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悪役令嬢は推測する

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「まずご確認いただきたいのは、先ほどの毒薬の製法が書かれた書類と一緒に提出した二枚の分析表です」

製法が書かれた書類と分析表はセットで裁判長へ提出してある。

「こちらですか?見る限り同じ内容の物に見えますが、なぜ同じ書類を二枚提出したのでしょうか?」
「それは一枚が毒薬の分析表であり、そしてもう一枚がレンブラント家の秘薬の分析表だからです」
「……!?」

ダグラスの言葉に、裁判長が二枚の書類を何度も確認する。

「同じ薬の分析表を二枚作成して提出したのではなくて?」

そんな裁判長の様子に危機感を覚えたのか王妃が口を挟んできた。

「それはあり得ません。見てわかるように一枚には十五年前の日付が入っています。そして調べていただけばわかりますが、使用されているインクは十年前まで主流に使われていた物。経年劣化もしていますし、最近作成した書類ではないことは明らかです」

そう。
十年前にインクを生成しやすい植物が見つかり、いくつかの開発工程を経て新しいインクが作られた。
今ではそちらが主流となり流通している物はほとんどがそれだ。
逆に以前使われていたインクはマニアが収集するくらいで最近ではあまり見ることがない。

なので調べればあの書類が最近作られた物ではないということがわかる。

もちろん、出どころは王妃の私室からだ。

「分析結果に関してお疑いということであれば、王妃殿下もお認めになっているように、レンブラント家には秘薬の現物があるでしょうから再度の分析も可能でしょう。そして側妃殿下に使われた毒薬の結果に関しては陛下の元で管理されておりますのでこちらも再確認することができます」

さっき王妃は秘薬の存在を知っているとはっきりと言った。
であれば再鑑定のための現物を『無い』と言うことはできない。

「その分析結果をもって、私は側妃殿下に使用された毒薬がレンブラント家の秘薬であると申し上げます」

これでレンブラント家が側妃の毒殺事件と無関係だとは言うのは難しくなっただろう。
もし無関係だと、レンブラント家から秘薬を手に入れた誰かが事件を起こしたと主張するのであれば、国に届け出ていない毒薬を違法取引していたということになる。

まぁ、レンブラント家はあの秘薬を自分の家で独占して使っていたみたいだけど。

「裁判長、私は今回の告発に合わせてさらにいくつかの問題を提起させていただきたい」
「それは側妃殿下の事件と関わりのあるものでしょうか?」
「無関係ではありません。少なくとも、実行犯の侍女に関する問題を含んでいるからです」
「わかりました。認めます」

裁判長の許可を得てダグラスが合図をすると先ほどと同じ書記官が別のトレーを持ってくる。

ダグラスはこれから三つの事実を暴くはずだ。

まずは実行犯の侍女が王妃の手の者だった件。
そしてレオの人身売買の件。
さらにはウェルズ家からの脅迫に対して王妃が自身の影を使って私を襲った件。

正直小さいものも含めれば王妃の悪事はもっとたくさんある。
しかし今この場で暴くのであれば、ある程度インパクトのあるものに絞った方がいい。

もちろん、ウェルズ家の問題に関しては両親に対して何らかの罰が課せられるだろうしうまく立ち回らなければ兄と私も危うい。

「実行犯の侍女ですが、元々は公爵家の紹介で側妃殿下の侍女に抜擢されたと聞きました」
「そうです。公爵家での働きを認められ、その縁で王宮に上がった娘です」

ダグラスの問いに裁判長が答えた。

王宮内で側妃殿下の侍女になるにはそれなりの家の出である必要がある。
たいていの者は伯爵家以上の娘であり、さらには紹介状が無ければそばに仕える侍女になることは難しい。
簡単に言うと紹介状を出した者はその侍女の保証人のようなもの。

だからその侍女が実行犯だと判明してからは、紹介元の公爵家が側妃殿下を毒殺したのではないかと疑われたのは当然だろう。
しかしどれだけ探しても証拠は見つけられなかった。

そりゃあそうだよね。
だって犯人ではないんだから。

結局証拠不十分となり表立っての処罰は与えられなかったけれど、その後すぐに公爵家は代替わりし、当主は二度と王都の地は踏めなかった。
さらには後を継いだ嫡男も王宮内での親の仕事を引き継ぐことができず、役職付きだったはずがその位を取り上げられたという。

側妃の事件が公になっていなかった分、公爵家は何をして陛下の逆鱗に触れたのかとしばらく噂になっていたはずだ。

そういえばあの家が担当していた仕事って、王宮の資金管理関係だったっけ。
王宮内の貴族の中では清廉潔白と言われていた家だったからこそかなり驚かれた人事だったはずだ。

そこにきな臭さを感じるのは考えすぎだろうか。
犯罪に資金関係の不正はつきものだというしね。
王妃が事件にかこつけて都合の悪い相手をまとめて始末したようにも見えてしまう。

「王宮へは公爵家の紹介で上がったとしても、その娘の家はレンブラント家領内の伯爵家。元々娘はレンブラント家へ行儀見習いとして奉公に上がり、さらには隣国の公爵家で働いたのちにグラント国の公爵家へ紹介されています」
「つまり?」
「誰の意を汲んで側妃殿下の侍女になったのか、まずはそこを解き明かす必要があるかと」

その娘は何年もかけて側妃の侍女になった。
王妃の投下した反乱の種は陛下も側妃も知らぬ間にゆっくりと、しかし確実に根を伸ばしていったのだろう。
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