんな死ぬんじゃねえぞ! ウェルデフリゲンビスヅェ……」
カズミは、気合の雄叫びを張り上げると、続けて飛翔魔法の呪文詠唱を開始した。
ふわり、
カズミの身体が、地から、離れていた。
浮いていた。
浮きながら、空を見上げる。
遥か上空にいるザーヴェラーを睨んだカズミは、あらためて気合を入れようということか、左右の拳をぎゅうっと力強く握った。
これを自分がやるんだから、と、見逃すまいとしているアサキであるが、だが気付いた時には、目の前からカズミの姿が消えていた。
はっ、とした顔で目を見開き、上空へ視線を向けると、ジェット機やロケットに勝るとも劣らないもの凄い速度で、ぐんぐんと上昇しているカズミの姿が見えた。
続いて、
「行っくよーっ!」
呪文詠唱を終えた成葉が、ふわり地を離れたかと思うと急加速で、ザーヴェラーへと向かい上っていった。
今度は、飛び立つ瞬間をしっかりと、目で追うことが出来たけれど、でも、こんなことが自分にも出来るのだろうか。
そんな不安な気持ちが、顔に出てしまっていたのか、
「心配いらん。アサキちゃんにも出来るけえね。……初めては、うちと一緒に飛ぼうか」
治奈が微笑みながら、アサキの左手をぎゅっと握った。
ちょっとカチコチの笑みを、治奈へと返しながら、こくり頷くと、反対の手に握っている剣の柄にぎゅっと力を込めた。
「ほいじゃあタイミング合わせたいけえ、アサキちゃんも非詠唱でなく一緒に声に出して唱えてくれんかのう」
「うん」
ごくり唾を飲み、こくり頷くアサキ。
二人は手を繋ぎながら、早速、飛翔呪文の呪文詠唱を始めた。
「ウェルデフリゲン……」
いざ呪文を唱え始めると、なんだか不思議な感覚に包まれていることに気が付いた。
どんな種類の魔法を唱えているのかを考えれば、まったく当然のこととも思うが。
まるで重力を感じないのだ。
身体が、どんどん軽くなっている。
ずいぶん前に練習して以来の久々だけれど、今度はなんだか……上手く飛べそうな気がする。
以前は、飛べたには飛べたけど、ここまで自分が軽いとは思わなかった。
経験による慣れ?
それとも、わたしの魔力が成長している?
ふわり、浮遊感がどんどん強くなる。
つま先が、ちょこっとだけ地に接しているが、でももう体重は全然感じない。
もしも、つま先を剣で切られて、なくなってしまったとしても、支えなくそのまま浮かんでいられそうだ。まあ、切られたら、痛みに魔法どころじゃなくなってしまうだろうけど。
「しっかり飛翔魔法は掛かっとるな。ほいじゃあ、せーのせーで飛び立つけえね。最初はゆっくりで、段々と上げてこう。うちも速度は落とすよう気を付けるけど、アサギちゃんも頑張ってついてきてな」
「わ、分かったっ!」
飛べるだろうか戦えるだろうかと不安は多々あれど、かつてない不思議な浮遊感に、ちょっとハイにもなっているアサキの顔。
「せーの、せーでっ」
「行っくぞおおおおおお!」
二人の身体は、同時に飛び上がった。
はずであったのだが……
ぎゅっと繋いでいた手をぶっちぎって、
既に、アサキの身体は、治奈を遥か下に置いて、
いや、
それどころか、とうに飛び上がっていたカズミたちをも一瞬で抜き去って、天に一番近い距離にあったのである。
「えーーーーーーーーっ!」
アサキと治奈は、それぞれ天と地とで、同時に、驚愕の叫び声を上げていた。
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