上 下
77 / 101
第二章 本部編

76 愛されるとは…

しおりを挟む
 パスカルは今なんて言った?

———俺が愛されている……だと?

 この俺がか? 前世で友人に「引くわー」と言われ無惨に振られたこの俺が愛されていると……それもイケメン4人に……
 クロムに関してはさっき出会ったばかりである。会ったばかりでするのも大概問題だが、4人の顔を見ればギル以外出会ってすぐしていたので、気にしていたらキリがなかった。
 
「サタロー、君の過去に何があったのか分からないけどこの国では性別なんて関係ないんだよ」

 俺の不安がどうやら顔にまででていたのだろう。アルは優しい顔で俺の頬に手を添えてそっと撫でる。

「そーそー、俺だって男とするの初めてだったけどサタローとするの超気持ちよくてクセになったし~」

 恥ずかしげもなくそう言ったレオが後ろから俺に覆い被さる。
 ———重い……

「ガキが遠慮なんてするな。困ったら頼ってくればいい」

 ギルも荒っぽい口調ながらも優しく俺の頭に手を置いて撫でる。

「小生も愚痴にならいつでも付き合うよ」

 大渋滞している隙間からクロムがひょっこり顔を出してそう言った。

「まぁ、そう言うことだ。よかったなサタロー」

 パスカルの声が聞こえる。これは良かったのだろうか。正直愛される相手は一人で良いのだけれど、と贅沢なことを思ってしまう。そもそも愛されてるってどういうことだ。俺の中で"愛"と言う言葉がゲシュタルト崩壊を起こしている。
 おそらく、この4人のイケメンから俺は毎回魔力を貰う相手を選んでいいですよーということだろうか……
 そんなの……

「ムリムリムリーーー!」
「どうしたんだい、サタロー」

 いきなりの叫び声に4人は驚いている。

「選べないよ! みんなかっこいいし優しいし誰に貰うとか俺にはとても選べません!」

 率直な気持ちを4人に伝える。優柔不断でチキンな俺には荷が重すぎる。すると4人は顔を見合わせそれぞれが異なったリアクションをする。
 クロムは嬉しそうに「小生も仲間に入れてもらえたわけか」と言っている。喜んでもらえてよかったよ。
 レオはニヤニヤしながら「じゃあ5人でする~?」とか言ってる。これに関しては全力で遠慮する。1人でも疲れるのに4人とか過労死する。
 ギルは呆れた顔で「相変わらずだな」とため息を吐いている。落ち込むのでやめてほしい。
 アルはと言うと「私を選んでくれないのかい」と今にも泣きそうな子犬の様な顔で俺のことを見ている。心が痛いのそんな顔で見ないでくれ。

「全くお前達は、決まらないなら当番制にすれば良い。アルフレッド、ギルバード、レオンハルトでクロムの順番でいいだろう。任務等入った時はサタローが適当に見繕え」

 そんな混沌な状況に救世主のパスカルが現れ、問題を一気に解決に導いた。色々ツッコミたいところはあるが、この際いいだろう。
 パスカルの提案に4人はまた思い思いの反応ををしたが、最終的に納得した様であった。

「納得したのならさっさと戻って仕事しろ!」

 パスカルの言葉に彼らは渋々仕事へ戻っていった。帰り際アルが俺に近づき何かを囁く。

「今はこれで受け入れるけど、必ず君を振り向かせて見せるからね」
「……えっ?」

 そう言ってみんなに見えない様に触れるだけのキスをした。アルは背を向けてそのまま仕事へと戻って行った。不意の行動に何の反応もできずその場に立ち尽くす。

「これはこれは、アルはサタローへの愛が強いようで」
「!?……なんでいるんだよ!」

 彼らが見えなくなると背後からクロムの声が聞こえた。てっきり一緒に戻ったのかと思っていた。

「だって小生、今日休みだし。いやはやそれにしても若者の面白い奪い合いに参加できるなんて楽しいねー」

 クロムはクツクツと口元に手を当てて笑いを堪えている。出会った頃とはずいぶん性格が違う。本当に同一人物なのかと俺は眉間に皺を寄せる。

「お前なんか性格変わってないか?」

 俺の言葉にクロムはハッとしたように一瞬固まるがまた直ぐにニヤリと笑う。

「これが本当の小生だからね~」
「はぁ? じゃあ今までのは何だったんだよ?!」
「サタローに近づくための演技だよ。何でも話せる落ち着きのある相談相手が欲しかったんだろう?」
「……っう」

 実際クロムの言っていることは的を得ており、何も言い返せない。森の中で今まであった愚痴も勢いで話したし、俺の方からクロムとは話しやすいと言っている。

「俺に近づくってなんだよ! 何が目的だよ!」
「目的か……そうだね。君に興味があったからかな。そういうことだからこれからよろしくねサタロー」
「っん! ふぁ……んあっ」

 俺にいきなりキスをしてきた。先ほどのアルとは違った濃厚なキスだ。腰を腕で抱えられているため身動きが取れず受け入れるしかなかった。

「っん……んはぁ、はぁ、はぁ」

 やっとの事で解放され、足りていなかった空気を必死に取り込む。
 少し落ち着いたところでギロッと上を向きクロムを睨む。今までの真顔の顔はどこへいったのか俺の顔とは対照的なニコニコした笑顔を向けている。

「……離せよ」
「えー、どうしよっかなー」
「は・な・せ!」
「はいはい」

 クロムは抱えていた腰から手をパッと離す。怒っている俺の姿を見ても相変わらずの笑みを浮かべている。掴みどころが無いのは変わっていないようだ。

「それじゃあ、またね」

 そう言ってクロムはその場を後にした。彼の言動、行動に対して全く腑に落ちないが、さっき決めた順番からいくとクロムに会うのは先のことだ。
 今日一日で色々ありすぎて疲れた。

 俺はその場に座り込み、大きなため息を吐く。すると足元に影ができたので上を向くとパスカルが目の前に立っていた。

「なんだよ」
「これから大変になるな」
「誰のせいだよ……って俺のせいなのか?」

 煮え切らない気持ちのままそう呟いた。



◇◇◇



 その日の夜、寝る準備を済ましベッドへダイブし、天井をぼーっと見ながら今日一日の出来事を思い出す。
 すると色々と気になる事が出てきた。
 立ち去る前にクロムが言い残した"目的"とは何なのかとか。それを聞いていたはずのパスカルが素知らぬ顔をしていたなとか。あいつは元々そう言うところはあるのだが……

 だがまぁそんな事またあった時に問い詰めれば良いわけで、そんなことより今日一番の出来事といえば決まっている。



———異世界に来たらイケメン4人に愛されました。



 ってことだろう。

 そもそも愛されてるとはどう言う意味なのだろうか。これは考え出すと終わらない難解な問題である。
 愛には色んな意味がある……はずだ。転移前ならここでスマホを取り出して瞬時に調べられる。スマホがなくとも辞書なんかでもわかる。だが、この世界にはスマホなんて便利なものはない。辞書はあるだろうが、生憎この国の字を読むことはできない。字が読めないのに何故言葉が通じているのか不思議ではあるが、きっと転移時の神様からの特典みたいなものだと思っている。

 つまり今"愛"についての意味を調べる手段はない。自分で考えるしかないので、自分の浅い知識で色々と考えを巡らせてみる。

 まず、思いつくのは好きの更に上の言葉とかだろうか。ドラマとか映画でも「好きだ! いや愛してる」とか言ったりするし、もっと好きなんだアピールをする時に使う気がする。

「うーん、これはないな」

 この考えはすぐに却下された。まず、彼らに好きと言われていない。言われてないのにあいつら俺のこと好きで好きでたまらない奴らなんだな、なんて思わないだろ。

 次に考えられることとすれば、可愛がるとか愛でるかな。ペットみたいな感覚的な……ないな、何故なら俺は人間だからだ。
 
「いや、まてよ」

 ペット以外だって当てはまるだろう。例えば兄弟を可愛がってるとかも言うからな。

「そうか! そう言うことか!」

 難解なパズルのピースがピタリとハマったような快感でベッドから起き上がる。
 俺が辿り着いた答えはこうだ。
 俺はみんなからしたら年下の男である。つまり、弟みたいに可愛がっている=愛されてるってことだ。

「あー、スッキリした」

 俺は布団の中に潜り込む。
 体は疲れていたのに心がモヤモヤしてなかなか寝付けそうに無かった。今はモヤモヤがスッキリと晴れなんだかよく眠れそうである。
 数分もすれば俺は夢の中にいた。

 
 



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

【完結】廃品を直して売る俺は娼婦の息子の奴隷商。聖女でも王子でもないからほっといてくれ!

鏑木 うりこ
BL
 古い物に惹かれる俺は転生した世界で、一番使い捨てにされる物を直して使う能力を貰った。  元娼婦の母さんと姉さん達と暮らしながら細々と奴隷商なんかやって金を稼いでいたんだ。  安く仕入れて、直して高く売る。それが商売の基本だろ?  俺は悠々と生きていくだけのつもりだったのに、大変な騒動に巻き込まれて行く。俺は奴隷商であって、聖女でも姫でも王子でもないんだけど!?  BLR18になります。大人の方のみお楽しみいただける事をお願い致します。 文字数がオマケを含め15万字ほどのボリュームとなっております。随時手直しをしつつ、完結タグをつけさせてもらいました。  今作は切断表現が大量に出てくるダーク寄りの作品になっています。タグ、内容等を確認していただけると嬉しく思います! HOT6位ありがとうございます!(*ノωノ)ウオオオオオオ! たくさんのコメント、感想ありがとうございました!

お互い嫌っていると思っていたのは俺だけだったらしい

おはぎ
BL
お互い嫌っていて、会えば憎まれ口を叩くわ喧嘩するわで犬猿の仲のルイスとディラン。そんな中、一緒に潜入捜査をすることになり……。

当て馬にされていた不憫な使用人は天才魔導士様に囲われる

トキ
BL
使用人として真面目に働いているだけなのに、俺は当て馬にされることが多かった。俺は令嬢のことも夫人のことも好きじゃねえ! 向こうが言い寄って来て勝手に泣いて騒いで仕事の邪魔をして俺を当て馬に仕立て上げているだけだ! それなのに周囲はみんな彼女達の味方で俺に敵意を向けてくる。そんな最低最悪な職場なんてこっちから辞めてやる! と今の雇い主であるルグラン伯爵の部屋を訪れたら、其処には銀髪のイケメンさんが立っていた。旦那様と夫人は俺を悪者にしようと必死だが、イケメンさんには二人の言い分は一切通用せず、気付くと俺はイケメンさんのお家にお持ち帰りされていた。彼はベルトラン公爵家のご令息、ユベール・ベルトラン様で、十八歳にして天才魔導士と讃えられるほど高貴なお方だ。十年前、ユベール様は変態貴族に誘拐されて襲われそうになっていた。その時に前世の記憶を思い出した俺は「これ、絶対にアカンやつ!」と慌ててユベール様を助け、屋敷から連れ出して警備隊に保護してもらった。ユベール様とは一度しか会っていない筈なのに、彼は俺のことを「大天使様!」と言って溺愛してくるんですが、どうしたらいいですか? 公爵令息の天才魔導士×当て馬に仕立て上げられていた平民(転生者)。ユベールが主人公を好きすぎて色々とヤベエ奴です。彼にドレスしか着せてません。基本ギャグですが時々シリアス。少し残酷な描写を含みます。複数CP(王子×親友、その他男女CP含む)あり。 R18には最後に「※」を表記しています。 この小説は自サイトと『小説家になろう』のムーンライトノベルズ様にも掲載しています。自サイトはタイトルが少し異なります。

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

【R18】溺愛される公爵令嬢は鈍すぎて王子の腹黒に気づかない

かぐや
恋愛
公爵令嬢シャルロットは、まだデビューしていないにも関わらず社交界で噂になる程美しいと評判の娘であった。それは子供の頃からで、本人にはその自覚は全く無いうえ、純真過ぎて幾度も簡単に拐われかけていた。幼少期からの婚約者である幼なじみのマリウス王子を始め、周りの者が シャルロットを護る為いろいろと奮闘する。そんなお話になる予定です。溺愛系えろラブコメです。 女性が少なく子を増やす為、性に寛容で一妻多夫など婚姻の形は多様。女性大事の世界で、体も中身もかなり早熟の為13歳でも16.7歳くらいの感じで、主人公以外の女子がイケイケです。全くもってえっちでけしからん世界です。 設定ゆるいです。 出来るだけ深く考えず気軽〜に読んで頂けたら助かります。コメディなんです。 ちょいR18には※を付けます。 本番R18には☆つけます。 ※直接的な表現や、ちょこっとお下品な時もあります。あとガッツリ近親相姦や、複数プレイがあります。この世界では家族でも親以外は結婚も何でもありなのです。ツッコミ禁止でお願いします。 苦手な方はお戻りください。 基本、溺愛えろコメディなので主人公が辛い事はしません。

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

処理中です...