107 / 155
番外編 剣術大会<7>
しおりを挟む
今までアリシアはルーカスが剣を振るう姿を見ることがあまりなかった。
ルーカスは大会に出場することがなかったし、仕事中に遭遇することもなかったからだ。
訓練を見かけることはあってもそこでのルーカスも本気を出している感じではなかった。
「まぁ…」
アリシアの感嘆したような呟きにニキアスが反応する。
「アリシア夫人はルーカス公が戦っている姿を見ることはないだろう?」
「ええ。そんな場に出くわすこともありませんし、夫は私たちの前では一切剣を持ちませんから」
「あれは能ある鷹は爪を隠すを地で行くからな。ここにきてやっとその力を解放する気になったか」
どこかしら嬉しそうなニキアスの言葉にアリシアは不思議な思いにかられた。
ルーカスとニキアスのつき合いはニコラオスを失ってからだ。
時間としてはまだそう長いわけではなかったが、ニキアスの言葉からは彼がルーカスのことをよく理解していることがうかがわれる。
ルーカスのことを理解してくれる人が増えるのはアリシアにとっても喜ばしいことだ。
「ルーカス公はお前のことが鬱陶しいのではないか?」
そんな2人の会話に横からディミトラが口を挟む。
鬱陶しい。
ニキアスを捕まえての容赦ない言いようにアリシアは驚いた。
「そんなわけないだろう。私は良い上司のはずだ」
「上に立つ者はたいていみなそう思っているが、実際のところは鬱陶しがられていることも多いぞ」
ニキアスはショックを受けたふりをする。
2人の軽妙な会話を聞いて、やがてアリシアも理解した。
こういうやりとりが2人にとってのコミュニケーションなのだろう。
「お。ルーカス公が次の試合に出るようだ」
「逃げたな」
「誤解だよ、ディミトラ。見ればわかるだろう?」
ニキアスの言葉にアリーナの方を見ると、ルーカスとその対戦相手であろう若い騎士の姿が見えた。
「ああ。第1騎士団の若手か。たしか不満を抱いていた一人だな。まぁ実力の違いをその身で実感すればいい」
思わぬニキアスの冷めた言いように、アリシアはその真意をうかがう。
「誰しも現状に不満を抱くことはある。しかし相手の実力を見誤るようでは騎士としては二流だ」
そういえばルーカスが言っていただろうか。
ニキアス皇太子殿下は人格に優れ、公平で優秀な人だが人使いが荒い。
そして穏やかな物言いをしながらも求めてくるもののレベルが高いと。
そういう考え方の人にとって、実力も伴わないにも関わらず文句を言う者は論外ということなのかもしれない。
「やはりあっという間だな。ルーカス公はあの場から一歩も動いていないんじゃないか?」
呆れたようにニキアスが言い、
「そうだな。前回同様圧勝だ。一振りで終了とは、騎士団の連中はそろいもそろって能力が低いんじゃないか?」
その言葉を受けてディミトラが答える。
夫婦の辛辣なやりとりに、アリシアは賢明にも口をつぐんだ。
ルーカスは大会に出場することがなかったし、仕事中に遭遇することもなかったからだ。
訓練を見かけることはあってもそこでのルーカスも本気を出している感じではなかった。
「まぁ…」
アリシアの感嘆したような呟きにニキアスが反応する。
「アリシア夫人はルーカス公が戦っている姿を見ることはないだろう?」
「ええ。そんな場に出くわすこともありませんし、夫は私たちの前では一切剣を持ちませんから」
「あれは能ある鷹は爪を隠すを地で行くからな。ここにきてやっとその力を解放する気になったか」
どこかしら嬉しそうなニキアスの言葉にアリシアは不思議な思いにかられた。
ルーカスとニキアスのつき合いはニコラオスを失ってからだ。
時間としてはまだそう長いわけではなかったが、ニキアスの言葉からは彼がルーカスのことをよく理解していることがうかがわれる。
ルーカスのことを理解してくれる人が増えるのはアリシアにとっても喜ばしいことだ。
「ルーカス公はお前のことが鬱陶しいのではないか?」
そんな2人の会話に横からディミトラが口を挟む。
鬱陶しい。
ニキアスを捕まえての容赦ない言いようにアリシアは驚いた。
「そんなわけないだろう。私は良い上司のはずだ」
「上に立つ者はたいていみなそう思っているが、実際のところは鬱陶しがられていることも多いぞ」
ニキアスはショックを受けたふりをする。
2人の軽妙な会話を聞いて、やがてアリシアも理解した。
こういうやりとりが2人にとってのコミュニケーションなのだろう。
「お。ルーカス公が次の試合に出るようだ」
「逃げたな」
「誤解だよ、ディミトラ。見ればわかるだろう?」
ニキアスの言葉にアリーナの方を見ると、ルーカスとその対戦相手であろう若い騎士の姿が見えた。
「ああ。第1騎士団の若手か。たしか不満を抱いていた一人だな。まぁ実力の違いをその身で実感すればいい」
思わぬニキアスの冷めた言いように、アリシアはその真意をうかがう。
「誰しも現状に不満を抱くことはある。しかし相手の実力を見誤るようでは騎士としては二流だ」
そういえばルーカスが言っていただろうか。
ニキアス皇太子殿下は人格に優れ、公平で優秀な人だが人使いが荒い。
そして穏やかな物言いをしながらも求めてくるもののレベルが高いと。
そういう考え方の人にとって、実力も伴わないにも関わらず文句を言う者は論外ということなのかもしれない。
「やはりあっという間だな。ルーカス公はあの場から一歩も動いていないんじゃないか?」
呆れたようにニキアスが言い、
「そうだな。前回同様圧勝だ。一振りで終了とは、騎士団の連中はそろいもそろって能力が低いんじゃないか?」
その言葉を受けてディミトラが答える。
夫婦の辛辣なやりとりに、アリシアは賢明にも口をつぐんだ。
106
お気に入りに追加
2,840
あなたにおすすめの小説

【完結】え、別れましょう?
須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」
「は?え?別れましょう?」
何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。
ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?
だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。
※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。
ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
契約結婚の終わりの花が咲きます、旦那様
日室千種・ちぐ
恋愛
エブリスタ新星ファンタジーコンテストで佳作をいただいた作品を、講評を参考に全体的に手直ししました。
春を告げるラクサの花が咲いたら、この契約結婚は終わり。
夫は他の女性を追いかけて家に帰らない。私はそれに傷つきながらも、夫の弱みにつけ込んで結婚した罪悪感から、なかば諦めていた。体を弱らせながらも、寄り添ってくれる老医師に夫への想いを語り聞かせて、前を向こうとしていたのに。繰り返す女の悪夢に少しずつ壊れた私は、ついにある時、ラクサの花を咲かせてしまう――。
真実とは。老医師の決断とは。
愛する人に別れを告げられることを恐れる妻と、妻を愛していたのに契約結婚を申し出てしまった夫。悪しき魔女に掻き回された夫婦が絆を見つめ直すお話。
全十二話。完結しています。

偽りの愛に終止符を
甘糖むい
恋愛
政略結婚をして3年。あらかじめ決められていた3年の間に子供が出来なければ離婚するという取り決めをしていたエリシアは、仕事で忙しいく言葉を殆ど交わすことなく離婚の日を迎えた。屋敷を追い出されてしまえば行くところなどない彼女だったがこれからについて話合うつもりでヴィンセントの元を訪れる。エリシアは何かが変わるかもしれないと一抹の期待を胸に抱いていたが、夫のヴィンセントは「好きにしろ」と一言だけ告げてエリシアを見ることなく彼女を追い出してしまう。

殿下が私を愛していないことは知っていますから。
木山楽斗
恋愛
エリーフェ→エリーファ・アーカンス公爵令嬢は、王国の第一王子であるナーゼル・フォルヴァインに妻として迎え入れられた。
しかし、結婚してからというもの彼女は王城の一室に軟禁されていた。
夫であるナーゼル殿下は、私のことを愛していない。
危険な存在である竜を宿した私のことを彼は軟禁しており、会いに来ることもなかった。
「……いつも会いに来られなくてすまないな」
そのためそんな彼が初めて部屋を訪ねてきた時の発言に耳を疑うことになった。
彼はまるで私に会いに来るつもりがあったようなことを言ってきたからだ。
「いいえ、殿下が私を愛していないことは知っていますから」
そんなナーゼル様に対して私は思わず嫌味のような言葉を返してしまった。
すると彼は、何故か悲しそうな表情をしてくる。
その反応によって、私は益々訳がわからなくなっていた。彼は確かに私を軟禁して会いに来なかった。それなのにどうしてそんな反応をするのだろうか。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中

【完結】愛してました、たぶん
たろ
恋愛
「愛してる」
「わたしも貴方を愛しているわ」
・・・・・
「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」
「いつまで待っていればいいの?」
二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。
木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。
抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。
夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。
そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。
大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。
「愛してる」
「わたしも貴方を愛しているわ」
・・・・・
「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」
「いつまで待っていればいいの?」
二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。
木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。
抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。
夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。
そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。
大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる