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第三章 強化合宿
07 「ええよ、よく見た。ほじゃけど……視力だけに頼らな
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「ええよ、よく見た。ほじゃけど……視力だけに頼らない!」
明木治奈は、両手に短く持った槍を素早く何度も突き出した。
剣を持ち、対峙するアサキ、一突き目は上手く払いのけたが、残りはすべて胸や腹に食らってしまう。
といっても、寸止めであるが。
「ほら、見て構えておるから、こがいな程度もかわせない!」
「次は気をつける。さあ、次!」
ぜいはあ息を切らせながらも、アサキの表情から気合いはいささかも失われていない。
少しずつ分かるようになって来て、少しずつ面白くなって来ていたのだ。
「その意気じゃ。でもちょっとストップ。そのまま動かんでおって」
「え?」
治奈の槍がゆっくりそーっと伸びて、アサキの脇腹へ。と、そこでぶんと横に振って、先端のひらで脇腹を強く叩いた。
「いたっ!」
「ほおら、シールドが剥がれとるけえね。魔力を薄く伸ばして、常に全身に張っとくゆうたじゃろ」
「気を付けているつもりなんだけど」
「つもりでヴァイスタは手加減してくれんよ。魔道着自体もとても頑丈に作られてはいるけど、なにより大切なのは魔力障壁。昔は魔道着なんかなかったけど、それでも魔法使いは戦っていたんじゃから」
「はい」
アサキは小さく頷くと、指摘された脇腹部分へと手を翳した。
魔力障壁を張り直したのだ。
障壁は非詠唱系の、意識するだけで張れる魔法なので、本来は手を翳す必要もない。
アサキはまだ初級の魔法使いであり、その意識の持ち方自体を一つ一つしっかりやって行くようにしたいため、そうするよう指示されているのだ。
「ほいじゃ、今度は本気で行くけえね」
治奈は槍をすっと引くが、引いた瞬間にはもう突き出していた。
アサキは、剣でからめ取るように受け止めて、そのまま剣を滑らせて治奈の懐へと飛び込んだ。
剣を振り上げるが、もう眼前に治奈の姿はなかった。
長さという槍の弱点を分かっており、咄嗟に後ろへ跳んで相対距離を保ったのだ。
「踏み込むならもっとしっかり。躊躇わない! あと魔力は攻撃の瞬間瞬間に手から武器へ流す。無駄遣いはしない!」
「はい!」
「治奈のいってること、よおく聞いとけよ。全開の仕方を間違えっと、すぐに息切れしちまうからな、お前は特に。ここぞって時にパワーを出すようにしねえと」
すぐ近くで見ているカズミが助言をする。
分かっては、いるんだけどなあ。
アサキはもどかしそうに、ちょっと唇を歪めた。
まだ魔力というものがよく理解出来ていないので、他人の判断が全てになってしまうのだが、どうやらアサキは、魔力の受け皿が非常に広いらしい。
皿、というよりも風船のようなもので、ちょっと咥える口の力を緩めると、一気に吹き出してしまうらしいのだ。
それはつまりパワーがある、ということでもあるのだが、無駄使いを省く技術を覚えないと、すぐにへたばってしまうことにもなる。
さて、治奈との手合わせであるが、油断なきあれと自分を戒め続けた効果か、槍との戦いに慣れたためか、はたまた実戦ではないため気が楽ということか、疲労しながらもバテることなく、押して引いてのなかなかよい勝負になって来ていた。
だがここで、
「ほいじゃあ交代。正香ちゃんお願い」
「承知しました。ではここからは、わたくしが。……アサキさん、疲れているところ気の毒ですけど、疲れているから学習出来るところもたくさんあるので頑張りましょう。では、参ります」
じゃらり、右手に鎌、左手に分銅のぶら下がった鎖を持ち、構える正香。
「お願いします」
アサキは小さくお辞儀をすると、両手に握った剣を構えた。
向き合う二人。
「行くよっ!」
先に動いたのはアサキだった。先ほどの治奈の言葉を意識してか、剣を振り上げ一気に飛び込んでいた。
だが、ひらりかわされ鎌を懐へ打ち込まれると、もう威勢はどこへやら、防戦一方になってしまった。
槍とは間合いからなにから違っており、それも相まってすっかり混乱してしまっていた。
「落ち着いて下さい。なにをやるにも根本は同じですよ。さっき治奈さんがいっていた通り、よく見て、でも視力だけに頼らない、ということです」
「五感を使えってこと?」
「そう。それと想像、予測をして下さい」
想像、予測。
見るだけでなく、全身で感じる……
アサキが心の中で呟いた瞬間、正香が身体を回転させた。
先ほどのボール投げと同様、死角で見えないところから急に、じゃん、と鋭い音を立てて分銅が飛んで来た。
弾いていた。
アサキは。
がっしりと両手に持った剣で。
「そう、感覚を掴み掛けましたね。その感じです。忘れないで。慣れると、奇襲に対して、身体が勝手に反応してくれるようになりますから」
やさしい笑みを浮かべる正香。
「わたし……」
じわじわ込み上げるものがあり、アサキも無意識に微笑み返していた。
と、その瞬間、
正香の背中から、ざあっと影が飛び上がって、空中からアサキへと落ち、迫った。
「隙あるよーっ!」
平家成葉であった。
小柄に似合わない大刀を、両手に握り、アサキへと振り下ろした。
想像……予測する……
振り下ろされる大刀を、アサキは両手に握った剣を水平にして、しっかりと受け止めていた。
成葉が着地と同時に足払い、が脳裏に浮かんだ瞬間、アサキは小さな膝の屈伸でちょこんと跳んでいた。
紙一重、足元を成葉の足払いがぶんとかすめた。
立ち上がりざま、横一文字に風を切る成葉の大刀、が脳裏に浮かんだ瞬間、アサキは後ろへ大きく跳躍していた。
やれた!
嬉しくて心の中で叫んだ瞬間、巨木に後頭部を強打して気を失った。
ぐてーーーーーっ、と伸びているアサキを、なんとも複雑な表情で取り囲んでいる四人。
「どんどん育って、よくなっているのは認めるけどさあ、ドジなのなんとかならねえかなあ」
カズミは苦笑しながら頭を掻くと、ながーいため息を吐いた。
「ほうじゃのう。あ、いや、ええと、アサキちゃんも必死で頑張っておるんじゃから!」
つい本音の出てしまう治奈であった。
「アサにゃんのドジを治す魔法ってないのかな」
「ねえよ」
カズミ一刀ぶった切り。
四人はあらためて、ながーいため息を吐くのだった。
明木治奈は、両手に短く持った槍を素早く何度も突き出した。
剣を持ち、対峙するアサキ、一突き目は上手く払いのけたが、残りはすべて胸や腹に食らってしまう。
といっても、寸止めであるが。
「ほら、見て構えておるから、こがいな程度もかわせない!」
「次は気をつける。さあ、次!」
ぜいはあ息を切らせながらも、アサキの表情から気合いはいささかも失われていない。
少しずつ分かるようになって来て、少しずつ面白くなって来ていたのだ。
「その意気じゃ。でもちょっとストップ。そのまま動かんでおって」
「え?」
治奈の槍がゆっくりそーっと伸びて、アサキの脇腹へ。と、そこでぶんと横に振って、先端のひらで脇腹を強く叩いた。
「いたっ!」
「ほおら、シールドが剥がれとるけえね。魔力を薄く伸ばして、常に全身に張っとくゆうたじゃろ」
「気を付けているつもりなんだけど」
「つもりでヴァイスタは手加減してくれんよ。魔道着自体もとても頑丈に作られてはいるけど、なにより大切なのは魔力障壁。昔は魔道着なんかなかったけど、それでも魔法使いは戦っていたんじゃから」
「はい」
アサキは小さく頷くと、指摘された脇腹部分へと手を翳した。
魔力障壁を張り直したのだ。
障壁は非詠唱系の、意識するだけで張れる魔法なので、本来は手を翳す必要もない。
アサキはまだ初級の魔法使いであり、その意識の持ち方自体を一つ一つしっかりやって行くようにしたいため、そうするよう指示されているのだ。
「ほいじゃ、今度は本気で行くけえね」
治奈は槍をすっと引くが、引いた瞬間にはもう突き出していた。
アサキは、剣でからめ取るように受け止めて、そのまま剣を滑らせて治奈の懐へと飛び込んだ。
剣を振り上げるが、もう眼前に治奈の姿はなかった。
長さという槍の弱点を分かっており、咄嗟に後ろへ跳んで相対距離を保ったのだ。
「踏み込むならもっとしっかり。躊躇わない! あと魔力は攻撃の瞬間瞬間に手から武器へ流す。無駄遣いはしない!」
「はい!」
「治奈のいってること、よおく聞いとけよ。全開の仕方を間違えっと、すぐに息切れしちまうからな、お前は特に。ここぞって時にパワーを出すようにしねえと」
すぐ近くで見ているカズミが助言をする。
分かっては、いるんだけどなあ。
アサキはもどかしそうに、ちょっと唇を歪めた。
まだ魔力というものがよく理解出来ていないので、他人の判断が全てになってしまうのだが、どうやらアサキは、魔力の受け皿が非常に広いらしい。
皿、というよりも風船のようなもので、ちょっと咥える口の力を緩めると、一気に吹き出してしまうらしいのだ。
それはつまりパワーがある、ということでもあるのだが、無駄使いを省く技術を覚えないと、すぐにへたばってしまうことにもなる。
さて、治奈との手合わせであるが、油断なきあれと自分を戒め続けた効果か、槍との戦いに慣れたためか、はたまた実戦ではないため気が楽ということか、疲労しながらもバテることなく、押して引いてのなかなかよい勝負になって来ていた。
だがここで、
「ほいじゃあ交代。正香ちゃんお願い」
「承知しました。ではここからは、わたくしが。……アサキさん、疲れているところ気の毒ですけど、疲れているから学習出来るところもたくさんあるので頑張りましょう。では、参ります」
じゃらり、右手に鎌、左手に分銅のぶら下がった鎖を持ち、構える正香。
「お願いします」
アサキは小さくお辞儀をすると、両手に握った剣を構えた。
向き合う二人。
「行くよっ!」
先に動いたのはアサキだった。先ほどの治奈の言葉を意識してか、剣を振り上げ一気に飛び込んでいた。
だが、ひらりかわされ鎌を懐へ打ち込まれると、もう威勢はどこへやら、防戦一方になってしまった。
槍とは間合いからなにから違っており、それも相まってすっかり混乱してしまっていた。
「落ち着いて下さい。なにをやるにも根本は同じですよ。さっき治奈さんがいっていた通り、よく見て、でも視力だけに頼らない、ということです」
「五感を使えってこと?」
「そう。それと想像、予測をして下さい」
想像、予測。
見るだけでなく、全身で感じる……
アサキが心の中で呟いた瞬間、正香が身体を回転させた。
先ほどのボール投げと同様、死角で見えないところから急に、じゃん、と鋭い音を立てて分銅が飛んで来た。
弾いていた。
アサキは。
がっしりと両手に持った剣で。
「そう、感覚を掴み掛けましたね。その感じです。忘れないで。慣れると、奇襲に対して、身体が勝手に反応してくれるようになりますから」
やさしい笑みを浮かべる正香。
「わたし……」
じわじわ込み上げるものがあり、アサキも無意識に微笑み返していた。
と、その瞬間、
正香の背中から、ざあっと影が飛び上がって、空中からアサキへと落ち、迫った。
「隙あるよーっ!」
平家成葉であった。
小柄に似合わない大刀を、両手に握り、アサキへと振り下ろした。
想像……予測する……
振り下ろされる大刀を、アサキは両手に握った剣を水平にして、しっかりと受け止めていた。
成葉が着地と同時に足払い、が脳裏に浮かんだ瞬間、アサキは小さな膝の屈伸でちょこんと跳んでいた。
紙一重、足元を成葉の足払いがぶんとかすめた。
立ち上がりざま、横一文字に風を切る成葉の大刀、が脳裏に浮かんだ瞬間、アサキは後ろへ大きく跳躍していた。
やれた!
嬉しくて心の中で叫んだ瞬間、巨木に後頭部を強打して気を失った。
ぐてーーーーーっ、と伸びているアサキを、なんとも複雑な表情で取り囲んでいる四人。
「どんどん育って、よくなっているのは認めるけどさあ、ドジなのなんとかならねえかなあ」
カズミは苦笑しながら頭を掻くと、ながーいため息を吐いた。
「ほうじゃのう。あ、いや、ええと、アサキちゃんも必死で頑張っておるんじゃから!」
つい本音の出てしまう治奈であった。
「アサにゃんのドジを治す魔法ってないのかな」
「ねえよ」
カズミ一刀ぶった切り。
四人はあらためて、ながーいため息を吐くのだった。
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