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帰郷

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久しぶりに帰ってきた領地は、以前となんら変わらずアリシアを迎え入れた。
アリシアにとって故郷といえば王都ではなく領地だ。
それだけ多くの時間をここで過ごしてきた。

また、ルーカスとの思い出が多いのもこちらの方だった。

「あなたまで一緒に帰って来なくてよかったのよ」

朝食後のティータイムを庭にある温室で過ごしていると弟のイリアがやってくる。
二人でのんびりとお茶をするのはそれこそニコラオスが亡くなる前以来だ。

「姉さんだけを帰らせるわけにもいかないだろ。王都にもだいぶ慣れたし、買いたいものも買ったし、やることは全部済ませてきたからいいんだよ」

ちょっと生意気な言い方にはなっていたが、イリアがアリシアのことを心配して一緒に帰ってきたのはわかっていた。

なんだかんだ言っても姉思いの弟だから。

「ならいいけど…。でもお友だちとのつき合いとかは大丈夫だった?」
「問題ない」

お年頃なのかイリアの態度は最近素っ気ない。
それでもこちらを思いやってくれる気持ちはしっかり伝わってきていた。

「そう。ありがとう」
「別に。礼を言われることなんて何もしてないし」

少しふてくされたように言うイリアにアリシアはふわりと微笑む。
そんな姉を眺めながら、イリアはなんでもないことのように問いかけた。

「で、姉さんはそれでいいの?」
「…?」
「僕が王都の噂を何も知らないとでも思ってる?」

ああ…とアリシアは思った。
弟も知っているのだ。
ルーカスとアリシアとフォティアの噂を。

「噂は噂でしょ」
「火のないところに煙は立たぬって言うけど」
「根が無くとも花は咲くって言うじゃない」

アリシアだって本当のところはわからない。
ルーカスが今どう思っているのかも聞いたことはないのだから。

それでも、事実はルーカスとアリシアは婚約者のままということだけ。
ルーカスから何か言われない限り、アリシアからどうこうするつもりはなかった。

「姉さんがそれでいいならいいけど…」

イリアだってアリシアから明確な答えが返ってくるとは思っていないのだろう。
それでもやはり心配なのだ。
アリシアはイリアのその気持ちが嬉しかった。

「ルーカスが誠実な人だってことはイリアも知ってるでしょ」
「それは…知ってるけど。でも人は変わるって言うだろ?」

アリシアが小さい頃からルーカスと遊び友だちだったように、イリアにとってもルーカスは一緒に遊んでくれるお兄さんだった。
実の兄よりも年が近い分、一緒にいた時間も長い。

「ルーカス兄のことは信用してるけど、でも今の状況は納得いかない」

気づかわしげにアリシアのお腹をみて、イリアは少し腹立たしそうにそう言った。

「いつかはっきりする時がくるわよ」

アリシアは自分の中の答えはもう決めていたから。
迷いは無い。
「今度会ったらへたれって言ってやる」

イリアの思わぬ悪態に、アリシアは目を丸くすると弾けたように笑った。
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