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【 1章 】

4話 〔5〕

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「時間の概念を持っているのは知的生物だけでしょうからね」

 未那は、おそらく『時間』という概念を持たなければ、それ自体を計り知ることもできないという意味で話を切った。

「ミジンコには時間観測はできない! ですね!」
「シュウはミジンコかな?」

 未那が冗談っぽく笑う。

「えーっ! シュウ君はミジンコなんかじゃないですよー!」

 マリアは真面目に否定してくれるが……。
 僕としてはべつに気にも留めなかったし、よく考えようともしていなかった。

「とにかく、僕には時間の歪みを計測することも、相対性理論の真偽を検証することもできないし。それを応用した時間移動が可能になるかもわからないぞ」

 タイムマシン理論には次に、時空を歪めてそれを利用しようというものがある。代表的なものに、『ワームホール理論』、『宇宙ひも理論』なんかがそのたぐいとされているけれど。
 どちらにしても、相対性理論が組み込まれていて、そこをはっきりさせないことには成立しない。
 第一、宇宙のどこにあるかもわからない仮説の穴やひもを発見して、人間がどうこうできるなんて、僕自身が思えなかった。
 まず間違いなく、僕が生きている間の地球の科学力では実現不可能だろう。

「由那は? どう思うんだ?」
「シュウちゃんが……、ミジンコ…………?」

 由那は、僕がミジンコかどうか本気で考えていたようだ。まぁ大方、哲学的なことまで思索にふけっていたんだろう。

「そ、そうじゃなくって! 時間移動、タイムマシンが作れるかどうか? ってことについてだよ」

少しあきれた言い方で促すと、一拍呼吸をあけて由那は口を開いた。

「わたしは……、できないと思う……。未来永劫…………」

 意外だった。由那のことだから、『タキオン理論』や『セシウムレーザー光理論』のような新しい粒子加速を利用した方法を考えているのかと思っていた。

「あら。未来永劫ってことは、遠い未来には時間の仕組みが解明されて、どれだけ科学技術が発展したとしても無理ってことよね?」

 女の子は自分の主張の肯定や共感を好むと言われるけれど、ここでは忌憚きたんの無い意見が求められる。

「うん……」

 由那は自信なく答えるが、考えもなく結論を出す性格じゃあない。

「なんか根拠がありそうだな?」

 問いかけると、小さく頷いた……。

「タイムパラドックス……。時間移動での過去の行動は、どんな些細な行動でも改変が加わると、その影響で想像もしない結果が起こると思うの……。現時点で深刻なパラドックスが起こってないということは、誰も過去を改変していない証拠……」

 そうだ! 『パラドックス』時間移動のテーマとは切っても切り離せない問題だ。
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