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王都
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アリシアが王都に戻ってきたのは実に数ヶ月ぶりだった。
領地と王都は馬車でおよそ3日だが、今回はアリシアの体調を考慮して倍の日程で移動している。
そしてアリシアと共にイリアもまた戻って来ていた。
8月に入り、王都の社交シーズンは終わりを迎えようとしている。
貴族の多くはこれから領地へと戻るが、アリシアは出産への備えや公爵邸との行き来のしやすさもあって王都の方が良いであろうという判断だった。
シーズンオフになったらアリシアの両親も領地へ戻る予定だったが、アリシアが王都に来るということでまだしばらくはこちらに滞在する予定だ。
「アリシア、できる限り伯爵家へ顔を出したいのだが、いいだろうか」
ルーカスの本音としてはアリシアに公爵邸で出産に臨んで欲しいようだったが、さすがにそれは難しかった。
まず、二人がまだ結婚していないということが一つ、そして現在公爵家には新たに雇われた乳母が面倒を見ているテリオスがいるということがある。
婚約中の出産というのはままあることだが、やはり結婚していない状態で相手の家に入り浸るのは外聞が良くない。
そういう意味ではフォティアが公爵邸で出産したのは珍しい例だろう。
「私は会いたいから嬉しいけれど、お父様がどう思うかしら?」
「ソティル伯には私からお願いするよ」
当主であるアリシアの父親に許可を得なければ、カリス家への出入りは許されない。
「多少の嫌味は言われるかもね」
横からイリアが口を挟んできてルーカスは若干困り顔になった。
「反対されるだろうか?」
「父さんは姉さんの気持ちを最優先しているから反対はしないと思うけど、気持ち的には複雑なんじゃないかな。なんせまだ嫁に出していないのにルーカス兄に持っていかれちゃったようなものだからね」
イリアの言葉に容赦は無い。
「しかも姉さんを泣かせたし」
泣いた、と聞いてルーカスがすぐにアリシアを振り返る。
「え!泣いてないわよ」
急に話を振られてアリシアは焦ったように否定した。
実際はルーカスと会えない間に泣いたことはあった。
特に、フォティアに婚約破棄を仄めかされ、イレーネから打診書を送られてきた時には。
でもそれは誰にも内緒だ。
部屋に籠もって泣いていたのを知っているのは専属侍女のタラッサだけ。
そしてアリシアはそれを打ち明けるつもりは無かった。
「案外もっと怖いのは母さんかもしれないよ?」
イリアはさらにルーカスを追い詰める。
ここにきて、アリシアは気づいた。
何のことはない、実は両親もさることながらイリアもまた今回の事件を少し怒っていたのではないかと。
それを表立って口撃することは無いけれど。
「カリス伯爵夫人が…」
ルーカスの顔色が心なしか悪くなったような気がする。
ある意味感情がだだ漏れのルーカスが珍しくて、アリシアは思わず笑ってしまった。
そしてそんな賑やかな3人を乗せた馬車は、ほどなくしてカリス家のタウンハウスに到着した。
領地と王都は馬車でおよそ3日だが、今回はアリシアの体調を考慮して倍の日程で移動している。
そしてアリシアと共にイリアもまた戻って来ていた。
8月に入り、王都の社交シーズンは終わりを迎えようとしている。
貴族の多くはこれから領地へと戻るが、アリシアは出産への備えや公爵邸との行き来のしやすさもあって王都の方が良いであろうという判断だった。
シーズンオフになったらアリシアの両親も領地へ戻る予定だったが、アリシアが王都に来るということでまだしばらくはこちらに滞在する予定だ。
「アリシア、できる限り伯爵家へ顔を出したいのだが、いいだろうか」
ルーカスの本音としてはアリシアに公爵邸で出産に臨んで欲しいようだったが、さすがにそれは難しかった。
まず、二人がまだ結婚していないということが一つ、そして現在公爵家には新たに雇われた乳母が面倒を見ているテリオスがいるということがある。
婚約中の出産というのはままあることだが、やはり結婚していない状態で相手の家に入り浸るのは外聞が良くない。
そういう意味ではフォティアが公爵邸で出産したのは珍しい例だろう。
「私は会いたいから嬉しいけれど、お父様がどう思うかしら?」
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「多少の嫌味は言われるかもね」
横からイリアが口を挟んできてルーカスは若干困り顔になった。
「反対されるだろうか?」
「父さんは姉さんの気持ちを最優先しているから反対はしないと思うけど、気持ち的には複雑なんじゃないかな。なんせまだ嫁に出していないのにルーカス兄に持っていかれちゃったようなものだからね」
イリアの言葉に容赦は無い。
「しかも姉さんを泣かせたし」
泣いた、と聞いてルーカスがすぐにアリシアを振り返る。
「え!泣いてないわよ」
急に話を振られてアリシアは焦ったように否定した。
実際はルーカスと会えない間に泣いたことはあった。
特に、フォティアに婚約破棄を仄めかされ、イレーネから打診書を送られてきた時には。
でもそれは誰にも内緒だ。
部屋に籠もって泣いていたのを知っているのは専属侍女のタラッサだけ。
そしてアリシアはそれを打ち明けるつもりは無かった。
「案外もっと怖いのは母さんかもしれないよ?」
イリアはさらにルーカスを追い詰める。
ここにきて、アリシアは気づいた。
何のことはない、実は両親もさることながらイリアもまた今回の事件を少し怒っていたのではないかと。
それを表立って口撃することは無いけれど。
「カリス伯爵夫人が…」
ルーカスの顔色が心なしか悪くなったような気がする。
ある意味感情がだだ漏れのルーカスが珍しくて、アリシアは思わず笑ってしまった。
そしてそんな賑やかな3人を乗せた馬車は、ほどなくしてカリス家のタウンハウスに到着した。
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