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【 6章 】
1話 〔56〕
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謎の結晶の力を利用して、時間を取り戻す方法を発見したことで、私はこの手段に一縷の望みを託していた。
しかし、現実問題。たとえ元の時間に辿り着いたとしても、本物の体が死体となって処分されていたら一巻の終わり。
それでもやるしかなかった……。『もう一度、あの場所に帰りたい』
¶
最初にシュウの部屋で発動したジャンプから数えて二十回目の成功。
だいぶ要領もよくなって、結晶が発する閃光や直後の状況変化にもずいぶん慣れてきた。
この日は、去年の七月二十五日。高校では夏休みにはいり、その序盤といったところ。
去年の夏はえらく暑い日が多く、日本中で猛暑日が続き最高気温の記録を各地で更新したのを憶えている。
ここは適度にエアコンが効いていて、いまはそれなりに快適だ。
ここというのはシュウの部屋。前回は七月二十三日の朝、シュウが自室で目覚めたところを見計らって発動させたので、そこから五十時間先の午前九時に、私は跳んできたのだった。
(えっと、シュウはどこかしら? もうどこかに出ていたらまた面倒ね)
部屋のドアから頭を出して、家の中の状況を観察してみる。
肝心のシュウはといえば、夏休みだというのにこんな時間からバタバタとせわしなく何やら準備を整えている最中のようだ。
部屋に戻って来ても、中に私がいるというのにお構いなし。
まぁ、相変わらず体が見えていないのだから、あまり無理をいっても仕方ない。
ちょっと足を止めたところを捕まえて、さっさと次の時間へ跳んでもよかったけれど、いつもなら見られないシュウの行動パターン。何をそんなに慌てているのかちょっと興味が湧いてきた。
ベッドに腰掛けて、その動向を注視する。
(かなりいろんな物を準備してるわね、由那とデートにしては荷物が多いか)
すでに中身がいっぱいになったリュックが用意されている。
着替えたのは制服ではなく、夏らしいカジュアルな私服だった。
(やっぱり出掛けるつもりらしいわね、午前中からどこに行くつもりかしら?)
それならあまりおかしなタイミングになると面倒なので、やっぱりいますぐ跳んでしまおうか……と迷ったりもした。そんなとき、それを遮るように玄関の呼び出しチャイムが鳴って、シュウは振り返った。
シュウはその訪問が予め申し合わせどおりといった感じで、前もって準備してあったリュックを床から拾い上げ、エアコンなどの部屋の電気を消して部屋を出てしまった。
(もう、見失ったら帰宅するまでホントにタイミングが無くなっちゃうわね)
そうなるとやっかいだと、私もすぐ後を追って玄関に出た。
玄関ドアを開けて入ってきていたのは、いまは彼女となった由那と、それについて来たこの時間世界の『ミナ』。毎度おなじみの姉妹ふたり組だった。
しかし、現実問題。たとえ元の時間に辿り着いたとしても、本物の体が死体となって処分されていたら一巻の終わり。
それでもやるしかなかった……。『もう一度、あの場所に帰りたい』
¶
最初にシュウの部屋で発動したジャンプから数えて二十回目の成功。
だいぶ要領もよくなって、結晶が発する閃光や直後の状況変化にもずいぶん慣れてきた。
この日は、去年の七月二十五日。高校では夏休みにはいり、その序盤といったところ。
去年の夏はえらく暑い日が多く、日本中で猛暑日が続き最高気温の記録を各地で更新したのを憶えている。
ここは適度にエアコンが効いていて、いまはそれなりに快適だ。
ここというのはシュウの部屋。前回は七月二十三日の朝、シュウが自室で目覚めたところを見計らって発動させたので、そこから五十時間先の午前九時に、私は跳んできたのだった。
(えっと、シュウはどこかしら? もうどこかに出ていたらまた面倒ね)
部屋のドアから頭を出して、家の中の状況を観察してみる。
肝心のシュウはといえば、夏休みだというのにこんな時間からバタバタとせわしなく何やら準備を整えている最中のようだ。
部屋に戻って来ても、中に私がいるというのにお構いなし。
まぁ、相変わらず体が見えていないのだから、あまり無理をいっても仕方ない。
ちょっと足を止めたところを捕まえて、さっさと次の時間へ跳んでもよかったけれど、いつもなら見られないシュウの行動パターン。何をそんなに慌てているのかちょっと興味が湧いてきた。
ベッドに腰掛けて、その動向を注視する。
(かなりいろんな物を準備してるわね、由那とデートにしては荷物が多いか)
すでに中身がいっぱいになったリュックが用意されている。
着替えたのは制服ではなく、夏らしいカジュアルな私服だった。
(やっぱり出掛けるつもりらしいわね、午前中からどこに行くつもりかしら?)
それならあまりおかしなタイミングになると面倒なので、やっぱりいますぐ跳んでしまおうか……と迷ったりもした。そんなとき、それを遮るように玄関の呼び出しチャイムが鳴って、シュウは振り返った。
シュウはその訪問が予め申し合わせどおりといった感じで、前もって準備してあったリュックを床から拾い上げ、エアコンなどの部屋の電気を消して部屋を出てしまった。
(もう、見失ったら帰宅するまでホントにタイミングが無くなっちゃうわね)
そうなるとやっかいだと、私もすぐ後を追って玄関に出た。
玄関ドアを開けて入ってきていたのは、いまは彼女となった由那と、それについて来たこの時間世界の『ミナ』。毎度おなじみの姉妹ふたり組だった。
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