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【 5章 前編 】
4話 〔54〕
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私は強く瞑っていた目蓋を、こわごわと開いて自分の存在を把握する……。
これが二度目の体験だったおかげか、すでに普通の体じゃないからか、あの恐ろしい暗黒虚無の感覚に襲われることはなかった。
「ん……ここは……?」
確かに、ついさっきまで私が立っていた場所。シュウの部屋の中で間違いない。
「…………!」
けれど、いままで目の前にいたはずのシュウの姿がそこには無い。
「えっ!? まさか……」
慌てて部屋の中を見渡す。やっぱりどこにも見当たらない。
「消えた!?」
イヤな予感。額に汗が浮かび出る……。
パラドックスを起こそうとした所為で、シュウまでおかしな事故に巻き込まれてしまった……?
事態が飲み込めず混乱で呼吸が荒くなる。
「そんな……なんで」
手の中には、あの結晶が残っている。それならシュウはどうなってしまったのか……?
私の体は……。部屋の壁際に立て掛けてあったスタンドミラーに目が止まった。
「やっぱりダメかぁ、まだ映ってないものね……」
期待はしていなかったけれど依然として体の状態は変化なく、近くのテーブルに転がっていたテレビのリモコンにも触れられなかった。
「とりあえず、何が起こったのか……ちゃんと確認しなきゃ」
あせって気が付かなかったけれど、よくみると部屋の状況にも何点か不自然なところがあり腑に落ちない。
来た時には点いていたはずの、部屋のテレビがいつの間にか消されている。
「このパターンは前にも……。もしかして、また時間移動があったの?」
窓の外もさっきよりは明るいし、ハンガーに掛かっていたシュウの制服もいまは無くなっているので、学校に行っている時間に飛んだという可能性があるとも想像できた。
「いまが一体いつなんだか、それをはっきりさせたいわよね……」
シュウの部屋にはそれがわかるような物が見つかりそうになかったので、違う部屋に移ることにした。
慌ただしく廊下を走り、居間に来てすぐに必要な情報の確認はできた。
掛け時計は九時十分を指していたし、テーブルに置いてあった新聞の日付は、まだ去年の六月十七日と書かれている。
丸二日と二時間が経過した計算になる。
「これって……、五十時間進んだってことよね」
何故そうなったのか、今は冷静に考えられない。
まずはシュウの安否を確認する必要があるので、私は高校へ駆けつけた。
¶
当時一年生だったシュウの教室を覗いてみると、そこには無事本体があった。
席に着いてしっかりと、何事もなく授業を受けている姿があり、ひと安心といったところ。
「よかった……。また、あたしみたいに、とんでもないことになったのかと思ったじゃないの」
どうしてこうなったのか? 正確な理由はわからないけれど、簡単に推理をするなら、私が無理やりパラドックスを起こそうとしたことで、ある種のパラドックス防止処理が働いたのだと考えられる。
それなら、本来パラドックスが起こる前の時間に戻されてしまいそうな気がするものだけど、今回のように強制的にパラドックスを引き起こそうという意思があれば、また同じ行動を繰り返し、際限なく過去がループする。
そうなれば、先にいた『私』と更に戻ってきた私が、暴走したナノマシンのように無限に増え続けるのではないか?
もしくは、六月十五日という時間が永久に進まなくなることも考えられる。
なので、逆に時間を進めることで、パラドックスを修復するような処理で矯正されたのだと考えたほうが自然かもしれない。
これが二度目の体験だったおかげか、すでに普通の体じゃないからか、あの恐ろしい暗黒虚無の感覚に襲われることはなかった。
「ん……ここは……?」
確かに、ついさっきまで私が立っていた場所。シュウの部屋の中で間違いない。
「…………!」
けれど、いままで目の前にいたはずのシュウの姿がそこには無い。
「えっ!? まさか……」
慌てて部屋の中を見渡す。やっぱりどこにも見当たらない。
「消えた!?」
イヤな予感。額に汗が浮かび出る……。
パラドックスを起こそうとした所為で、シュウまでおかしな事故に巻き込まれてしまった……?
事態が飲み込めず混乱で呼吸が荒くなる。
「そんな……なんで」
手の中には、あの結晶が残っている。それならシュウはどうなってしまったのか……?
私の体は……。部屋の壁際に立て掛けてあったスタンドミラーに目が止まった。
「やっぱりダメかぁ、まだ映ってないものね……」
期待はしていなかったけれど依然として体の状態は変化なく、近くのテーブルに転がっていたテレビのリモコンにも触れられなかった。
「とりあえず、何が起こったのか……ちゃんと確認しなきゃ」
あせって気が付かなかったけれど、よくみると部屋の状況にも何点か不自然なところがあり腑に落ちない。
来た時には点いていたはずの、部屋のテレビがいつの間にか消されている。
「このパターンは前にも……。もしかして、また時間移動があったの?」
窓の外もさっきよりは明るいし、ハンガーに掛かっていたシュウの制服もいまは無くなっているので、学校に行っている時間に飛んだという可能性があるとも想像できた。
「いまが一体いつなんだか、それをはっきりさせたいわよね……」
シュウの部屋にはそれがわかるような物が見つかりそうになかったので、違う部屋に移ることにした。
慌ただしく廊下を走り、居間に来てすぐに必要な情報の確認はできた。
掛け時計は九時十分を指していたし、テーブルに置いてあった新聞の日付は、まだ去年の六月十七日と書かれている。
丸二日と二時間が経過した計算になる。
「これって……、五十時間進んだってことよね」
何故そうなったのか、今は冷静に考えられない。
まずはシュウの安否を確認する必要があるので、私は高校へ駆けつけた。
¶
当時一年生だったシュウの教室を覗いてみると、そこには無事本体があった。
席に着いてしっかりと、何事もなく授業を受けている姿があり、ひと安心といったところ。
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どうしてこうなったのか? 正確な理由はわからないけれど、簡単に推理をするなら、私が無理やりパラドックスを起こそうとしたことで、ある種のパラドックス防止処理が働いたのだと考えられる。
それなら、本来パラドックスが起こる前の時間に戻されてしまいそうな気がするものだけど、今回のように強制的にパラドックスを引き起こそうという意思があれば、また同じ行動を繰り返し、際限なく過去がループする。
そうなれば、先にいた『私』と更に戻ってきた私が、暴走したナノマシンのように無限に増え続けるのではないか?
もしくは、六月十五日という時間が永久に進まなくなることも考えられる。
なので、逆に時間を進めることで、パラドックスを修復するような処理で矯正されたのだと考えたほうが自然かもしれない。
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