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10・拉致監禁
しおりを挟む「ここは?」
黒い渦が晴れると、そこは普通の一般的な家庭の部屋だった。
「ああ、ここは俺の実家だよ」
「実家?」
ケンヤの首にしがみついたままだった事に気づき、慌てて離れた。
「なんか普通の家の、普通の高校生の部屋に見えるけど?」
「ああ、だって俺は普通の高校生だからな」
「え?」
マジマジとケンヤを見た。
「え、え? だって死の国の幹部じゃなかったっけ?」
ケンヤは前髪をサラリとかきあげながら言った。
「幹部は職業だ」
「え」
なんて現実的な回答だ。いや、でも戦隊の皆さんが公務員な事を考えるとそれもアリなのか?
「えっとお給料はいくら位? ボーナス も出るの?」
「給料ボーナスは歩合制ってヤツかな?まあ、好きなだけこの世界から強奪すれば良いだけだから」
「それ給料って言わないから!」
俺の腕についている鎖をケンヤは引いた。
「わ?」
バランスを崩して倒れこむ俺をケンヤは抱きとめる。
「じゃあ、さっきの続きでもしようか?」
さっきはいきなりの異世界でビビリまくってしまったが、場所が一般家庭の部屋で相手も生れながらの怪物でも妖怪でもないとわかったら、なんかちょっと抵抗する元気が出てきた。
「そんな簡単に俺に触るなよ! 相手が同じ人間なら俺だって戦うっていう選択肢が出現するんだからな!」
ケンヤは無言でポケットからナイフを取り出した。
「う……」
一気に戦うという選択肢が遠のいた。ここは逃げるか静観するを選びたい所だ。
いっそ探索するというコマンドで一発逆転とか、魔法という奇跡の技はないだろうか。
ないだろうな。でも言ってみるだけなら。
「バギ!」
俺は叫んだ。ケンヤは白けた顔で俺を見つめる。
「なにそれ?」
「えっと……」
俺は自分にホイミ(回復魔法)をかけた。
「いや、いいんだよ、ちょっと言ってみただけなんだよ……」
「あんまりバカな事言ってると犯すよ」
「えっと、バカなこと言わなかったら犯さないでくれるの?」
ケンヤは考えるように顎をつまみながらじっと俺を見た。
「そうだな、ただ犯して殺すんじゃつまらないからな……」
「え?」
何故か俺は掃除機をガラコロと転がしていた。
ケンヤの野郎が、殺す前にこき使ってやろうと考えた結果がこれらしい。
俺の脚には鎖がつながれ、逃げ出せないようになってはいるが、掃除の都合で大分長い鎖に変えられている。
その鎖を引きずりながら、4LDKのマンションの中を行ったり来たりする。
「はーなんか金持ちそうだよな」
部屋の家具を見ながらそう思った。
超巨大な壁掛けテレビなんかが応接間に置かれている。
うちなんか古くて小さいテレビだって言うのに。
だいたいこのテレビの横の棚にある花瓶はなんだよ? マイセンか? ガレか? 有田焼か?
俺は陶器とガラスの区別もつかないまま、その花瓶を持ち上げた。
「確かこーゆーのは裏に名前があるんだよ。バンダ○とかサン○オとかさ」
裏返した瞬間、手から滑って花瓶が落ちた。
ガッシャーン!
「おおーーーー!」
ムンクの叫びになってしまった。これはマズイ、いや、マジにヤバイ。殺されてしまう!
「なにやってるんだ?」
リビングに現れたケンヤに心臓が止まりそうになる。
「わーパルプンテ!」
「……だから何だよ、その呪文」
「えっと、花瓶が元に戻らないかと思って……」
冷や汗ダラダラの俺に、ケンヤはつまらなそうに言う。
「早くその掃除機で破片吸い取って片付けろよ。まったく掃除させてたハズなのに散らかしやがって」
当然激怒されると思ってたので、その言葉に肩すかしを食らう。
「えっと、怒んないの?」
「別にこんな花瓶どうだって良いよ」
はー、金持ち様はおっしゃる事が違う。俺はケンヤが金持ちで物に執着しない人間でよかったと思った。
でないとどんなイジメにあってた事か。
掃除が終わると、最初にいたケンヤの部屋に連れていかれた。
ケンヤはベッドの上に寝転んで、本を読んでいた。
なんて言うかこうやって見ると、本当にただの高校生で悪の幹部には見えなかった。
「あのさ、なんであんたは悪の幹部になったんだ?」
聞いたらギロリと睨まれた。ケンヤは面白くなさそうに本を放り投げると体を起こした。
「お前、この世界にいて楽しいか?」
「え?」
戸惑う俺にケンヤは言う。
「俺はこの世界が大嫌いだったんだよ。何やっても面白くなかった。みんな自分の事しか考えていない。金儲けの事や出世のことで頭がいっぱい。俺の両親なんかその典型だよ。両親揃ってのエリートだが、お互いに愛人がいるような冷めた家庭だ。興味があるのは自分の出世と世間体だけ。息子の俺に望んでいるのだって高学歴のエリート街道のみだ。そんな家族、そんな世の中全部をぶっ壊してやりたかったんだよ」
ケンヤは乱暴にメガネをはずして投げた。
メガネをハズしたケンヤは秀才というより、ただの普通の少年に見えた。
ただの傷ついた少年に……。
「そんな時、俺はたまたまシューヤに会った。死の国の王子、悪の王子様だ。俺はこの出会いを運命だと思ったね。
だから俺は彼の配下になる事を選んだんだ。この間違った世界を壊すためにな!」
なんとなくケンヤの言葉もわからなくない気がする。
この世界は思ったほど、人にやさしくはない。
最近ではお年寄りに席を譲る若者も少なくなってしまっている。
「でもさ、でもみんながみんなヤな奴ばかりじゃないよ。そんな破壊してやりたい程ひどくもないんじゃない?」
ケンヤは俺を睨むと、胸倉を掴んできた。
「奇麗ごとはもう良いんだよ。俺は悪の幹部になったんだ。あとは世界を破壊するのみだ」
「う……」
絞められた首が苦しかった。
ケンヤはそのまま俺をベッドに引き倒した。
「わ?」
ケンヤは俺の体に伸しかかりながら言う。
「掃除も終わったし、そろそろお前の体で楽しませてもらおうか?」
「わ、やめろよ! 俺なんかとエッチしたって楽しくないよ!」
「別に楽しくなくても良いんだよ。シューヤに仕返しが出来ればさ」
「仕返し?」
暴れるのをやめてケンヤの顔を見た。
「……俺は悪の王子であるシューヤに憧れて尊敬していた。その彼の寵愛を受けるのは俺だと信じていた。だがシューヤはお前を選んだ。そんな事許せるわけないだろう?」
「えっと……」
俺はドキドキしながら聞いた。
「その、シューヤとお前ってなんか肉体関係だったワケじゃないの?」
すごい冷たい目で睨まれた。
「あの方は俺の事をただの部下としか思ってくれなかった」
俺は何故か安堵していた。シューヤとケンヤは恋人同士でも愛人でもなかった。
「なに笑ってるんだよ」
「え? 俺笑ってる?」
ケンヤの眉が思いっきり顰められる。
「そんなにシューヤを独り占めできて嬉しいのかよ。お前本当にマジでムカつくよ。俺がどんなにシューヤにこっぴどく振られたか、無視され続けていたか想像したんだろ?」
「い、いや、してないよ」
「いや、したんだ! 俺がキスしようとしたら、シューヤはしゃがみこんで花を摘んだり、俺が抱きつこうとしたら、落ちている小鳥のヒナを巣に戻したり、俺が○○○しようとしたらゴミの分別をし始めたり!」
「えっと、シューヤって実は良い奴なんじゃ?」
「違う! 全部俺の誘惑を交わす作戦だったんだ! それをお前は嘲笑いやがって……!」
「いや、だから俺ぜんぜん笑ってないけど?」
「そうだよ、当初の目的を忘れていた。俺はお前を犯しまくってボロボロにしてやるんだった。それをシューヤにあとで教えてやるんだ。はは、どう転んだって面白い展開じゃないか?」
ケンヤは俺の服の中に手を入れてきた。
「ちょ、やめろよ!」
その冷たい手に肌が泡立つ。
「いいぞいいぞ、もっと抵抗して泣き叫べよ。俺は悪に堕ちた身だからな。嫌がる人間の悲鳴は心地よい交響曲のようだよ。あはははは……」
俺は今までにないピンチに陥っていた。
ケンヤはどこかヤケのように、壊れたように笑い続けている。
「た、助けて……」
誰にともなくそう言っていた。するとケンヤが俺の耳を舐めた。
「シューヤは助けにこないよ。あいつは俺が人間だった時に、どこに住んでたかなんか知らないからな」
「あ……」
絶望に包まれた。
俺はこのままケンヤに犯されてしまうのだろうか?
助けはこないのだろうか?
シューヤとタケルさんの顔が交互に浮かぶ。
助けて……!
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