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懐妊
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「…え?もう一度言っていただけますか」
その日アリシアは医師の診察を受けていた。
塞ぎ込みがちになり、気持ちが悪いと言っては食事の量も減り、見るからにほっそりしてしまったアリシアを心配して両親が伯爵家お抱えの医師を呼んだからだ。
「ご懐妊です」
医師はもう一度はっきりと言った。
「…懐妊…」
言葉の意味はもちろん知っている。
しかし突然のことに頭の理解が追いついていかなかった。
そばに控えていた侍女のタラッサが慌てたように部屋を飛び出していく。
「まだ妊娠初期にあたりますし、悪阻もあるようですから無理をなさらないように。今は食べられる物だけでもいいので少しでも多く召し上がった方がいいでしょう」
医師の忠告さえも耳を右から左へと通り抜けていく。
懐妊。
つまり妊娠したということ。
(あの日だ)
ニコラオスを送ったあの日。
あの日に授かった子に違いない。
元々アリシアは月のものが時々不順になったし、特に精神的な影響を受けやすく、ストレスが溜まったり疲れていたりすると遅れることも多かったから気づかなかった。
では最近の不調は妊娠によるものだということか。
原因がわかったことは良かったが、ことがことだけに別の問題が大きい。
「アリシア!」
アリシアが呆然としていると、両親が部屋に飛び込んできた。
常日頃マナーをうるさく言う母でさえ慌てている。
「アリシア、懐妊したというのは本当か!?」
目の前に医師がいるというのに、その診断を疑うかのようなことを父が言う。
「本当です。妊娠初期になります。今アリシア様には気をつけられた方が良いことをお伝えしていたところです」
その場にいる全員が混乱していることを見かねたのか、医師が父に声をかけた。
「…そうか」
力が抜けたのか父はへたりと近くの椅子に腰掛ける。
その向かい側に母も腰を下ろした。
「ルーカス殿に知らせなければならないな」
現状ルーカスが難しい立場に立たされていることを憂いたのか、父の声に張りがない。
懐妊は喜ばしいことなのに、どことなく喜びきれない状況にアリシアも困惑していた。
「お父様、ルーカスには私から直接お伝えしたいです」
アリシアの言葉に、今度は母が思案気に言う。
「でもアリシア、体調が良くないのに出かけるのは心配だわ」
母の言うことももっともだった。
それでも、大事なことは直接自分の口から伝えたかった。
何よりも、ルーカスに会いたい。
子どもができた喜びを分かち合いたい。
アリシアの心はその想いでいっぱいだった。
「ではルーカス様に来ていただいたらどうかしら?」
母の提案に、しかしアリシアは首を振った。
ただでさえ忙しいルーカスの手をわずらわせたくなかった。
「わかった。では先触れを出しておこう。出かける時は必ずタラッサと護衛騎士を連れていくように」
渋々ながらも外出を許可する父にアリシアは久しぶりの笑顔を浮かべた。
「ありがとう」
その笑顔に、心なしか両親も安堵したようだった。
その日アリシアは医師の診察を受けていた。
塞ぎ込みがちになり、気持ちが悪いと言っては食事の量も減り、見るからにほっそりしてしまったアリシアを心配して両親が伯爵家お抱えの医師を呼んだからだ。
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では最近の不調は妊娠によるものだということか。
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「…そうか」
力が抜けたのか父はへたりと近くの椅子に腰掛ける。
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「ルーカス殿に知らせなければならないな」
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「お父様、ルーカスには私から直接お伝えしたいです」
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それでも、大事なことは直接自分の口から伝えたかった。
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「わかった。では先触れを出しておこう。出かける時は必ずタラッサと護衛騎士を連れていくように」
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