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「昨日の事件の概要は以上だ。フォティア嬢にはそれとは別に皇太子殿下から沙汰が下っている」
「沙汰?」

「義母上の実家である侯爵家が兄上とフォティア嬢の子を利用してディカイオ公爵家の乗っ取りを企んでいた。こちらに関してはのちほど裁判になるだろう。つまり、ことの中心にいるのが昨日産まれた赤子ということになる」

ここまで説明して初めて、フォティアは自身も無関係では無いと気づいたようだ。

「侯爵家の行いは国の政治や治安を乱す国家反逆罪と同等だ。皇太子殿下はそのことを重く考えられている。そしてフォティア嬢の今までの行いもまた問題に問われていると言えよう」

突然名指しされて心当たりが無いのかフォティアが首を傾げる。

「兄上が亡くなって、フォティア嬢にはその後の選択肢がいくつか提示されたと思う。一つは産まれてくる子を連れて伯爵家へ戻ること、もう一つは子だけをディカイオ公爵家へ残しフォティア嬢は伯爵家へ戻ること。一般的に婚姻ではなく婚約関係であればこの二つが考えられる選択だ」

「だが、あなたはそのどちらも選ばなかった」

ルーカスの言葉に、フォティアはぎくりと身をすくめた。

「フォティア嬢、私の婚約者はアリシア・カリス伯爵令嬢だ。これは家と家で正式に結ばれた婚約であり、契約だ。何より私自身がアリシアを望んでいる」

今までどことなく遠慮がちだったルーカスの視線がフォティアを射抜く。

「あなたはアリシアとカリス伯爵家を軽んじ、そして公爵家内に混乱を招いた。今までのあなたの行動は私とアリシアを陥れようとしたと同然。そして産まれた子は今後も公爵家の火種となるだろう」

そこで一度言葉を切ったルーカスははっきりと告げた。

「ニコラオス・ディカイオ侯爵令息とフォティア・ラルマ伯爵令嬢の間に産まれた子に関して、公爵家の後継者の権利を剥奪する。それが皇太子殿下の判断だ」

「なぜ…!」
椅子から立ち上がってフォティアは叫ぶ。
「後継者の権利は子どもの権利です!そして私はあなたたちを陥れようとなんてしていない!!」

「あなたが義母上と共謀して私とアリシアの関係を壊そうとしていたこと、知らなかったとでも思うのか」

意図せずフォティアはルーカスの逆鱗に触れる。
唸るようなルーカスの言葉に、フォティアは気後れたかのように椅子に崩れ落ちた。

「フォティア嬢、おそらくあなたは伯爵家に戻りたくないのだろう」

気持ちを落ち着けてルーカスは再度話し始めた。

「今後に関してあなたには新たに二つの選択肢を提示する。一つは子どもと共に公爵家の領地に暮らすこと。この場合住む場所と子どもの養育費はこちらで賄うが、それ以外は自身でどうにかしていただく。もう一つは子どものみ公爵家に残し、フォティア嬢だけが別の場所で暮らすこと。この場合王都と公爵領以外であれば場所は問わない。同じく住む場所は提供するし職を紹介しよう」

「いずれにせよ産後まもないことを考えて1ヶ月間は公爵家での滞在を許す。その後体調を踏まえて半年間は生活費も支給しよう。この1ヶ月の間にどうするか決めるように。もちろん、どちらの提案も断り伯爵家へ戻るというのであればそれも認める」

以上だ、と言ってルーカスは話を終わらせた。

うなだれるフォティアは何も言わない。
今は何を言っても伝わらないだろう。

だからルーカスは、何も言わずに部屋を出た。
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