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【 TBA 】
1話 〔36〕
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学校からは少し距離はあるが、この街で一番品揃えのいいことで定評のある書店にやって来る。
早速、由那はお目当ての小説のほか、いくつもの書籍を手に取っては、ぱらぱらとめくってまた棚に戻すという作業に没頭している。
欲しい本を全て買える小遣いがあるはずもなく、こうやって当たりをつけられるのはデジタル書籍にはない紙媒体のメリットだ。
「これは時間がかかりそうだな」
由那に関しては放っておいても手がかからないので、マリアの様子を伺いに雑誌のコーナーに足を向けた。
……? ぱっと見、少年誌・青年誌の雑誌コーナーには、あの目立つ頭のやつはいない。
「ん? マリアのやつどこにいった」
一本通路を隔てた女性向け雑誌のコーナーにマリアの姿はあった。
見た目が女の子だからその場に違和感はないが、一体どんな雑誌を夢中に読んでいるのか気になって、遠巻きにあいつが手で開いている雑誌と棚の表紙を見比べた。
嫌な予感は的中した……。それはBLというジャンルで一部の層で爆発的に人気が高いことは知っている。だが、マリアに至っては殊の外ベクトルが違う。
僕は、それを見なかったことにして、身震いをこらえてその場から後退った。
その後、一時間ほど店内をぶらぶらすると、由那とマリアのふたりは書店の紙袋を腕に抱えて、ほくほく顔で戻ってきた。
「シュウちゃん……ごめんね。待った……?」
「別にいいよ、そのために来たようなもんだしな」
本好きの人間と本を買いにくるということは、概そういうことになる予定だから心の準備はできていた。
「シュウ君! それじゃあ、このあとどうします?」
「んーそうだな。由那、未那から連絡はあった?」
「どうしたんだろ……一回もなかったよ……」
……おかしい。いつもならこういうことは未那が一番しっかりしている気質なのに。
「そっか、こっちにもまだ来てないな」
「さすがにこれだけ遅いと、今日はもうなさそうですね!?」
「しょうがないな。ひとりで帰ったのか? じゃあ今日は僕らも帰るとしよう」
未那のことは妙に引っ掛かったが、そういうこともあるか……と、思い込ませて家路につくことになった。
¶
のんびりと歩いて帰ったので、自宅の玄関をくぐったときにはすでに二十時半を越えていた。
居間に明かりが点いていて、中に居る母親はこれっぽちも息子の遅い帰宅に心配する様子もなく、呑気にテレビドラマを観ている最中だ。
「ただいま」
「おかえり、可愛い彼女が三人もいると大変ねぇ」
「恋愛ドラマの見過ぎかって……」
それに、いくつか間違いもあるけど、あえてツッコミたくはなかった。
「ご飯はどうするの?」
「食べるよ」
「じゃあそこにあるから、あとは自分で温めて食べなさい」
テーブルにはラップのかかった料理が置いてある。それをレンジで温めて胃袋に収めていく。
それでいい。味には不満はないし、高校生にもなって母親にあれこれ世話を焼かれるのも気持ちのいいものでもない。
早速、由那はお目当ての小説のほか、いくつもの書籍を手に取っては、ぱらぱらとめくってまた棚に戻すという作業に没頭している。
欲しい本を全て買える小遣いがあるはずもなく、こうやって当たりをつけられるのはデジタル書籍にはない紙媒体のメリットだ。
「これは時間がかかりそうだな」
由那に関しては放っておいても手がかからないので、マリアの様子を伺いに雑誌のコーナーに足を向けた。
……? ぱっと見、少年誌・青年誌の雑誌コーナーには、あの目立つ頭のやつはいない。
「ん? マリアのやつどこにいった」
一本通路を隔てた女性向け雑誌のコーナーにマリアの姿はあった。
見た目が女の子だからその場に違和感はないが、一体どんな雑誌を夢中に読んでいるのか気になって、遠巻きにあいつが手で開いている雑誌と棚の表紙を見比べた。
嫌な予感は的中した……。それはBLというジャンルで一部の層で爆発的に人気が高いことは知っている。だが、マリアに至っては殊の外ベクトルが違う。
僕は、それを見なかったことにして、身震いをこらえてその場から後退った。
その後、一時間ほど店内をぶらぶらすると、由那とマリアのふたりは書店の紙袋を腕に抱えて、ほくほく顔で戻ってきた。
「シュウちゃん……ごめんね。待った……?」
「別にいいよ、そのために来たようなもんだしな」
本好きの人間と本を買いにくるということは、概そういうことになる予定だから心の準備はできていた。
「シュウ君! それじゃあ、このあとどうします?」
「んーそうだな。由那、未那から連絡はあった?」
「どうしたんだろ……一回もなかったよ……」
……おかしい。いつもならこういうことは未那が一番しっかりしている気質なのに。
「そっか、こっちにもまだ来てないな」
「さすがにこれだけ遅いと、今日はもうなさそうですね!?」
「しょうがないな。ひとりで帰ったのか? じゃあ今日は僕らも帰るとしよう」
未那のことは妙に引っ掛かったが、そういうこともあるか……と、思い込ませて家路につくことになった。
¶
のんびりと歩いて帰ったので、自宅の玄関をくぐったときにはすでに二十時半を越えていた。
居間に明かりが点いていて、中に居る母親はこれっぽちも息子の遅い帰宅に心配する様子もなく、呑気にテレビドラマを観ている最中だ。
「ただいま」
「おかえり、可愛い彼女が三人もいると大変ねぇ」
「恋愛ドラマの見過ぎかって……」
それに、いくつか間違いもあるけど、あえてツッコミたくはなかった。
「ご飯はどうするの?」
「食べるよ」
「じゃあそこにあるから、あとは自分で温めて食べなさい」
テーブルにはラップのかかった料理が置いてある。それをレンジで温めて胃袋に収めていく。
それでいい。味には不満はないし、高校生にもなって母親にあれこれ世話を焼かれるのも気持ちのいいものでもない。
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