上 下
129 / 141

番外編 その後の二人<王都視察>

しおりを挟む
その日アイラ王女は王都の視察に出かけていた。
トウ国との違いを知りロゴス国を理解するためにも、王都を巡るのは良い方法ではある。

アイラ王女、王女付きの侍女一人、トウ国からの使者一人に対してロゴス国側からは腕の立つ護衛として近衛騎士を五名選出していた。
しかし王女からさらにルーカスの同行を求められ、護衛の立場ではないがルーカスもまた視察につき合わされている。

最初は馬車へ同乗するように求められたルーカスだったが、それは断って他の騎士と共に馬で移動していた。

(視察でどこに行くのかと思ったが、ドレスショップとジュエリーショプとは。視察ではなく観光でしかないな)

心の中で思いつつもルーカスは周りを警戒することを怠らない。
護衛ではないとはいえ、ルーカスも同行している状態でもし万が一襲撃されようものなら責任問題に発展してしまうからだ。

王女要望のジュエリーショップに着くと、王女が馬車を降りるに当たってエスコートのために近衛騎士が手を差し出した。

「ルーカス公がエスコートしてくださらないの?」
「王女殿下、私は妻しかエスコートしないと決めておりますので」
「まぁ。私に恥をかかせるおつもり?」
「めっそうもない。ちゃんとその騎士がエスコートを務めさせていただきます」

それ以上の会話は無駄だと判断し、ルーカスは一行を先導するために店に入る。
本来であればそれはルーカスの役目ではなく他の近衛騎士が担うものだ。
しかし王女の近くにいるだけで面倒事が増えると理解しているルーカスは率先して自分が動いていた。

「ようこそおいでくださいました」
店主の案内により一行は貴賓室へと通される。
店の奥から一流品である宝石が多く運ばれてきて、幾分機嫌を損ねていた王女の気分も回復したようだ。

「ルーカス公、王女殿下は公がご結婚されているのをご存知でありながらあのご様子ですか?」
王女が宝石を見る間、あえて壁際に控えているルーカスに近衛騎士の中でリーダーに当たる者が質問してくる。

「そうだ。初日からあの状態だ。過分に興味を持たれるのは困るとお伝えしているのだが…理解していただけないようだな」
「そうですか」

リーダーの視線にある種の同情が込められた。

ルーカスが軍部の総帥に就任してからしばらくは騎士たちとの間にも若干の軋轢や壁があったが、剣術大会への参加を経て今では信頼のおける関係性となっている。

「まずは問題なく視察を終わらせることに集中しよう」
「承知しました。…なるべく王女殿下のご興味を公からそらすように心がけます」

了解の返事の後に続けられた言葉に、ルーカスは一瞬驚きの表情を浮かべた。

「ルーカス公がアリシア夫人を大事にされているのは有名な話ですよ。我々も公には憂いなく仕事に従事していただきたいので」
「…それは、ありがたい」
「今日はそのために近衛騎士の中でも選りすぐりの者たちを連れてきています」

(なるほど。だから今日の騎士たちは腕も立ちさらには見目麗しい者が集まっているのか)

ルーカスは自分のあずかり知らぬところで周りが気を遣ってくれていたことに不思議な気持ちになった。
いつの間にか自分が受け入れられていることに、心の内が温かくなる。

腐ることなく実直に職務に向き合えたのは、いつでもアリシアがそばにいて見守ってくれていたからなのだと、ルーカスは改めて自身の妻に感謝した。

(早く家に帰りたい。アリシアとクラトスに癒やされたい)

つくづくそう思いながら、それでも仕事は仕事と割り切ってルーカスは王女の視察につき合ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。

たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。 わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。 ううん、もう見るのも嫌だった。 結婚して1年を過ぎた。 政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。 なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。 見ようとしない。 わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。 義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。 わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。 そして彼は側室を迎えた。 拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。 ただそれがオリエに伝わることは…… とても設定はゆるいお話です。 短編から長編へ変更しました。 すみません

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

愛され妻と嫌われ夫 〜「君を愛することはない」をサクッとお断りした件について〜

榊どら
恋愛
 長年片思いしていた幼馴染のレイモンドに大失恋したアデレード・バルモア。  自暴自棄になった末、自分が不幸な結婚をすればレイモンドが罪悪感を抱くかもしれない、と非常に歪んだ認識のもと、女嫌いで有名なペイトン・フォワードと白い結婚をする。  しかし、初顔合わせにて「君を愛することはない」と言われてしまい、イラッときたアデレードは「嫌です。私は愛されて大切にされたい」と返した。  あまりにナチュラルに自分の宣言を否定されたペイトンが「え?」と呆けている間に、アデレードは「この結婚は政略結婚で私達は対等な関係なのだから、私だけが我慢するのはおかしい」と説き伏せ「私は貴方を愛さないので、貴方は私を愛することでお互い妥協することにしましょう」と提案する。ペイトンは、断ればよいのに何故かこの申し出を承諾してしまう。  かくして、愛され妻と嫌われ夫契約が締結された。  出鼻を挫かれたことでアデレードが気になって気になって仕方ないペイトンと、ペイトンに全く興味がないアデレード。温度差の激しい二人だったが、その関係は少しずつ変化していく。  そんな中アデレードを散々蔑ろにして傷つけたレイモンドが復縁を要請してきて……!? *小説家になろう様にも掲載しています。

生まれたときから今日まで無かったことにしてください。

はゆりか
恋愛
産まれた時からこの国の王太子の婚約者でした。 物心がついた頃から毎日自宅での王妃教育。 週に一回王城にいき社交を学び人脈作り。 当たり前のように生活してしていき気づいた時には私は1人だった。 家族からも婚約者である王太子からも愛されていないわけではない。 でも、わたしがいなくてもなんら変わりのない。 家族の中心は姉だから。 決して虐げられているわけではないけどパーティーに着て行くドレスがなくても誰も気づかれないそんな境遇のわたしが本当の愛を知り溺愛されて行くストーリー。 ………… 処女作品の為、色々問題があるかとおもいますが、温かく見守っていただけたらとおもいます。 本編完結。 番外編数話続きます。 続編(2章) 『婚約破棄されましたが、婚約解消された隣国王太子に恋しました』連載スタートしました。 そちらもよろしくお願いします。

妹と婚約者が結婚したけど、縁を切ったから知りません

編端みどり
恋愛
妹は何でもわたくしの物を欲しがりますわ。両親、使用人、ドレス、アクセサリー、部屋、食事まで。 最後に取ったのは婚約者でした。 ありがとう妹。初めて貴方に取られてうれしいと思ったわ。

裏切りのその後 〜現実を目の当たりにした令嬢の行動〜

AliceJoker
恋愛
卒業パーティの夜 私はちょっと外の空気を吸おうとベランダに出た。 だがベランダに出た途端、私は見てはいけない物を見てしまった。 そう、私の婚約者と親友が愛を囁いて抱き合ってるとこを… ____________________________________________________ ゆるふわ(?)設定です。 浮気ものの話を自分なりにアレンジしたものです! 2つのエンドがあります。 本格的なざまぁは他視点からです。 *別視点読まなくても大丈夫です!本編とエンドは繋がってます! *別視点はざまぁ専用です! 小説家になろうにも掲載しています。 HOT14位 (2020.09.16) HOT1位 (2020.09.17-18) 恋愛1位(2020.09.17 - 20)

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

処理中です...