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【 5章 後編 】
3話 〔68〕
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ここからは、私は残ったシュウに付いて行くことに決めた。
それからというものシュウは、校内の鍵のかかっていない部屋を、ひとつずつ手当たり次第探し回った。そして、校舎をひと通り探し終えて、それでも居ないとわかると、職員室に残っていた教師にひと声かけて学校を出た。
そのあとも、街のほうや私の行きそうなアテを思い出しては、そこかしこと駆けずり回った。
どこにも手掛かりなんてあるはずもなかったが、それでもシュウは懸命に、ひと晩中私を捜索し続けた。
疲労を感じない私の異常な体とは訳が違う。
陽が昇りかけて空が白み始めるようになった時分に、疲弊しきってようやくシュウは帰宅した。
自分の部屋に戻ったシュウはベッドのうえに崩れ落ちた。
「ごめんね、シュウ……。こんなになるまで散々心配かけて」
突っ伏したシュウは力を振り絞って仰向けに体勢を変えると、ただ呆然と天井を眺めている。
私はそのベットの横に近寄って屈みこんだ。
「時間移動なんて、やっちゃいけなかったんだよ……」
くたくたになって、目を閉じてしまったシュウの耳元でささやく。
「もう、あたしには会えないかもしれないよ。シュウ……」
現実は、一週間進んでいる。けれど、この先の時間に進んでも、元に戻れる確証なんてこれっぽっちもありはしない。
「さようなら……」
シュウの頬に手を添えて、目を瞑りながら……。
そっと、別れの口づけをかわした。
あのときのような柔らかさは感じられない。でも、息遣いがはっきりと伝わってくる。
…………。
「未那……」
――――!
その声に目蓋を開けると……、シュウの瞳は私を見つめていた。
咄嗟に唇を離し、驚きのあまり目はひと際大きく見開いてしまう。
「そこに居るんだろ? 未那……」
…………絶句。
だがしかし、その瞳には姿が映ってはいなかった。
シュウの視線はその先の空で留まっている。
こんなに傍にいるのに、まったく別の世界にいるのだ。
私の存在はこの世界から隔離されている。孤独で深淵の中にあるというのに。
「返事はできないだろうけど、たぶん聞こえてると思うから聞いてほしい」
いま私は、確かにシュウに認知されている……。
「原因はよくわからないけど、時間移動しちまったんだろ?」
もう誰にも覚られることのない存在の私に気付くことができている……。
抑えきれない涙があふれて頬を伝う……。
「未那は昔っから、変わっていたからな。いつかこういうときがきてもおかしくないって思ってたよ」
シュウはいつも私を否定しない……。
「幽霊理論だよな? 過去に時間移動はできた。けど、思うような結果にはならなかった? そんなところだろ」
シュウはいつも私を理解する……。
「ここ一年ぐらい、時々近くで感じてたのは未那だったんだろ?」
百六十回を超える時間跳躍は無駄じゃなかった。
「それでも、どうにかしてこの時間までは戻ってこれたんだな?」
涙が止めどなく溢れ落ちる。
「助けて……シュウ……」
この声もシュウの耳には届いてはいなかったはずだ。けれど――。
「待ってろ、僕が必ず助ける。絶対に見つけて元の未那を連れ戻す!」
子供の頃からそうだった……。みんなでかくれんぼして遊んだときでも、私はいつも難しい所にばっかり隠れて、みんなは諦めて帰ってしまうときも、最後はシュウが必ず私を見つけてくれた。
「だから、三日間だけ我慢して。それまでに僕が帰れる方法を突き止める」
シュウはこれまで私達との約束を破ったことはない。
「調べた方法は、僕のその机の上に紙に書いて教えるから」
シュウに任せておけば問題無い。
「それを信じて行動するんだ」
「うん……。ありがとう。シュウ……」
私は心から安心してポケットの中の結晶を握り締めた。
それとともに空間は衝撃をつくって終息した――。
それからというものシュウは、校内の鍵のかかっていない部屋を、ひとつずつ手当たり次第探し回った。そして、校舎をひと通り探し終えて、それでも居ないとわかると、職員室に残っていた教師にひと声かけて学校を出た。
そのあとも、街のほうや私の行きそうなアテを思い出しては、そこかしこと駆けずり回った。
どこにも手掛かりなんてあるはずもなかったが、それでもシュウは懸命に、ひと晩中私を捜索し続けた。
疲労を感じない私の異常な体とは訳が違う。
陽が昇りかけて空が白み始めるようになった時分に、疲弊しきってようやくシュウは帰宅した。
自分の部屋に戻ったシュウはベッドのうえに崩れ落ちた。
「ごめんね、シュウ……。こんなになるまで散々心配かけて」
突っ伏したシュウは力を振り絞って仰向けに体勢を変えると、ただ呆然と天井を眺めている。
私はそのベットの横に近寄って屈みこんだ。
「時間移動なんて、やっちゃいけなかったんだよ……」
くたくたになって、目を閉じてしまったシュウの耳元でささやく。
「もう、あたしには会えないかもしれないよ。シュウ……」
現実は、一週間進んでいる。けれど、この先の時間に進んでも、元に戻れる確証なんてこれっぽっちもありはしない。
「さようなら……」
シュウの頬に手を添えて、目を瞑りながら……。
そっと、別れの口づけをかわした。
あのときのような柔らかさは感じられない。でも、息遣いがはっきりと伝わってくる。
…………。
「未那……」
――――!
その声に目蓋を開けると……、シュウの瞳は私を見つめていた。
咄嗟に唇を離し、驚きのあまり目はひと際大きく見開いてしまう。
「そこに居るんだろ? 未那……」
…………絶句。
だがしかし、その瞳には姿が映ってはいなかった。
シュウの視線はその先の空で留まっている。
こんなに傍にいるのに、まったく別の世界にいるのだ。
私の存在はこの世界から隔離されている。孤独で深淵の中にあるというのに。
「返事はできないだろうけど、たぶん聞こえてると思うから聞いてほしい」
いま私は、確かにシュウに認知されている……。
「原因はよくわからないけど、時間移動しちまったんだろ?」
もう誰にも覚られることのない存在の私に気付くことができている……。
抑えきれない涙があふれて頬を伝う……。
「未那は昔っから、変わっていたからな。いつかこういうときがきてもおかしくないって思ってたよ」
シュウはいつも私を否定しない……。
「幽霊理論だよな? 過去に時間移動はできた。けど、思うような結果にはならなかった? そんなところだろ」
シュウはいつも私を理解する……。
「ここ一年ぐらい、時々近くで感じてたのは未那だったんだろ?」
百六十回を超える時間跳躍は無駄じゃなかった。
「それでも、どうにかしてこの時間までは戻ってこれたんだな?」
涙が止めどなく溢れ落ちる。
「助けて……シュウ……」
この声もシュウの耳には届いてはいなかったはずだ。けれど――。
「待ってろ、僕が必ず助ける。絶対に見つけて元の未那を連れ戻す!」
子供の頃からそうだった……。みんなでかくれんぼして遊んだときでも、私はいつも難しい所にばっかり隠れて、みんなは諦めて帰ってしまうときも、最後はシュウが必ず私を見つけてくれた。
「だから、三日間だけ我慢して。それまでに僕が帰れる方法を突き止める」
シュウはこれまで私達との約束を破ったことはない。
「調べた方法は、僕のその机の上に紙に書いて教えるから」
シュウに任せておけば問題無い。
「それを信じて行動するんだ」
「うん……。ありがとう。シュウ……」
私は心から安心してポケットの中の結晶を握り締めた。
それとともに空間は衝撃をつくって終息した――。
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