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悪役令嬢は沙汰を仰ぐ

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「父上!」

陛下の姿を認め、ライアンが非難めいた声で呼びかけた。

陛下はゆっくりと階段を降りると会場の奥に向かって歩を進める。
舞踏会場の奥には王族のためのスペースが設けられていた。

数段高くなった場所に織りの美しい絨毯が敷かれ王と王妃のための椅子が置かれている。
しかし今そこに腰かけるのは王のみだ。

本来修了式後の舞踏会は学生が主体となり運営するため携わる大人は学園関係者だけのはずだった。
つまり、ここに陛下がいること自体がかなりのイレギュラーであり、勘の良い者であれば何かが起こる前兆だと思うだろう。

「エレナ嬢の申し出を受け入れるとはどういうことですか!?」
「言葉の通りだ。そもそもお前も婚約破棄を望んでいるのだろう?」

陛下に問いかけられてライアンが一瞬詰まる。

「婚約破棄は望んでいますが破棄するのは私の方からです。エレナ嬢からの申し出を受け入れるのではなく、私の方から突きつけているのです」

こだわるところがそこなのか。
そう思ったけれど、立場的に破棄した側なのかされた側なのかは重要なのかもしれない。

ライアンの言葉に陛下が一つため息をつく。

「ライアン、お前は自分のしたことがわかっているのか?」
「もちろんです」
「であればお前は相当な愚か者ということだ」
「なっ……」

そう言うと、陛下が事態を収めるために声を上げた。

「衛兵」
「は!!」

呼びかけに応えて近くの衛兵がすぐに馳せ参じる。

「そこの女を地下牢に入れろ。沙汰は追って伝える」

エマに対して陛下が冷たい目で見下ろしながら指示を出すと、衛兵はすぐにエマを引っ立てた。

「どういうこと!?なんであたしがこんな目に遭わなきゃいけないのよ!!離して!!ライアン様!」

衛兵に引きずられながらエマが喚く。
そんなエマをライアンが呆然と見ているうちに騒がしいエマの声が扉の向こうに消えた。

「さて。ライアン、あの女がなぜ地下牢に繋がれるのか、お前は理解しているのか?」
「エマ嬢は何も罪を犯していません!それなのに地下牢に入れるなんて……。いくらエマ嬢が男爵令嬢という貴族としては下位の家の者だったとしても、横暴ではないですか?」
「罪を犯していない?本当にそう思うか?一人の令嬢が別の令嬢に対してありもしない事件を捏造する。貴族の階級に関わらず、そもそもそれ自体が許されざる行為だ」

まさしくその通り。
エマの罪は冤罪を仕かけたこと。
証拠はすでに出そろっているし、言い逃れはできない。

ましてや男爵令嬢に過ぎない娘が公爵令嬢を害す。
たとえ学園が平等を謳っていたとしても、学園内が社会の縮図であることを考えれば厳しい処分は免れないだろう。
どれだけ自由に振舞っていたとしても結局のところ貴族社会は階級社会だということを忘れてはいけないのだ。

「たしかに褒められた行為ではなかったと思います。しかし事は学園内で行われた。学園の中でのことに関しては治外法権のはずでしょう?」
「……お前は自身の立場をわかっていないと見える。お前が関わる限り、事は学園内で収まらないとなぜわからない」

そう。
これがもし学園内の他の生徒同士のことであれば、その処分は学園長が下すことになる。
やった内容的に退学勧告は免れないとしてもそこに陛下が関わることはない。
今回は当事者が王太子であるライアンだからこそ事が大きくなっていた。

「ライアン、自由には責任が伴うものだ。王族は学園内で他の生徒同様に比較的自由に過ごす。その期間は自由を許された分、どういう過ごし方をするか、どれだけ責任のある行動ができるかを試されている」

あー……そうなんだ。
学生の間はある意味試用期間ということ?

グラント国の王子が他にもいたらもしかするとライアンもそのことに気づいたかもしれない。

しかし表向きには王子はライアン一人。
だから誰もがライアンが王位を継ぐことを疑問視しなかったし、ライアン自身もそこを疑っていなかった。

「ライアン、残念ながらお前には王としての資質が足りない」

陛下の言葉にライアンがビクッと身じろぎする。

「よって、ここにライアンの王位継承権を剥奪し、廃嫡することを宣言する」

陛下の声が重々しく響く。
ライアンは目を見開き、会場内は水を打ったように静まり返った。

「どういうことですか、父上。私が廃嫡となったら、一体誰がこの国を継ぐというのですか!」

一瞬呆然とした後ライアンが声を振り絞るように問いかける。

「それについてお前が気にする必要はない。これよりライアン・グラントは王太子ではなく一王子となる」

そこまで言ったあと陛下は一呼吸おいた。
すでに賽は投げられこの後のライアンの処遇は決まっている。

「また、男爵令嬢エマ・ウェインと共謀し公爵令嬢エレナ・ウェルズ嬢を陥れようとした罪を問う。よって沙汰を下すまでは王族専用の牢に幽閉とする」

陛下の合図で近衛兵が近づくとライアンの腕を取った。
ショックを受けたかのように項垂れたライアンは促されて歩を進める。

すれ違う時に一瞬だけ目が合った。

そこに込められた思いはいったい何だったのだろう?
わからないまま、ライアンは歩いていく。

そしてその姿は扉の向こうに消えたのだった。
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