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悪役令嬢はギルドの事実を知る
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「私は侯爵家当主暴漢事件の犯人はレンブラント家の当主だと申し上げました。補足をさせていただくと、実行犯は別にいます」
ダグラスが犯人をレンブラント家の当主と名指ししたにもかかわらず、実行犯が別にいると言ったことによって見守っていた貴族たちにまたもやざわめきが走った。
グラント国において犯罪の罪に問われるのは基本的に実行犯となる。
もしこの事件で実行犯以外が咎を問われるとしたら、殺人教唆や殺人幇助の類いだろうか。
そしてレンブラント家が行った行為というのは簡単に言ってしまえば殺人依頼だ。
もちろん、誰かを害するために金銭を対価として依頼することは犯罪である。
そしてダグラスは今回それを証明しようとしていた。
「自身が罪に問われるようなことがあれば、当然娘が陛下の正妃になることなど不可能です。そのためレンブラント家当主は自分の手が汚れないように手を回した」
そこまで言うと、ダグラスがスッと手を上げる。
すると壁際に控えていた男性が裁判長に向かって書類の入ったトレーを運んでいく。
男性は裁判所の書記官だ。
持っているトレーに入っているのはこれから暴くレンブラント家及び王妃の罪に関する証明書類だろう。
ダグラスは何度も王宮に通い、王妃たちに対して確実に罪を問えるよう陛下と共に用意をしていたはずだ。
あの書類はその時に預けていた物だと思われる。
「裁判長、一番上の書類をご確認いただきたい。実行犯とレンブラント家当主との契約書です」
『契約書』という言葉を聞いて初めて当主の顔色が変わった。
そう、あれは決してここにあるはずのない物。
当主にしてもある意味絶対の自信があったから大きく構えていられたのだろう。
しかしレンブラント家が相手にしているのはダグラスだけではない。
誰よりも真実を求めている陛下もだ。
そのことを知らない彼らは、なぜ契約書が今この場に存在するのか頭の中で忙しなくその理由を考えているに違いない。
ダグラスの言葉に裁判長が書類へと視線を落とす。
そしてさっと目を通した後にその紙を高く掲げた。
「これは隣国の暗殺ギルドへの依頼書です。内容は暴漢の仕業と見せかけて侯爵家の当主を亡き者とする、とあります」
『暗殺ギルド』
それはグラント国では認められていない組織だ。
人への殺害を請け負う組織は国内で忌避されており、当然違法の存在である。
「暗殺ギルドとレンブラント家の間で結ばれた契約書で間違いありません」
そう。
レンブラント家は元々仕事上隣国とやり取りのある家だ。
その立場を使って秘密裏に暗殺ギルドに依頼をしたと考えられる。
「待ってください。その契約書とやら、当然我が家は思い当たる節はありません。それに仮にその書類が暗殺ギルドとの契約書だったとしたら、おかしいではありませんか。暗殺ギルドは契約の内容を秘匿しその内容は決して外には漏らさないと聞きます。それなのに当事者でもないダグラス殿下が契約書を手に入れられるわけがない」
暗殺ギルドは扱っている仕事内容が内容なだけに無法地帯と思われることがあるが、その印象に反して契約関係はしっかりしているという。
契約書に関しては決して外に出さない、それは正しい認識だ。
まぁ、大っぴらには知られていないその不文律を、レンブラント家の当主がなぜ知っているのかということではあるのだけど。
そしてその不文律と共に課されているのが、ギルドで契約が結ばれた依頼の実行犯に関しては手出ししないこと、というのがある。
つまり、依頼があって行った事件の実行犯は不可侵であるということだ。
暗殺ギルドは独立した組織であり、どの国からも強制を受けず、彼らは依頼によって犯した犯罪に関しては罪に問われない、と取り決められている。
その代わりどの国も罪に問うのはギルドに依頼した依頼人となる。
今回でいえばレンブラント家の当主がそれに当たるだろう。
しかしそんな取り決めの中で唯一ギルドに対して干渉できる方法があった。
それが国の長からの開示依頼だ。
グラント国でいうのであれば、暗殺ギルドは国王陛下からの開示依頼には従わなければならない。
今回レオが王妃の元から奪ってきた証拠の中にレンブラント家当主と暗殺ギルドの繋がりを匂わす物があった。
ダグラスと陛下はそこから隣国のギルドまで辿り、国王としての権力を使ってこの契約書を取り寄せたことになる。
「レンブラント家当主は秘密に包まれた隣国の暗殺ギルドについてよくご存知のようだ」
ダグラスが小さく笑う。
それは喜びの笑いではなく嘲りの笑いだろう。
「暗殺ギルドは不可侵な存在だと言われています。しかし唯一、各国の王からの開示依頼にだけは応じるように決められているのです」
その言葉に秘められた意味は。
陛下によってこの事実が明らかにされたということ。
「グラント国、国王の名において暗殺ギルドに情報開示の依頼をしました。結果送られてきたのがその契約書になります。念の為鑑定にも出しましたが、暗殺ギルドとの間で交わされた契約書で間違いないとの鑑定結果も出ています」
ダグラスの言葉に合わせて裁判長がもう一枚の書類を掲げる。
そこには『契約書は間違いなく暗殺ギルドの物である』と書かれていた。
「以上の証拠をもって、レンブラント家当主が侯爵家当主殺害の犯人であると告発します」
そうして、ダグラスは言葉を締めくくった。
ダグラスが犯人をレンブラント家の当主と名指ししたにもかかわらず、実行犯が別にいると言ったことによって見守っていた貴族たちにまたもやざわめきが走った。
グラント国において犯罪の罪に問われるのは基本的に実行犯となる。
もしこの事件で実行犯以外が咎を問われるとしたら、殺人教唆や殺人幇助の類いだろうか。
そしてレンブラント家が行った行為というのは簡単に言ってしまえば殺人依頼だ。
もちろん、誰かを害するために金銭を対価として依頼することは犯罪である。
そしてダグラスは今回それを証明しようとしていた。
「自身が罪に問われるようなことがあれば、当然娘が陛下の正妃になることなど不可能です。そのためレンブラント家当主は自分の手が汚れないように手を回した」
そこまで言うと、ダグラスがスッと手を上げる。
すると壁際に控えていた男性が裁判長に向かって書類の入ったトレーを運んでいく。
男性は裁判所の書記官だ。
持っているトレーに入っているのはこれから暴くレンブラント家及び王妃の罪に関する証明書類だろう。
ダグラスは何度も王宮に通い、王妃たちに対して確実に罪を問えるよう陛下と共に用意をしていたはずだ。
あの書類はその時に預けていた物だと思われる。
「裁判長、一番上の書類をご確認いただきたい。実行犯とレンブラント家当主との契約書です」
『契約書』という言葉を聞いて初めて当主の顔色が変わった。
そう、あれは決してここにあるはずのない物。
当主にしてもある意味絶対の自信があったから大きく構えていられたのだろう。
しかしレンブラント家が相手にしているのはダグラスだけではない。
誰よりも真実を求めている陛下もだ。
そのことを知らない彼らは、なぜ契約書が今この場に存在するのか頭の中で忙しなくその理由を考えているに違いない。
ダグラスの言葉に裁判長が書類へと視線を落とす。
そしてさっと目を通した後にその紙を高く掲げた。
「これは隣国の暗殺ギルドへの依頼書です。内容は暴漢の仕業と見せかけて侯爵家の当主を亡き者とする、とあります」
『暗殺ギルド』
それはグラント国では認められていない組織だ。
人への殺害を請け負う組織は国内で忌避されており、当然違法の存在である。
「暗殺ギルドとレンブラント家の間で結ばれた契約書で間違いありません」
そう。
レンブラント家は元々仕事上隣国とやり取りのある家だ。
その立場を使って秘密裏に暗殺ギルドに依頼をしたと考えられる。
「待ってください。その契約書とやら、当然我が家は思い当たる節はありません。それに仮にその書類が暗殺ギルドとの契約書だったとしたら、おかしいではありませんか。暗殺ギルドは契約の内容を秘匿しその内容は決して外には漏らさないと聞きます。それなのに当事者でもないダグラス殿下が契約書を手に入れられるわけがない」
暗殺ギルドは扱っている仕事内容が内容なだけに無法地帯と思われることがあるが、その印象に反して契約関係はしっかりしているという。
契約書に関しては決して外に出さない、それは正しい認識だ。
まぁ、大っぴらには知られていないその不文律を、レンブラント家の当主がなぜ知っているのかということではあるのだけど。
そしてその不文律と共に課されているのが、ギルドで契約が結ばれた依頼の実行犯に関しては手出ししないこと、というのがある。
つまり、依頼があって行った事件の実行犯は不可侵であるということだ。
暗殺ギルドは独立した組織であり、どの国からも強制を受けず、彼らは依頼によって犯した犯罪に関しては罪に問われない、と取り決められている。
その代わりどの国も罪に問うのはギルドに依頼した依頼人となる。
今回でいえばレンブラント家の当主がそれに当たるだろう。
しかしそんな取り決めの中で唯一ギルドに対して干渉できる方法があった。
それが国の長からの開示依頼だ。
グラント国でいうのであれば、暗殺ギルドは国王陛下からの開示依頼には従わなければならない。
今回レオが王妃の元から奪ってきた証拠の中にレンブラント家当主と暗殺ギルドの繋がりを匂わす物があった。
ダグラスと陛下はそこから隣国のギルドまで辿り、国王としての権力を使ってこの契約書を取り寄せたことになる。
「レンブラント家当主は秘密に包まれた隣国の暗殺ギルドについてよくご存知のようだ」
ダグラスが小さく笑う。
それは喜びの笑いではなく嘲りの笑いだろう。
「暗殺ギルドは不可侵な存在だと言われています。しかし唯一、各国の王からの開示依頼にだけは応じるように決められているのです」
その言葉に秘められた意味は。
陛下によってこの事実が明らかにされたということ。
「グラント国、国王の名において暗殺ギルドに情報開示の依頼をしました。結果送られてきたのがその契約書になります。念の為鑑定にも出しましたが、暗殺ギルドとの間で交わされた契約書で間違いないとの鑑定結果も出ています」
ダグラスの言葉に合わせて裁判長がもう一枚の書類を掲げる。
そこには『契約書は間違いなく暗殺ギルドの物である』と書かれていた。
「以上の証拠をもって、レンブラント家当主が侯爵家当主殺害の犯人であると告発します」
そうして、ダグラスは言葉を締めくくった。
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