8 / 142
追憶
しおりを挟む
アリシアがルーカスと初めて会ったのは5歳の時だった。
カリス伯爵領は王都から馬車で3日ほど離れた場所にある。
王都に一番近い穀倉地帯であり、王都の食糧の多くはカリス伯爵領から賄われていると言っても過言ではなかった。
カリス伯爵は温厚な人物であり、細やかに領地を管理し大きな野心を持つことなく堅実に領地運営をしていた。
そのおかげもあり領地は栄えて人々の暮らしは他の領と比べても豊かだ。
そんなカリス伯爵領の隣にディカイオ公爵の領地があった。
常は領地を管理する家令が置かれている領内にはディカイオ家の別荘がある。
その別荘に隣国のイリオン国から輿入れしてきた王女が住むことになった。
王女にどんな事情があったのかを幼いアリシアが知ることはなかったが、アリシアが5歳になったある日、一つ上のルーカスと出会うことになる。
アリシアには3歳上に兄が、5歳下に弟がいたこともあり、特殊な事情で友人を作ることが難しいルーカスの遊び友だちに選ばれたのだろう。
カリス伯爵が中央政治への野心を持っていなかったことも大きかったのかもしれない。
大人たちの思惑を知らぬまま、アリシアたち兄弟とルーカスはあっという間に仲良くなった。
上と下に男兄弟がいたせいか幼いアリシアはそこそこに活発な子どもで、ルーカスと弟と共に転げ回るかのように遊び、兄がその3人を見守る形で多くの時間を過ごした。
大らかな両親に育てられたからかそれとも元々の性格なのか、アリシアはルーカスの見た目に対してネガティブなことは何も思わなかった。
むしろあまり見かけることのない綺麗な黒髪と濡れたように見える濃紺の瞳が不思議で仕方なく、何度もしげしげと見つめてはルーカスに戸惑われた。
後にある程度大きなってから、周りがルーカスの持つ色味にマイナスな気持ちを抱くと知り心底驚いたくらいだ。
だから、アリシアの思い出にはいつもルーカスがいた。
兄が進学で王都に行ってからも、領地にいる母の元で過ごしていたアリシアはルーカスと共にいたし、それは15歳になってルーカスが王都の学園に通うまで続いた。
そしてルーカスが王都に向かうその年、アリシアはルーカスと婚約したのだった。
貴族の婚約は政略的な意味合いが大きい。
結婚は家と家を繋ぐものと考えるからだ。
ただ、カリス家は他家との繋がりを特別求めていなかったこともあり、何よりもルーカスとアリシアの希望が通り婚約は認められた。
好きな相手と結ばれるのは、貴族の娘にとってこれ以上ない僥倖だった。
本来公爵家と伯爵家となると身分差がはばかるものであるが、ルーカスが公爵家といえども次男であること、母親が公爵夫人ではないこと、カリス伯爵領が裕福であったこと、なんと言っても戦争で適齢期の子どもが少なかったことなど、多くの理由があって整えられた婚約だった。
ルーカスが王都の学園に入学して一年後、アリシアもまた同じ学校に通い始める。
領地でも学園でも、一年の差があるとはいえいつだってアリシアのそばにはルーカスがいた。
お互いが在学中は長期休暇には一緒に領地に戻り、一年先にルーカスが卒業して騎士団へ入団してからはアリシアだけが休暇に領地へ戻った。
そしてアリシアの卒業を待って、二人の結婚の日取りが決まる。
ちょうどその頃ルーカスの兄ニコラオスも結婚が決まり、公爵家は慶事が続くことになるはずだった。
誰もが幸せになる、未来があったはずだった。
カリス伯爵領は王都から馬車で3日ほど離れた場所にある。
王都に一番近い穀倉地帯であり、王都の食糧の多くはカリス伯爵領から賄われていると言っても過言ではなかった。
カリス伯爵は温厚な人物であり、細やかに領地を管理し大きな野心を持つことなく堅実に領地運営をしていた。
そのおかげもあり領地は栄えて人々の暮らしは他の領と比べても豊かだ。
そんなカリス伯爵領の隣にディカイオ公爵の領地があった。
常は領地を管理する家令が置かれている領内にはディカイオ家の別荘がある。
その別荘に隣国のイリオン国から輿入れしてきた王女が住むことになった。
王女にどんな事情があったのかを幼いアリシアが知ることはなかったが、アリシアが5歳になったある日、一つ上のルーカスと出会うことになる。
アリシアには3歳上に兄が、5歳下に弟がいたこともあり、特殊な事情で友人を作ることが難しいルーカスの遊び友だちに選ばれたのだろう。
カリス伯爵が中央政治への野心を持っていなかったことも大きかったのかもしれない。
大人たちの思惑を知らぬまま、アリシアたち兄弟とルーカスはあっという間に仲良くなった。
上と下に男兄弟がいたせいか幼いアリシアはそこそこに活発な子どもで、ルーカスと弟と共に転げ回るかのように遊び、兄がその3人を見守る形で多くの時間を過ごした。
大らかな両親に育てられたからかそれとも元々の性格なのか、アリシアはルーカスの見た目に対してネガティブなことは何も思わなかった。
むしろあまり見かけることのない綺麗な黒髪と濡れたように見える濃紺の瞳が不思議で仕方なく、何度もしげしげと見つめてはルーカスに戸惑われた。
後にある程度大きなってから、周りがルーカスの持つ色味にマイナスな気持ちを抱くと知り心底驚いたくらいだ。
だから、アリシアの思い出にはいつもルーカスがいた。
兄が進学で王都に行ってからも、領地にいる母の元で過ごしていたアリシアはルーカスと共にいたし、それは15歳になってルーカスが王都の学園に通うまで続いた。
そしてルーカスが王都に向かうその年、アリシアはルーカスと婚約したのだった。
貴族の婚約は政略的な意味合いが大きい。
結婚は家と家を繋ぐものと考えるからだ。
ただ、カリス家は他家との繋がりを特別求めていなかったこともあり、何よりもルーカスとアリシアの希望が通り婚約は認められた。
好きな相手と結ばれるのは、貴族の娘にとってこれ以上ない僥倖だった。
本来公爵家と伯爵家となると身分差がはばかるものであるが、ルーカスが公爵家といえども次男であること、母親が公爵夫人ではないこと、カリス伯爵領が裕福であったこと、なんと言っても戦争で適齢期の子どもが少なかったことなど、多くの理由があって整えられた婚約だった。
ルーカスが王都の学園に入学して一年後、アリシアもまた同じ学校に通い始める。
領地でも学園でも、一年の差があるとはいえいつだってアリシアのそばにはルーカスがいた。
お互いが在学中は長期休暇には一緒に領地に戻り、一年先にルーカスが卒業して騎士団へ入団してからはアリシアだけが休暇に領地へ戻った。
そしてアリシアの卒業を待って、二人の結婚の日取りが決まる。
ちょうどその頃ルーカスの兄ニコラオスも結婚が決まり、公爵家は慶事が続くことになるはずだった。
誰もが幸せになる、未来があったはずだった。
49
お気に入りに追加
2,784
あなたにおすすめの小説
【完結】彼の瞳に映るのは
たろ
恋愛
今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。
優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。
そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。
わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。
★ 短編から長編へ変更しました。
【完結】愛してました、たぶん
たろ
恋愛
「愛してる」
「わたしも貴方を愛しているわ」
・・・・・
「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」
「いつまで待っていればいいの?」
二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。
木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。
抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。
夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。
そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。
大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。
「愛してる」
「わたしも貴方を愛しているわ」
・・・・・
「もう少し我慢してくれ。シャノンとは別れるつもりだ」
「いつまで待っていればいいの?」
二人は、人影の少ない庭園のベンチで抱き合いながら、激しいキスをしていた。
木陰から隠れて覗いていたのは男の妻であるシャノン。
抱き合っていた女性アイリスは、シャノンの幼馴染で幼少期からお互いの家を行き来するぐらい仲の良い親友だった。
夫のラウルとシャノンは、政略結婚ではあったが、穏やかに新婚生活を過ごしていたつもりだった。
そんな二人が夜会の最中に、人気の少ない庭園で抱き合っていたのだ。
大切な二人を失って邸を出て行くことにしたシャノンはみんなに支えられてなんとか頑張って生きていく予定。
あなたに嘘を一つ、つきました
小蝶
恋愛
ユカリナは夫ディランと政略結婚して5年がたつ。まだまだ戦乱の世にあるこの国の騎士である夫は、今日も戦地で命をかけて戦っているはずだった。彼が戦地に赴いて3年。まだ戦争は終わっていないが、勝利と言う戦況が見えてきたと噂される頃、夫は帰って来た。隣に可愛らしい女性をつれて。そして私には何も告げぬまま、3日後には結婚式を挙げた。第2夫人となったシェリーを寵愛する夫。だから、私は愛するあなたに嘘を一つ、つきました…
最後の方にしか主人公目線がない迷作となりました。読みづらかったらご指摘ください。今さらどうにもなりませんが、努力します(`・ω・́)ゞ
【完結】大好きな幼馴染には愛している人がいるようです。だからわたしは頑張って仕事に生きようと思います。
たろ
恋愛
幼馴染のロード。
学校を卒業してロードは村から街へ。
街の警備隊の騎士になり、気がつけば人気者に。
ダリアは大好きなロードの近くにいたくて街に出て子爵家のメイドとして働き出した。
なかなか会うことはなくても同じ街にいるだけでも幸せだと思っていた。いつかは終わらせないといけない片思い。
ロードが恋人を作るまで、夢を見ていようと思っていたのに……何故か自分がロードの恋人になってしまった。
それも女避けのための(仮)の恋人に。
そしてとうとうロードには愛する女性が現れた。
ダリアは、静かに身を引く決意をして………
★ 短編から長編に変更させていただきます。
すみません。いつものように話が長くなってしまいました。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
【完結】二度目の恋はもう諦めたくない。
たろ
恋愛
セレンは15歳の時に16歳のスティーブ・ロセスと結婚した。いわゆる政略的な結婚で、幼馴染でいつも喧嘩ばかりの二人は歩み寄りもなく一年で離縁した。
その一年間をなかったものにするため、お互い全く別のところへ移り住んだ。
スティーブはアルク国に留学してしまった。
セレンは国の文官の試験を受けて働くことになった。配属は何故か騎士団の事務員。
本人は全く気がついていないが騎士団員の間では
『可愛い子兎』と呼ばれ、何かと理由をつけては事務室にみんな足を運ぶこととなる。
そんな騎士団に入隊してきたのが、スティーブ。
お互い結婚していたことはなかったことにしようと、話すこともなく目も合わせないで過ごした。
本当はお互い好き合っているのに素直になれない二人。
そして、少しずつお互いの誤解が解けてもう一度……
始めの数話は幼い頃の出会い。
そして結婚1年間の話。
再会と続きます。
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる