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第一章 令和の魔法使い
12 路上へと放り投げられて肩から落ちた。その激痛により、
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路上へと放り投げられて、肩から落ちた。
その激痛により、深くに落ちかけていた意識が一瞬で戻っていた。
ぐ、と呻き、顔を険しくしかめつつも、状況を確認しようと視線を走らせる。
その目が、驚きに大きく見開かれていた。
「ここは……」
どこだ。
いつの、どこなんだ。
令堂和咲は、転がったまま両手を付いて、顔を持ち上げた。
いままでいた、走っていた、住宅街の道路、のようではあるのだが、でも、ここはどこなんだ。
アサキでなくとも、誰だってそう思うだろう。
それほどまでに、飛び込む視界情報が、奇妙で不気味だったのである。
夜の住宅街を写真に撮影して、フィルター効果でぐにゃぐにゃに歪めて、なおかつ色調を正反転させたような、といえば分かりやすいだろうか。
夜闇が色調反転しているため、ことごとくが白っぽい。
空も白、道路も白だ。
すぐそばに、なにかが立っている気配を感じたアサキは、地に手をついたまま振り向いていた。
その瞬間、さあっと血の気が引いていた。
震える唇から、掠れたような呻き声が漏れていた。
人間のような、二本足で立つシルエットを見たのである。
もちろん、普通の人間ならば、アサキがここまで驚くことはない。
つまりそれは、どう見ても普通の人間では……いや、どう見ても人間ではなかったのである。
ひょろひょろと細長い四肢を持ち、頭部があり、というそれ自体は人間のようでもあるが、
服は着ておらず、
全身という全身が真っ白で、
ゼリーのように、表面がぬるぬる光り震えており、
そして、顔がない。
首から上、いわゆる頭部はあるものの、パーツが存在していない。
つまり、目も、鼻も、口もない。
耳の穴すらもない。
四肢があり二本足で立っているからといって、これが人間、霊長類といえようか。
先ほど、触手に似た腕を伸ばして何度も攻撃してきたのが、おそらくこの生物なのだろう。
逃げないと……
早く……
目の前に立つ生物への生理的嫌悪と、死への恐怖に、パニックを起こし掛けるアサキであったが、なんとか正気を保ちつつ、四つん這いになり、そして立ち上がっていた。
早く、逃げないと。
気が焦る。
焦るけど、頑張るんだ。走って逃げるんだ。
そう気持ちを強く持とうとするアサキであるが、だが、これはどうしたことだろうか。
立ち上がるまではよかったが、身体がそれ以上動かないのだ。
恐怖に足がすくんでしまっているのも勿論あるのだろうが、それ以上に、なにか得体の知れない悪魔の視線で呪縛されてしまったかのようであった。
「あ……」
小さな声が、口から漏れる。
アサキと白い生物、二人は見つめ合っていた。
いや、それは正しい表現ではない。
相手の顔に目などないのだから。
でもアサキは確かに、このぬるぬると細長い不気味な生物からの視線を感じていたのだ。
何故かは分からないが、その視線に込められた意味がアサキには分かっていた。
この奇妙かつおぞましい生物の体内は、殺意で満たされているということを。
この世にいる全人類のそれをすべて凝縮したくらいの、憎悪や殺意がみっしりと詰まっていることを。
逃げないと。
という思考すらも、既に出来なくなっていた。
完全に精神を包まれて、その中で恐怖がどんどん膨れていく。
恐怖が絶望にまで育ったことを、確認したからだろうか。
白い、得体の知れないこの生物の、放つ空気が不意に変化していた。
ゼリーのようにぷるぷると震える身体の、右肩から生える触手状の腕がゆっくりと持ち上がる。
やわらかくしなったかと思うと、小動物を襲う蛇のごとく鎌首が振り下ろされた。
先端が、アサキの胸に突き刺さり、背を突き抜けていた。
いや、貫かれたかに見えたは幻か、
アサキへの触手の攻撃は、いままさに胸に突き立たんとする寸前で、受け止められていたのである。
長い、槍状の物に。
「アサキちゃん、大丈夫?」
聞き覚えのある、少女の声が聞こえた。
その激痛により、深くに落ちかけていた意識が一瞬で戻っていた。
ぐ、と呻き、顔を険しくしかめつつも、状況を確認しようと視線を走らせる。
その目が、驚きに大きく見開かれていた。
「ここは……」
どこだ。
いつの、どこなんだ。
令堂和咲は、転がったまま両手を付いて、顔を持ち上げた。
いままでいた、走っていた、住宅街の道路、のようではあるのだが、でも、ここはどこなんだ。
アサキでなくとも、誰だってそう思うだろう。
それほどまでに、飛び込む視界情報が、奇妙で不気味だったのである。
夜の住宅街を写真に撮影して、フィルター効果でぐにゃぐにゃに歪めて、なおかつ色調を正反転させたような、といえば分かりやすいだろうか。
夜闇が色調反転しているため、ことごとくが白っぽい。
空も白、道路も白だ。
すぐそばに、なにかが立っている気配を感じたアサキは、地に手をついたまま振り向いていた。
その瞬間、さあっと血の気が引いていた。
震える唇から、掠れたような呻き声が漏れていた。
人間のような、二本足で立つシルエットを見たのである。
もちろん、普通の人間ならば、アサキがここまで驚くことはない。
つまりそれは、どう見ても普通の人間では……いや、どう見ても人間ではなかったのである。
ひょろひょろと細長い四肢を持ち、頭部があり、というそれ自体は人間のようでもあるが、
服は着ておらず、
全身という全身が真っ白で、
ゼリーのように、表面がぬるぬる光り震えており、
そして、顔がない。
首から上、いわゆる頭部はあるものの、パーツが存在していない。
つまり、目も、鼻も、口もない。
耳の穴すらもない。
四肢があり二本足で立っているからといって、これが人間、霊長類といえようか。
先ほど、触手に似た腕を伸ばして何度も攻撃してきたのが、おそらくこの生物なのだろう。
逃げないと……
早く……
目の前に立つ生物への生理的嫌悪と、死への恐怖に、パニックを起こし掛けるアサキであったが、なんとか正気を保ちつつ、四つん這いになり、そして立ち上がっていた。
早く、逃げないと。
気が焦る。
焦るけど、頑張るんだ。走って逃げるんだ。
そう気持ちを強く持とうとするアサキであるが、だが、これはどうしたことだろうか。
立ち上がるまではよかったが、身体がそれ以上動かないのだ。
恐怖に足がすくんでしまっているのも勿論あるのだろうが、それ以上に、なにか得体の知れない悪魔の視線で呪縛されてしまったかのようであった。
「あ……」
小さな声が、口から漏れる。
アサキと白い生物、二人は見つめ合っていた。
いや、それは正しい表現ではない。
相手の顔に目などないのだから。
でもアサキは確かに、このぬるぬると細長い不気味な生物からの視線を感じていたのだ。
何故かは分からないが、その視線に込められた意味がアサキには分かっていた。
この奇妙かつおぞましい生物の体内は、殺意で満たされているということを。
この世にいる全人類のそれをすべて凝縮したくらいの、憎悪や殺意がみっしりと詰まっていることを。
逃げないと。
という思考すらも、既に出来なくなっていた。
完全に精神を包まれて、その中で恐怖がどんどん膨れていく。
恐怖が絶望にまで育ったことを、確認したからだろうか。
白い、得体の知れないこの生物の、放つ空気が不意に変化していた。
ゼリーのようにぷるぷると震える身体の、右肩から生える触手状の腕がゆっくりと持ち上がる。
やわらかくしなったかと思うと、小動物を襲う蛇のごとく鎌首が振り下ろされた。
先端が、アサキの胸に突き刺さり、背を突き抜けていた。
いや、貫かれたかに見えたは幻か、
アサキへの触手の攻撃は、いままさに胸に突き立たんとする寸前で、受け止められていたのである。
長い、槍状の物に。
「アサキちゃん、大丈夫?」
聞き覚えのある、少女の声が聞こえた。
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