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結婚式
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ステンドグラス越しに太陽の光が降り注いでいた。
荘厳なるこの教会で、ルーカスは今日アリシアと結婚式を挙げる。
準備期間は公爵家の結婚としては短かったが、それほど問題なく進められたのは幸いだった。
ルーカスが特に力を入れたのが実はアリシアの衣装だというのは誰にも言えないことではあったが。
王家の代表としてニキアスが、そしてカリス家の人々に騎士団関係者、主だった高位貴族にさらには友人と、参列者は多かった。
しかしディカイオ公爵家の者はいない。
父も母も兄も亡くし、義母は修道院へ入った。
ルーカスとアリシアとの間に産まれた子を除いて、今ルーカスの身近にいる唯一の血縁者はテリオスだけだが、式の間は乳母が面倒をみていた。
しかしそのことはもうルーカスを傷つけない。
誰もいなくなったが、これからはずっとアリシアがいる。
そしてアリシアとの子が。
ルーカスが心から愛せる存在であり守る相手。
その優先順位ももう間違えない。
心に何の曇りもなく、ルーカスは教会の入り口を見つめる。
荘厳なるパイプオルガンの音色の中で扉が開かれた。
その姿を見た瞬間の気持ちを、なんと表現すれば良いだろう。
降り注ぐ光を弾くくらい輝くアリシアは、その口元に淡い微笑みを浮かべゆっくりとルーカスの元へ歩いてくる。
義父となるソティルから託されたアリシアの手にルーカスはそっと触れた。
アリシアの手がルーカスの腕に添えられると、二人そろって正面を向く。
神父の誓いの言葉に宣誓し揃いの指輪を交換する。
もう何度も思い描いていたそのままの現実に、ルーカスはこれもまた夢の中なのではないかと思えるくらいだった。
向かい合ったベール越しのアリシアは神秘的で、美しい。
ベールに手をかけ、アリシアの瞳を見つめながらルーカスはそれを上げた。
「綺麗だ…」
思わず出た感嘆の呟きにアリシアは照れたように笑う。
幸せとはこのことか。
胸をくすぐる思いも、温かく満たされる思いも、すべてはいつもアリシアからもたらされるもの。
今までの思いが去来し言葉にできない気持ちが溢れそうだった。
敬虔なる信者ではないけれど、今は神に感謝したい。
アリシアを自分のそばに遣わしてくれてありがとう、と。
そんな気持ちになるくらい今のルーカスは満たされていた。
周りに見守られながら、式は滞りなく進んでいく。
「それでは、誓いのキスを」
神父の言葉にアリシアの滑らからかな頬に手を添え、ルーカスは万感の思いを込めて口づけた。
そしてこの日、ルーカスは自分だけの最愛を手に入れる。
複雑に絡み合った家族によるしがらみからの、本当の意味での解放だった。
荘厳なるこの教会で、ルーカスは今日アリシアと結婚式を挙げる。
準備期間は公爵家の結婚としては短かったが、それほど問題なく進められたのは幸いだった。
ルーカスが特に力を入れたのが実はアリシアの衣装だというのは誰にも言えないことではあったが。
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心に何の曇りもなく、ルーカスは教会の入り口を見つめる。
荘厳なるパイプオルガンの音色の中で扉が開かれた。
その姿を見た瞬間の気持ちを、なんと表現すれば良いだろう。
降り注ぐ光を弾くくらい輝くアリシアは、その口元に淡い微笑みを浮かべゆっくりとルーカスの元へ歩いてくる。
義父となるソティルから託されたアリシアの手にルーカスはそっと触れた。
アリシアの手がルーカスの腕に添えられると、二人そろって正面を向く。
神父の誓いの言葉に宣誓し揃いの指輪を交換する。
もう何度も思い描いていたそのままの現実に、ルーカスはこれもまた夢の中なのではないかと思えるくらいだった。
向かい合ったベール越しのアリシアは神秘的で、美しい。
ベールに手をかけ、アリシアの瞳を見つめながらルーカスはそれを上げた。
「綺麗だ…」
思わず出た感嘆の呟きにアリシアは照れたように笑う。
幸せとはこのことか。
胸をくすぐる思いも、温かく満たされる思いも、すべてはいつもアリシアからもたらされるもの。
今までの思いが去来し言葉にできない気持ちが溢れそうだった。
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そんな気持ちになるくらい今のルーカスは満たされていた。
周りに見守られながら、式は滞りなく進んでいく。
「それでは、誓いのキスを」
神父の言葉にアリシアの滑らからかな頬に手を添え、ルーカスは万感の思いを込めて口づけた。
そしてこの日、ルーカスは自分だけの最愛を手に入れる。
複雑に絡み合った家族によるしがらみからの、本当の意味での解放だった。
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