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第二章 本部編

58 甘えん坊でした

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「あの~、アル? そろそろ俺の相談を聞いて欲しいんだけど……」

 俺はおずおずと俺の肩に顔を埋めているアルに声をかける。

「ああ、すまないでも、その前に私の質問にもう一つ答えてくれないか」

「な、なに?」

 いつもより低い声で、弱々しく喋り出したアル。顔が見えなくて様子がおかしいアルに不安になる。

「ギルとレオに何された?」

「えぇ、それ言わなきゃだめ?」

 アルのまさかの発言にたじろぎながら拒否しようとした。
 さすがに恥ずかしくて言えない。特に昨日の俺のいらん行為とレオとの行為は恥ずかしくて絶対に言えない。

「そんな卑猥なことしたのかい!!」

「いやぁ……べ、べつにそんなこと、ないよ」

「サタロー嘘つくの下手すぎるよ。答えて、答えないと相談聞いてあげないし部屋に帰さないよ」

 ええーー!
 なにそれ、ていうかアルってこんな人だったっけ??なんかすごく子どもっぽいんだけど……
 でもアルとは転移して最初に出会った人物の一人ではあるが実は1週間ちょっとしか関わっていないんだよね。

 相談に乗ってほしいが話すのはちょっとな……そういうのはリズとソフィさんだけにしてほしい。

 でもこれは本当に帰してくれなさそうなので、なるべくマイルドに伝えられるような言葉を探す。
 
「えっと、俺のね、その、胸感じるようになっちゃった!」

「なっ!? 本当かいそれ!」

「う、うん」

 俺はモジモジしながら顔を真っ赤にして答える。アルの顔は見えないが自分の顔もアルから見えないことにかなりホッとしている。

「ひゃ! あっ……アルっ、何して!」

 黙り込んでいたアルが、急に俺の服の中に手を入れて胸の突起をいじり始めた。

「ふぁ……っん、あっ」

「本当に感じるんだね」

「んっ、感じるっ、からぁ……やめっ」

「はぁ、可愛いサタロー」

 俺の言葉なんて全く聞いていないアルは、容赦なく胸をいじり続けている。
 なんか俺の知っているアルじゃなさすぎて怖い。

「アルっ、アル、やだっ、んん……怖いよ」

「はっ、すまないサタロー」

  俺の必死な声にやっと気づいてくれたようでパッと手を離してくれた。俺は上がった息を整える。

「すまない、本当に……」

 今までにないほどの落ち込みを見せるアル。

 きっと任務で疲れて溜まっていたんだろう。言っちゃ悪いがあんな初対面でキスしてくる王子様の護衛なんて精神的に疲れそうだ。

 俺は落ち込んでいるアルの腕から抜け出し、向き合う形をとる。アルは頭を下げていて表情は見えないが自分のしたことに猛省しているご様子。
 これが魔法軍の団長だと思うと部下が見たら嘆きそうだが、俺はそんな姿が可愛いく見えた。

「はぁ、いいよ。許してあげる」

 可愛いアルが見れたし、きっと疲れておかしくなってしまっただけだろうと許してやる。アルの頭に手を置きよしよしと撫でてやった。
 レオとはまた違った髪質でサラサラで触り心地がいい。

「サタロー、ありがとう」

「おわぁ! ちょ、重いっ……」

 急に顔を上げたアルは俺に抱きついてきた。服を着ていると分かりにくいがアルの身体は相当に鍛え上げられている。そんな男をヒョロヒョロの俺が支えられるはずもなく、アルもろとも後ろへ倒れ込んだ。

 アルってこんな甘えん坊だったか……なんか俺の想像していたキャラと違う。実際はこんな感じなのかもしれない。普段気を張っている人ほど裏では甘えん坊とか、それともエドガー王子との任務中に何かあったのかもしれない。

 そんなこと考えてるとアルが俺の上から横に転がり、俺の体もそのまま横向きになりあると顔を合わせる形となった。

「サタローは優しいね。あの王子とは大違いだ」

「バカって……」

 まさかあの優しいアルまでもがこの国の王子様をバカ呼ばわりするとは……それもバカの部分を強調してた。俺は苦笑いをするしかなかった。
 やっぱり任務中に何かあったのかもしれない。アルの顔は忌々しげな表情を浮かべている。

 あまりにもひどい顔なので、理由を聞くのも気が引ける。確かリズがいうにはエドガー王子はアルに嫌がらせしてるって言ってたし、何か因縁でもあるのかもしれない。
 相当お疲れなアルに何かできないかと不意に思う。

「俺にできることがあるならなんでも言ってね。まぁ俺なんかアルの役には立たないと思うけどさ……」

 少しでも恩人のアルの力に慣ればと言ってみるが、軍の仕事もできない俺がアルの役に立つとは思えない。自分で言ってて恥ずかしくなってくる。

 しかしアルは、俺の戯言ざれごとに真剣な顔をする。

「本当になんでもしてくれるのかい……」

「えっ?うん、俺にできることがあるんだったら」

「本当の本当に、どんなことでもかい?」

「……う、ん」

 今までにないほどに真面目なアルの眼差しに吸い込まれそうになる。そこまで言われるとちょっと自信がなくなってくる。

 パスカルやレオみたいに無茶苦茶なことを言ってくるタイプではないから、きっと俺にでもできることだと思う。
 真面目なアルの表情に俺は緊張から固唾を呑みアルの言葉を待った。

 ──"なんでも"なんて無責任なこと言うんじゃなかったと、その後俺は自分の言葉に後悔するのであった。
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