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第一章 令和の魔法使い
06 明木治奈は、階段を登った二階一番奥にある部屋のドアを
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明木治奈は、階段を登った二階一番奥にある部屋のドアを開けて、中へ入った。
治奈の自室だ。
先ほどまで下の店舗で、令堂和咲の母親と話をしていたのだが、学校の宿題があるからと切り上げてきたのだ。
制服を脱いで壁のハンガーに掛けると、スエットに着替えた。
ベッドに腰を掛けると、左腕にはめているリストフォンを通話モードに切り替え、発信した。
「あ、明木です。
はい……その件なんじゃけど。
ええ、接触はしました。
はい。そう、そうです。
それは……いえ、まだ、渡してはいません。
話もまだ……
すみません。
ほじゃけえ、新型装備の開発が順調ゆうことなら、このエリアはこれまで通り、うちらだけで守れると思うんじゃけど。
先輩たちは卒業していなくなったけど、うちらももう一年生じゃないわけで、最初と比べて間違いなく成長している。
……あ、いや、そういうわけでは。
すみません。
なんか、タイミングというか、その……
しばらくは、うちらだけでその分を頑張りますから。
迷惑は絶対にかけません。
うちらのエリアからは、絶対に犠牲者は出しません。
はい。
ほいじゃ失礼します」
リストフォンの通話アプリを閉じると、ばったんとベッドに倒れた。
両腕を広げて、
「うちは管理職のオヤジかあ!」
叫び声が、むなしく天井に吸い込まれた。
ふーーっ、と長いため息を吐いた、その時である。
「なに? オヤジって誰のことお?」
治奈を幼くした感じの、十歳くらいの小さな女の子が部屋に入ってきた。
「ふ、史奈っ! 黙ってお姉ちゃんの部屋に入りよるないつもいっとるじゃろ!」
「だってえ、これ返しにきたんだもん」
明木家で一人標準語を喋る史奈。
物心ついた時には、既に我孫子市民つまり関東人だったためである。
史奈は一冊の漫画本を姉へと差し出した。「恋愛バトルロワイヤル」というギャグタッチ少女漫画の単行本だ。
「黙って入る理由にはなっとらんわ。今度から注意してな」
「はーい」
「……ああ、ほうじゃ、フミの友達で、猫を飼いたいって子おらんかな? 子猫を二匹なんじゃけど」
「どうだろうなあ。明日、学校で聞いてみるね」
「ありがと。頼む」
「じゃあ、なんか他の漫画本を貸して。また恋愛ものがいい」
「ほんまにませとるなあ。たまには、漫画日本の歴史とか、そがいなもんを読まんのか」
「お姉ちゃんだって、そんなの一冊も持ってないじゃないかあ。変な漫画ばっかりでさあ」
「変いうな。ただの少女漫画じゃろ。少女漫画は多感な中学生女子にとって人生バイブルじゃけえ。……なんでもええからどれか一冊二冊好きなの選んで、自分の部屋で読んでな。ただし宿題もしっかりやること」
「はあい。……なんか追い出したがるよねえ最近。前はここで、ずーーーっと二人で遊んでいたのにさあ」
「あ、あ、いや、そう思わせてるならごめん、別に嫌いとか、そういうわけじゃないけえね。お姉ちゃんもほらっ、花の女子中学生じゃ。そろそろ乙女のプライベート空間を大切にしたいなー、というだけでな」
あたふた、なんだかいいわけめいた態度の治奈。
「ふーん。まあどうでもいいけど」
史奈は漫画本ぎっしりの本棚から二冊選び出すと、部屋を出ていった。「乙女ねえ」とぼそり、プッと笑いながら。
「乙女じゃろが!」
顔を真っ赤にして怒鳴ると、再びベッドにばったん。
ふう、と息を吐いた。
別にそんなに怒ってはいない。
妹に隠し事をしている罪悪感を、ごかましただけだ。
確かに最近、自分の周囲から妹を遠ざけようとしている。
間違いない。
でもそれは、単に巻き込みたくないがため。
「勉強でもやるか」
立ち上がり、学習机の椅子に座り直す。
カバンから教科書を、机の棚から参考書を、それぞれ取ったところで、左腕のリストフォンがブーーーーブーーーーと振動した。
「ああもう! 休まる暇ないなあ。今度はなんじゃい」
と、画面を見てびっくり。
すぐに空間投影に切り替えた。
治奈の目の前に、リストフォンから投影されている画面が映った。
この近辺の地図だ。
地図上に赤い小さな丸が四つ、それぞれの丸のすぐ横には小さく顔写真。
明木治奈、
大鳥正香、
昭刃和美、
平家成葉、
この四人だ。
さらには、黄色い丸が六つ。
二つは治奈を示す赤丸のすぐ近くで、残る二つはどちらかといえば他の三人に近い。
「分散出現か。参ったな。まあ、まとまってるのも厄介じゃけど」
ぶーーー。
リストフォンから、先ほどとは異なる振動。
空間投影された画面には、
着信 カズミちゃん
と表示されて、大きく昭刃和美の顔が映っている。
治奈は投影されている画面を消すと、リストフォンを自分の耳に当てて、こそこそっと小さな声を出す。
「ああ、カズミちゃん。
確認した。
……ほじゃな、確かにあいつら最近強くなっているし合流して各個撃破がベストなんじゃろな。
じゃけえ、こっちに近い三体あるじゃろ。
ここ令堂さん……アサキちゃん家にも近いし、早めに対処しないと不安じゃけえね。
ほじゃけえ、そっちに近い三体はカズミちゃんたち三人に任せて、うちだけ別行動でもええかの。
無茶? ま、危ない思うたら無理せずなんとか粘って足止めだけしておくから、そっち片付いたら合流して助けてな。
うん。
ありがとう。
そっちも気を付けてな。
ほいじゃまたの」
治奈の自室だ。
先ほどまで下の店舗で、令堂和咲の母親と話をしていたのだが、学校の宿題があるからと切り上げてきたのだ。
制服を脱いで壁のハンガーに掛けると、スエットに着替えた。
ベッドに腰を掛けると、左腕にはめているリストフォンを通話モードに切り替え、発信した。
「あ、明木です。
はい……その件なんじゃけど。
ええ、接触はしました。
はい。そう、そうです。
それは……いえ、まだ、渡してはいません。
話もまだ……
すみません。
ほじゃけえ、新型装備の開発が順調ゆうことなら、このエリアはこれまで通り、うちらだけで守れると思うんじゃけど。
先輩たちは卒業していなくなったけど、うちらももう一年生じゃないわけで、最初と比べて間違いなく成長している。
……あ、いや、そういうわけでは。
すみません。
なんか、タイミングというか、その……
しばらくは、うちらだけでその分を頑張りますから。
迷惑は絶対にかけません。
うちらのエリアからは、絶対に犠牲者は出しません。
はい。
ほいじゃ失礼します」
リストフォンの通話アプリを閉じると、ばったんとベッドに倒れた。
両腕を広げて、
「うちは管理職のオヤジかあ!」
叫び声が、むなしく天井に吸い込まれた。
ふーーっ、と長いため息を吐いた、その時である。
「なに? オヤジって誰のことお?」
治奈を幼くした感じの、十歳くらいの小さな女の子が部屋に入ってきた。
「ふ、史奈っ! 黙ってお姉ちゃんの部屋に入りよるないつもいっとるじゃろ!」
「だってえ、これ返しにきたんだもん」
明木家で一人標準語を喋る史奈。
物心ついた時には、既に我孫子市民つまり関東人だったためである。
史奈は一冊の漫画本を姉へと差し出した。「恋愛バトルロワイヤル」というギャグタッチ少女漫画の単行本だ。
「黙って入る理由にはなっとらんわ。今度から注意してな」
「はーい」
「……ああ、ほうじゃ、フミの友達で、猫を飼いたいって子おらんかな? 子猫を二匹なんじゃけど」
「どうだろうなあ。明日、学校で聞いてみるね」
「ありがと。頼む」
「じゃあ、なんか他の漫画本を貸して。また恋愛ものがいい」
「ほんまにませとるなあ。たまには、漫画日本の歴史とか、そがいなもんを読まんのか」
「お姉ちゃんだって、そんなの一冊も持ってないじゃないかあ。変な漫画ばっかりでさあ」
「変いうな。ただの少女漫画じゃろ。少女漫画は多感な中学生女子にとって人生バイブルじゃけえ。……なんでもええからどれか一冊二冊好きなの選んで、自分の部屋で読んでな。ただし宿題もしっかりやること」
「はあい。……なんか追い出したがるよねえ最近。前はここで、ずーーーっと二人で遊んでいたのにさあ」
「あ、あ、いや、そう思わせてるならごめん、別に嫌いとか、そういうわけじゃないけえね。お姉ちゃんもほらっ、花の女子中学生じゃ。そろそろ乙女のプライベート空間を大切にしたいなー、というだけでな」
あたふた、なんだかいいわけめいた態度の治奈。
「ふーん。まあどうでもいいけど」
史奈は漫画本ぎっしりの本棚から二冊選び出すと、部屋を出ていった。「乙女ねえ」とぼそり、プッと笑いながら。
「乙女じゃろが!」
顔を真っ赤にして怒鳴ると、再びベッドにばったん。
ふう、と息を吐いた。
別にそんなに怒ってはいない。
妹に隠し事をしている罪悪感を、ごかましただけだ。
確かに最近、自分の周囲から妹を遠ざけようとしている。
間違いない。
でもそれは、単に巻き込みたくないがため。
「勉強でもやるか」
立ち上がり、学習机の椅子に座り直す。
カバンから教科書を、机の棚から参考書を、それぞれ取ったところで、左腕のリストフォンがブーーーーブーーーーと振動した。
「ああもう! 休まる暇ないなあ。今度はなんじゃい」
と、画面を見てびっくり。
すぐに空間投影に切り替えた。
治奈の目の前に、リストフォンから投影されている画面が映った。
この近辺の地図だ。
地図上に赤い小さな丸が四つ、それぞれの丸のすぐ横には小さく顔写真。
明木治奈、
大鳥正香、
昭刃和美、
平家成葉、
この四人だ。
さらには、黄色い丸が六つ。
二つは治奈を示す赤丸のすぐ近くで、残る二つはどちらかといえば他の三人に近い。
「分散出現か。参ったな。まあ、まとまってるのも厄介じゃけど」
ぶーーー。
リストフォンから、先ほどとは異なる振動。
空間投影された画面には、
着信 カズミちゃん
と表示されて、大きく昭刃和美の顔が映っている。
治奈は投影されている画面を消すと、リストフォンを自分の耳に当てて、こそこそっと小さな声を出す。
「ああ、カズミちゃん。
確認した。
……ほじゃな、確かにあいつら最近強くなっているし合流して各個撃破がベストなんじゃろな。
じゃけえ、こっちに近い三体あるじゃろ。
ここ令堂さん……アサキちゃん家にも近いし、早めに対処しないと不安じゃけえね。
ほじゃけえ、そっちに近い三体はカズミちゃんたち三人に任せて、うちだけ別行動でもええかの。
無茶? ま、危ない思うたら無理せずなんとか粘って足止めだけしておくから、そっち片付いたら合流して助けてな。
うん。
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ほいじゃまたの」
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