魔法使い×あさき☆彡

かつたけい

文字の大きさ
上 下
93 / 395
第八章 アサキ、覚醒

07 外部から異空に入り込んだ者以外は、色調ことごとくが

しおりを挟む
 外部から異空に入り込んだ者以外は、色調ことごとくが反転している、この世界の中で、突如、ザーヴェラーが、上空からの急降下で、彼女らに対して攻撃を仕掛けてきたのである。

 ぶん、ぶん、ぶん、と震える低い音と同時に、赤黒く光る塊が、アサキたちの頭上に降り注ぐ。
 ザーヴェラーの、のっぺらぼうみたいなパーツのない頭部の、人間でいう口にあたる部分から、その光の塊が発射されたのだ。

 驚きと怖さとに目を見開くアサキであったが、次の瞬間、きっとした表情になり、叫び声を張り上げながら、左右の手のひらを高く天へと向けた。
 その手のひらが青く光って、空中に小さな魔法陣を生み出した。と見えた時には、既にその魔法陣は、彼女たち全員をすっぽりと覆い込むほどの、とてつもない大きさにまで膨らんで、ザーヴェラーの放った光弾をすべて跳ね返していた。

 薄皮一枚の頭上で、連続した大爆発が発生し、激しい振動に揺さぶられながら、彼女たちは悲鳴を上げた。

 ザーヴェラーは、ぎゅおーんと空気を振動させて低い唸りを上げながら、彼女たちの頭上すれすれを通り過ぎると、上昇を始めた。

 どおんっ!
 山を超える大きさの巨人が、地に拳を叩き付けたかのような、凄まじいソニックブームが発生し、みな腕を寝かせて庇にして、風の直撃から顔を守った。

 ザーヴェラーの巨体は、既に元いた高さ、遥か遥か上空にあった。

「ありがとうアサキちゃん、助かったけえね」

 治奈が微笑んだ。

「これくらいしか……出来ないから……」

 アサキも、照れた微笑みを返した。

「勝てるかも知れねえ……」

 カズミが、にやり唇を釣り上げた。

「え、え、わたしの魔法なんかを期待されてもっ!」

 アサキが、突き出した両の手のひらを、ぱたぱた振って、慌てふためいていると、カズミは冷ややかな白い視線を突き刺した。

「勘違いしてんじゃねえよ。……ザーヴェラーは魔法使いマギマイスターとの戦いの時は普通、降りてこない。魔法使いが空中戦を苦手なことを分かっているからだ。……ということは、あれは『なりたて』の可能性が高いってことなんだよ。まだ未熟なんだ」
「なるほど……」

 わたしの魔法を褒めてくれたんじゃないのか。
 まあいいけど。
 作戦で一人だけの特殊な役割を任されるなんて、見習いのわたしには荷が重過ぎるからな。

「講釈は終了。んじゃあ、そろそろおっ始めるかあ」

 カズミは、地面に片膝を着くと、二本のナイフを、ぴったりと並べて置いた。
 呪文を唱えながら、両手を翳す。
 手が青白く光ると、それを受けて二本のナイフも薄青い光に包まれた。

 治奈や正香、応芽も同じように呪文を唱え、自分の武器に自分の魔力を注ぎ込んでいく。

「ほおらあ、アサにゃんもやるんだよお!」

 一番にエンチャントを済ませていた成葉が、アサキの脇腹をつついて促した。

「え、あ、は、はいっ!」

 アサキも慌てて屈んで、地面に剣を置いた。

 何故だか、おままごと座りになると、そっと目を閉じた。

 呪文を、念じる。

 両手が、ぼおっと薄青い光を発する。

「で、こうして、と」

 地に置いた剣に手を近付けて、柄の部分から先端まで、青い光を吸い込ませていく。

「自分、ほんま詠唱せんでも詠唱系魔法を使えるんやな」

 応芽が、すっげえと小声でいいながら、作業中のアサキを覗き込んだ。

「ま、あたしの弟子だからな」

 腰に手を当て、えっへん得意げな顔のカズミである。

「お前には出来ひん芸当やないか!」
「うるせえな! ローリングソバット食らわすぞお!」
「やってみい! そのドタマにスリーポイントシュート投げ付けたるわ!」
「あたしの頭は三千ポイントシュートなんだよ!」
「意味分からんわ」

 などと、外野わいわい騒いでいる間に、エンチャントは完了。
 アサキは立ち上がると、握った剣の切っ先を、天へと翳してみせた。

「魔力、上手く込められているといいな」

 切っ先を下ろすと、柄を握る手にぎゅっと力を込めた。

「おっし、それじゃあ全員準備完了だな」

 カズミがぐるり周囲を見回すと、みな、こくりと小さく頷いた。

「よおし、そんじゃ行くぞお! みんな死ぬんじゃねえぞ! ウェルデフリゲンビスヅェ……」

 カズミは、気合の雄叫びを張り上げると、続けて飛翔魔法の呪文詠唱を開始した。

 ふわり、
 カズミの身体が、地から、離れていた。
 浮いていた。
 浮きながら、空を見上げる。
 遥か上空にいるザーヴェラーを睨んだカズミは、あらためて気合を入れようということか、左右の拳をぎゅうっと力強く握った。

 これを自分がやるんだから、と、見逃すまいとしているアサキであるが、だが気付いた時には、目の前からカズミの姿が消えていた。

 はっ、とした顔で目を見開き、上空へ視線を向けると、ジェット機やロケットに勝るとも劣らないもの凄い速度で、ぐんぐんと上昇しているカズミの姿が見えた。

 続いて、

「行っくよーっ!」

 呪文詠唱を終えた成葉が、ふわり地を離れたかと思うと急加速で、ザーヴェラーへと向かい上っていった。

 今度は、飛び立つ瞬間をしっかりと、目で追うことが出来たけれど、でも、こんなことが自分にも出来るのだろうか。
 そんな不安な気持ちが、顔に出てしまっていたのか、

「心配いらん。アサキちゃんにも出来るけえね。……初めては、うちと一緒に飛ぼうか」

 治奈が微笑みながら、アサキの左手をぎゅっと握った。

 ちょっとカチコチの笑みを、治奈へと返しながら、こくり頷くと、反対の手に握っている剣の柄にぎゅっと力を込めた。

「ほいじゃあタイミング合わせたいけえ、アサキちゃんも非詠唱でなく一緒に声に出して唱えてくれんかのう」
「うん」

 ごくり唾を飲み、こくり頷くアサキ。

 二人は手を繋ぎながら、早速、飛翔呪文の呪文詠唱を始めた。

「ウェルデフリゲン……」

 いざ呪文を唱え始めると、なんだか不思議な感覚に包まれていることに気が付いた。
 どんな種類の魔法を唱えているのかを考えれば、まったく当然のこととも思うが。

 まるで重力を感じないのだ。
 身体が、どんどん軽くなっている。

 ずいぶん前に練習して以来の久々だけれど、今度はなんだか……上手く飛べそうな気がする。
 以前は、飛べたには飛べたけど、ここまで自分が軽いとは思わなかった。
 経験による慣れ?
 それとも、わたしの魔力が成長している?

 ふわり、浮遊感がどんどん強くなる。
 つま先が、ちょこっとだけ地に接しているが、でももう体重は全然感じない。
 もしも、つま先を剣で切られて、なくなってしまったとしても、支えなくそのまま浮かんでいられそうだ。まあ、切られたら、痛みに魔法どころじゃなくなってしまうだろうけど。

「しっかり飛翔魔法は掛かっとるな。ほいじゃあ、せーのせーで飛び立つけえね。最初はゆっくりで、段々と上げてこう。うちも速度は落とすよう気を付けるけど、アサギちゃんも頑張ってついてきてな」
「わ、分かったっ!」

 飛べるだろうか戦えるだろうかと不安は多々あれど、かつてない不思議な浮遊感に、ちょっとハイにもなっているアサキの顔。

「せーの、せーでっ」
「行っくぞおおおおおお!」

 二人の身体は、同時に飛び上がった。
 はずであったのだが……

 ぎゅっと繋いでいた手をぶっちぎって、
 既に、アサキの身体は、治奈を遥か下に置いて、
 いや、
 それどころか、とうに飛び上がっていたカズミたちをも一瞬で抜き去って、天に一番近い距離にあったのである。

「えーーーーーーーーっ!」

 アサキと治奈は、それぞれ天と地とで、同時に、驚愕の叫び声を上げていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...