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悪役令嬢は儀式を待つ

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その日王都では貴族街や共有街だけでなく平民街でも、第一王子であるダグラスの立太子の儀式と婚約式を祝うためにさまざまな場所で宴が開かれていた。

王妃の事件が影を落としていた中での祝い事だ。
久しぶりの明るい話題に人々は喜びに溢れている。

中でもダグラスとエレナが事件の影響と国民感情に配慮して、婚約式を小ぢんまりと執り行うことにしたことが平民たちの間で好意的に思われていた。
ライアン殿下とは違い新しい王太子は自分たちのことも考えてくれている、そうとらえられたのかもしれない。

「これが終われば次は婚約式だ。緊張してるか?」

王宮の控室で、一緒に儀式の始まりを待っていた私にダグラスが聞いてくる。

「幸いといってはいけませんけれど、婚約式は王族としては異例の小ぢんまりとしたものですから大丈夫ですわ」

ダグラスはやはり王子様然とした衣装が好きではないらしく、今日もまた騎士服を基調とした服を身につけていた。
そしてその肩にはフィブラで豪奢なマントが留められている。
マントの背には精密な刺繍でグラント国の紋章が描かれていた。

立太子の儀式は大広間で行われる。
入場は基本的に下位貴族からとなっているので私が入場するのはもう少し先だろう。

婚約式で正式にダグラスと婚約するとはいえ、現時点で私はまだ一公爵令嬢でしかない。
そのため、今日は公爵家当主として参加する兄のエスコートで入場することが決まっている。

王妃の断罪によって、王妃とレンブラント家に連なる多くの家が粛清された。
当主の交代だけで済めばまだいい方で、降爵となったり取り潰しになった家もある。
それによって儀式に参加する貴族たちは以前より少ない人数となっていた。

領地を持つ貴族家を不在のままにしておくのは難しい。
これからダグラスは陛下と共にその点も考えていかなければならないだろう。

そして脅迫の罪に問われていたウェルズ家の両親は領地に生涯謹慎を命じられた。
父親は当主の座と仕事を兄に譲り、両親とも今後王都へ立ち入ることは許されない。

やったことがレンブラン家へ脅迫の手紙を送っただけとはいえ、側妃の事件の真相を知りながらその報告を怠ったのは許されざる行為だ。
本来であれば当主交代だけでは済まされないところではあるが、ウェルズ家の兄と私が事件解決に協力したこと、また、今後王太子妃になる私の親という点も踏まえての落としどころだったのだろう。

対してウェルズ家と同時に王妃断罪の場で罪を暴かれたニールセン家はこの機に廃爵となった。

実子虐待と奴隷の斡旋の罪を問われて両親と兄弟が捕らえられ、後継者となったのはレオだ。
もしレオが家を継がなければ遠縁から後継者を選ぶことになったのかもしれない。
しかしレオは一旦書類上で家を継ぎ、そしてすぐに爵位を返上した。

これによりニールセン家は伯爵家として終わりを迎えたことになる。

とうのレオはスッキリとした顔をしていたからこれで良かったのだろう。

「もうすぐ私も入場の順番がくるので行きますわね」

そう言った私の左手をダグラスが取る。

「今日でやっと正式な婚約者になれる。エレナ嬢希望の指輪がこの指に飾られるのが楽しみだ」

持ち上げられた左手の薬指にそっとダグラスの唇が触れた。

なかなか恋人同士の触れ合いに慣れない私を慣らすためか、最近のダグラスはこうやって触れてくることが増えた。
醸し出される甘い雰囲気が面映い。

「わ……私も楽しみにしていますわ」

何とか平静を保って私も答える。
一応私も成長しているのだ。

そうして何となく気恥ずかしい思いを抱えたまま、私は兄の待つ場所へ向かうのだった。
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