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番外編 その後の二人<王都視察>
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その日アイラ王女は王都の視察に出かけていた。
トウ国との違いを知りロゴス国を理解するためにも、王都を巡るのは良い方法ではある。
アイラ王女、王女付きの侍女一人、トウ国からの使者一人に対してロゴス国側からは腕の立つ護衛として近衛騎士を五名選出していた。
しかし王女からさらにルーカスの同行を求められ、護衛の立場ではないがルーカスもまた視察につき合わされている。
最初は馬車へ同乗するように求められたルーカスだったが、それは断って他の騎士と共に馬で移動していた。
(視察でどこに行くのかと思ったが、ドレスショップとジュエリーショプとは。視察ではなく観光でしかないな)
心の中で思いつつもルーカスは周りを警戒することを怠らない。
護衛ではないとはいえ、ルーカスも同行している状態でもし万が一襲撃されようものなら責任問題に発展してしまうからだ。
王女要望のジュエリーショップに着くと、王女が馬車を降りるに当たってエスコートのために近衛騎士が手を差し出した。
「ルーカス公がエスコートしてくださらないの?」
「王女殿下、私は妻しかエスコートしないと決めておりますので」
「まぁ。私に恥をかかせるおつもり?」
「めっそうもない。ちゃんとその騎士がエスコートを務めさせていただきます」
それ以上の会話は無駄だと判断し、ルーカスは一行を先導するために店に入る。
本来であればそれはルーカスの役目ではなく他の近衛騎士が担うものだ。
しかし王女の近くにいるだけで面倒事が増えると理解しているルーカスは率先して自分が動いていた。
「ようこそおいでくださいました」
店主の案内により一行は貴賓室へと通される。
店の奥から一流品である宝石が多く運ばれてきて、幾分機嫌を損ねていた王女の気分も回復したようだ。
「ルーカス公、王女殿下は公がご結婚されているのをご存知でありながらあのご様子ですか?」
王女が宝石を見る間、あえて壁際に控えているルーカスに近衛騎士の中でリーダーに当たる者が質問してくる。
「そうだ。初日からあの状態だ。過分に興味を持たれるのは困るとお伝えしているのだが…理解していただけないようだな」
「そうですか」
リーダーの視線にある種の同情が込められた。
ルーカスが軍部の総帥に就任してからしばらくは騎士たちとの間にも若干の軋轢や壁があったが、剣術大会への参加を経て今では信頼のおける関係性となっている。
「まずは問題なく視察を終わらせることに集中しよう」
「承知しました。…なるべく王女殿下のご興味を公からそらすように心がけます」
了解の返事の後に続けられた言葉に、ルーカスは一瞬驚きの表情を浮かべた。
「ルーカス公がアリシア夫人を大事にされているのは有名な話ですよ。我々も公には憂いなく仕事に従事していただきたいので」
「…それは、ありがたい」
「今日はそのために近衛騎士の中でも選りすぐりの者たちを連れてきています」
(なるほど。だから今日の騎士たちは腕も立ちさらには見目麗しい者が集まっているのか)
ルーカスは自分のあずかり知らぬところで周りが気を遣ってくれていたことに不思議な気持ちになった。
いつの間にか自分が受け入れられていることに、心の内が温かくなる。
腐ることなく実直に職務に向き合えたのは、いつでもアリシアがそばにいて見守ってくれていたからなのだと、ルーカスは改めて自身の妻に感謝した。
(早く家に帰りたい。アリシアとクラトスに癒やされたい)
つくづくそう思いながら、それでも仕事は仕事と割り切ってルーカスは王女の視察につき合ったのだった。
トウ国との違いを知りロゴス国を理解するためにも、王都を巡るのは良い方法ではある。
アイラ王女、王女付きの侍女一人、トウ国からの使者一人に対してロゴス国側からは腕の立つ護衛として近衛騎士を五名選出していた。
しかし王女からさらにルーカスの同行を求められ、護衛の立場ではないがルーカスもまた視察につき合わされている。
最初は馬車へ同乗するように求められたルーカスだったが、それは断って他の騎士と共に馬で移動していた。
(視察でどこに行くのかと思ったが、ドレスショップとジュエリーショプとは。視察ではなく観光でしかないな)
心の中で思いつつもルーカスは周りを警戒することを怠らない。
護衛ではないとはいえ、ルーカスも同行している状態でもし万が一襲撃されようものなら責任問題に発展してしまうからだ。
王女要望のジュエリーショップに着くと、王女が馬車を降りるに当たってエスコートのために近衛騎士が手を差し出した。
「ルーカス公がエスコートしてくださらないの?」
「王女殿下、私は妻しかエスコートしないと決めておりますので」
「まぁ。私に恥をかかせるおつもり?」
「めっそうもない。ちゃんとその騎士がエスコートを務めさせていただきます」
それ以上の会話は無駄だと判断し、ルーカスは一行を先導するために店に入る。
本来であればそれはルーカスの役目ではなく他の近衛騎士が担うものだ。
しかし王女の近くにいるだけで面倒事が増えると理解しているルーカスは率先して自分が動いていた。
「ようこそおいでくださいました」
店主の案内により一行は貴賓室へと通される。
店の奥から一流品である宝石が多く運ばれてきて、幾分機嫌を損ねていた王女の気分も回復したようだ。
「ルーカス公、王女殿下は公がご結婚されているのをご存知でありながらあのご様子ですか?」
王女が宝石を見る間、あえて壁際に控えているルーカスに近衛騎士の中でリーダーに当たる者が質問してくる。
「そうだ。初日からあの状態だ。過分に興味を持たれるのは困るとお伝えしているのだが…理解していただけないようだな」
「そうですか」
リーダーの視線にある種の同情が込められた。
ルーカスが軍部の総帥に就任してからしばらくは騎士たちとの間にも若干の軋轢や壁があったが、剣術大会への参加を経て今では信頼のおける関係性となっている。
「まずは問題なく視察を終わらせることに集中しよう」
「承知しました。…なるべく王女殿下のご興味を公からそらすように心がけます」
了解の返事の後に続けられた言葉に、ルーカスは一瞬驚きの表情を浮かべた。
「ルーカス公がアリシア夫人を大事にされているのは有名な話ですよ。我々も公には憂いなく仕事に従事していただきたいので」
「…それは、ありがたい」
「今日はそのために近衛騎士の中でも選りすぐりの者たちを連れてきています」
(なるほど。だから今日の騎士たちは腕も立ちさらには見目麗しい者が集まっているのか)
ルーカスは自分のあずかり知らぬところで周りが気を遣ってくれていたことに不思議な気持ちになった。
いつの間にか自分が受け入れられていることに、心の内が温かくなる。
腐ることなく実直に職務に向き合えたのは、いつでもアリシアがそばにいて見守ってくれていたからなのだと、ルーカスは改めて自身の妻に感謝した。
(早く家に帰りたい。アリシアとクラトスに癒やされたい)
つくづくそう思いながら、それでも仕事は仕事と割り切ってルーカスは王女の視察につき合ったのだった。
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