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舞踏会の知らせ
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交渉ごとを自分の有利に進めるにはどうやって話を持っていくか、そんなことに神経をすり減らした西の公爵との面会が終わった。
「それでも、北と西の公爵家はフォルトゥーナとの交流があるからいい方だと思いますよ」
基本的に護衛は主人と同じ場の席に座ることはしないが、今部屋の中にはリリとルラ、そしてディアナしかいないためアランは勧められるままディアナの斜め前の椅子に腰を下ろした。
ちょうど応接テーブルのコーナーを挟んだところだ。
「そういえば、ベルダー公が気になることを仰っていたわね」
「ああ……南と東の公爵のことですか?」
ディアナの話につき合う形で、アランもルラが入れた紅茶に口をつける。
「南と東の公爵家とフォルトゥーナの間には何も交流がないからまったくわからないのだけれど……」
帰り際、ベルダーはふと思い出したかのように忠告をくれた。
『ディアナ様は今後南と東の公爵とも会われるとか。南は陽気であまり裏表のない人物なのでいいと思いますが、東には気をつけたほうがよろしいかと。つき合いの長い私でも、東が何を考えているのかわかりかねる部分があるので』
「たしか南は穀物地帯を多く持ち、帝国の食糧を担う家よね。一番わからないのは東だわ」
「東は知を司る家と言われていますね。研究者や学術に携わる者が多いとか」
そう言ったアランもまたディアナと同様東の公爵家に詳しいわけではない。
「図書館で調べてみたけれど、東だけはあまり詳しい情報がわかからなかったの」
「とはいえ、皇后にフィリア様を据えることに関しては他の公爵家と同じに反対したということでしょう?」
たしかに、今回のディアナの輿入れは四大公爵家一致の意見だったはず。
「いずれにせよ会ってみればわかることもあるわ。まずは次の南の公爵様ね」
そうして話が一段落ついたところで、ディアナの部屋のドアがノックされた。
「姫さま、宰相様が面会を希望してこちらにいらっしゃっています」
「宰相様が? お通しして。リリ、お茶を入れ直してもらえるかしら?」
応対したルラの言葉に、今日の予定に宰相の訪問は無かったはず、と思いながらディアナが答える。
「突然お伺いして申し訳ありません」
宰相はいくぶん申し訳なさそうにそう言うと、机を挟んでディアナの前に腰を下ろした。
「今日はこちらをお届けに参りました」
差し出されたのは豪華に装飾された招待状だ。
「これは?」
「一ヶ月後にディアナ様を歓迎する舞踏会を開くことになりまして、その招待状になります」
「舞踏会ですって?」
そもそもが陛下に望まれていない皇后。
だから、ディアナのお披露目は入国した直後に謁見したあの場だけだと聞いていた。
「前回の陛下との謁見の際は上位貴族のみが参加しておりましたが、今度の舞踏会は帝都中の貴族を呼ぶことになっています」
「とても急なお話ですわね」
「それは……」
いかにも言いにくそうな宰相の姿を見ながら、ディアナは考えを巡らす。
今までまったく予定になかった舞踏会はなぜ開かれるのか。
帝都中の貴族を招待しての会になるのであれば、準備だってかなり大がかりになりその分時間も必要になるはずなのに。
「実は先日、フィリア様からディアナ様を歓迎する舞踏会を開くべきだという提案がありまして、陛下もその考えに同意されたので、急ではありますが開催する運びとなりました」
「フィリア様が?」
フィリアに会ったのは謁見の場を除けばたった二回。
しかもどちらもまったく好意的な態度ではなかった。
(あのフィリア様が私を歓迎するための舞踏会を開くなんて……いったい何を企んでいるのか……)
そう思いながら、ディアナはテーブルの上に置かれた招待状を眺めた。
「それでも、北と西の公爵家はフォルトゥーナとの交流があるからいい方だと思いますよ」
基本的に護衛は主人と同じ場の席に座ることはしないが、今部屋の中にはリリとルラ、そしてディアナしかいないためアランは勧められるままディアナの斜め前の椅子に腰を下ろした。
ちょうど応接テーブルのコーナーを挟んだところだ。
「そういえば、ベルダー公が気になることを仰っていたわね」
「ああ……南と東の公爵のことですか?」
ディアナの話につき合う形で、アランもルラが入れた紅茶に口をつける。
「南と東の公爵家とフォルトゥーナの間には何も交流がないからまったくわからないのだけれど……」
帰り際、ベルダーはふと思い出したかのように忠告をくれた。
『ディアナ様は今後南と東の公爵とも会われるとか。南は陽気であまり裏表のない人物なのでいいと思いますが、東には気をつけたほうがよろしいかと。つき合いの長い私でも、東が何を考えているのかわかりかねる部分があるので』
「たしか南は穀物地帯を多く持ち、帝国の食糧を担う家よね。一番わからないのは東だわ」
「東は知を司る家と言われていますね。研究者や学術に携わる者が多いとか」
そう言ったアランもまたディアナと同様東の公爵家に詳しいわけではない。
「図書館で調べてみたけれど、東だけはあまり詳しい情報がわかからなかったの」
「とはいえ、皇后にフィリア様を据えることに関しては他の公爵家と同じに反対したということでしょう?」
たしかに、今回のディアナの輿入れは四大公爵家一致の意見だったはず。
「いずれにせよ会ってみればわかることもあるわ。まずは次の南の公爵様ね」
そうして話が一段落ついたところで、ディアナの部屋のドアがノックされた。
「姫さま、宰相様が面会を希望してこちらにいらっしゃっています」
「宰相様が? お通しして。リリ、お茶を入れ直してもらえるかしら?」
応対したルラの言葉に、今日の予定に宰相の訪問は無かったはず、と思いながらディアナが答える。
「突然お伺いして申し訳ありません」
宰相はいくぶん申し訳なさそうにそう言うと、机を挟んでディアナの前に腰を下ろした。
「今日はこちらをお届けに参りました」
差し出されたのは豪華に装飾された招待状だ。
「これは?」
「一ヶ月後にディアナ様を歓迎する舞踏会を開くことになりまして、その招待状になります」
「舞踏会ですって?」
そもそもが陛下に望まれていない皇后。
だから、ディアナのお披露目は入国した直後に謁見したあの場だけだと聞いていた。
「前回の陛下との謁見の際は上位貴族のみが参加しておりましたが、今度の舞踏会は帝都中の貴族を呼ぶことになっています」
「とても急なお話ですわね」
「それは……」
いかにも言いにくそうな宰相の姿を見ながら、ディアナは考えを巡らす。
今までまったく予定になかった舞踏会はなぜ開かれるのか。
帝都中の貴族を招待しての会になるのであれば、準備だってかなり大がかりになりその分時間も必要になるはずなのに。
「実は先日、フィリア様からディアナ様を歓迎する舞踏会を開くべきだという提案がありまして、陛下もその考えに同意されたので、急ではありますが開催する運びとなりました」
「フィリア様が?」
フィリアに会ったのは謁見の場を除けばたった二回。
しかもどちらもまったく好意的な態度ではなかった。
(あのフィリア様が私を歓迎するための舞踏会を開くなんて……いったい何を企んでいるのか……)
そう思いながら、ディアナはテーブルの上に置かれた招待状を眺めた。
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