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悪役令嬢は追及する
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「あの日あたしはエレナ様に中庭の池のほとりに呼び出されました」
ずっとライアンの影に隠れていたエマが突然言い出す。
ん?
呼び出されたのは私の方だけど?
私がちっともエマの挑発に乗らないから、教師を使って呼び出したでしょう。
「エレナ様は、婚約者であるエレナ様を差し置いてライアン様があたしを優先するのが気に入らなかったみたいで…。平民上がりだからマナーがなっていないとお叱りを受けましたわ」
まったくのでたらめなんだけど!
あの時の私たちを目撃した人はいなかったけれど、だからといってこんな嘘八百をよく言えるよね。
少なくとも私はエマの言っていることが真っ赤な嘘だとわかるのに。
「本当のことだから何も言えないのだろう!」
あまりのあり得なさにあっけに取られて反論するのが遅れ、それをいいことに今度はライアンが鬼の首を取ったかのように糾弾してきた。
「ライアン様の婚約者は私だと、これ以上嫌がらせを受けたくなければ大人しく身を引くように言われて池に突き落とされたんです!」
そう言ってエマはワッと声を上げると顔を覆ってうつむき泣いたふりをした。
今頃舌でも出してるんじゃないの?
私はあまりのことに呆れ果てながらそう思う。
いろいろ突っ込みどころはあるけれど、なんといっても内容が杜撰すぎた。
「いろいろ申し上げたいことはありますけれど、まず、私はエマ様にそのようなことは一切言っておりませんわ。それに、中庭に呼び出されたのは私の方です。先生からエマ様が何か相談したいことがあるからと伝言を受けてのことですから、お疑いであれば先生に確認されては?」
私が言い切ると、エマが少し慌てた様子になる。
え?
まさかと思うけど、自分が先生を使って私を呼び出したことを忘れてるんじゃないよね?
「お前は公爵令嬢。いくらでも教師の口を塞ぐことは可能だろう」
今度は横からライアンが口を挟んできた。
「ライアン様、ここは平等をモットーとする学園内ですわよ。ましてや相手は教師。そんなことがまかり通るわけないでしょう」
あり得ないとばかり答えると今度はエマが証言者を呼ぶための声を上げる。
「その状況を見ていた方々がいますわ!それに、証拠となる物もあります!!」
エマは辺りをキョロキョロと見回すと二人の男子生徒を呼び寄せた。
「あなたたちは私がエレナ様に池に突き落とされた様子を見ていたでしょう?それに証拠のハンカチも」
エマに詰め寄られた生徒たちが戸惑ったような顔をしながらも一応頷く。
断罪劇のためか、エマはハンカチも持ってきてもらったようだ。
「たしかに、僕たちは池に落ちていたエマ嬢を助けました。その場にハンカチが落ちていたのも事実です」
そう言って男子生徒の一人がポケットからハンカチを取り出す。
「ただ、エレナ嬢の姿やエマ嬢が池に落ちた瞬間は見ていません」
男子生徒の言葉にエマが驚きに目を見開く。
そりゃあそうでしょうよ。
彼は池に落ちていたエマとそのそばにあったハンカチに関しては自分たちが見たことだからちゃんと証言する。
でも実際に自分たちが目撃していないことまで証言することはない。
ゲームとは違ってここは現実なんだから。
この場での虚偽の発言は許されないし、何よりも迂闊なことを言えば公爵家に睨まれることをよくわかっているからだ。
生徒であってもそれぞれが家の看板を背負っていることを彼らはしっかり理解している。
それに、彼らはエマの取り巻きではない。
だからエマに有利な証言をするとは限らないということをエマはわかっていないのだろう。
「おわかりいただけたかしら?私はエマ様を池に突き落としてはいませんし、エマ様が証人とおっしゃった彼らもその場面を目撃してはいません。言いがかりをつけるのはやめていただきたいですわ」
ライアンはエマの言っていることを何も疑わずに信じているのだろうか?
そうだとしたら浅はかというしかない。
「……っ!突き落とさなかったという証拠にもならないでしょう!?私はエレナ様に突き落とされたのよ!違うというならその証明をしてみせなさいよ!!」
悪魔の証明ね。
『ない』ことの証明は不可能だ。
でもここにはそれを可能にする物がある。
「わかりましたわ。私もいわれのない疑いをかけられるのは迷惑ですので」
そう言って、私は男子生徒が持っていたハンカチを手に取った。
「では、一つずつ確認いたしましょう」
ずっとライアンの影に隠れていたエマが突然言い出す。
ん?
呼び出されたのは私の方だけど?
私がちっともエマの挑発に乗らないから、教師を使って呼び出したでしょう。
「エレナ様は、婚約者であるエレナ様を差し置いてライアン様があたしを優先するのが気に入らなかったみたいで…。平民上がりだからマナーがなっていないとお叱りを受けましたわ」
まったくのでたらめなんだけど!
あの時の私たちを目撃した人はいなかったけれど、だからといってこんな嘘八百をよく言えるよね。
少なくとも私はエマの言っていることが真っ赤な嘘だとわかるのに。
「本当のことだから何も言えないのだろう!」
あまりのあり得なさにあっけに取られて反論するのが遅れ、それをいいことに今度はライアンが鬼の首を取ったかのように糾弾してきた。
「ライアン様の婚約者は私だと、これ以上嫌がらせを受けたくなければ大人しく身を引くように言われて池に突き落とされたんです!」
そう言ってエマはワッと声を上げると顔を覆ってうつむき泣いたふりをした。
今頃舌でも出してるんじゃないの?
私はあまりのことに呆れ果てながらそう思う。
いろいろ突っ込みどころはあるけれど、なんといっても内容が杜撰すぎた。
「いろいろ申し上げたいことはありますけれど、まず、私はエマ様にそのようなことは一切言っておりませんわ。それに、中庭に呼び出されたのは私の方です。先生からエマ様が何か相談したいことがあるからと伝言を受けてのことですから、お疑いであれば先生に確認されては?」
私が言い切ると、エマが少し慌てた様子になる。
え?
まさかと思うけど、自分が先生を使って私を呼び出したことを忘れてるんじゃないよね?
「お前は公爵令嬢。いくらでも教師の口を塞ぐことは可能だろう」
今度は横からライアンが口を挟んできた。
「ライアン様、ここは平等をモットーとする学園内ですわよ。ましてや相手は教師。そんなことがまかり通るわけないでしょう」
あり得ないとばかり答えると今度はエマが証言者を呼ぶための声を上げる。
「その状況を見ていた方々がいますわ!それに、証拠となる物もあります!!」
エマは辺りをキョロキョロと見回すと二人の男子生徒を呼び寄せた。
「あなたたちは私がエレナ様に池に突き落とされた様子を見ていたでしょう?それに証拠のハンカチも」
エマに詰め寄られた生徒たちが戸惑ったような顔をしながらも一応頷く。
断罪劇のためか、エマはハンカチも持ってきてもらったようだ。
「たしかに、僕たちは池に落ちていたエマ嬢を助けました。その場にハンカチが落ちていたのも事実です」
そう言って男子生徒の一人がポケットからハンカチを取り出す。
「ただ、エレナ嬢の姿やエマ嬢が池に落ちた瞬間は見ていません」
男子生徒の言葉にエマが驚きに目を見開く。
そりゃあそうでしょうよ。
彼は池に落ちていたエマとそのそばにあったハンカチに関しては自分たちが見たことだからちゃんと証言する。
でも実際に自分たちが目撃していないことまで証言することはない。
ゲームとは違ってここは現実なんだから。
この場での虚偽の発言は許されないし、何よりも迂闊なことを言えば公爵家に睨まれることをよくわかっているからだ。
生徒であってもそれぞれが家の看板を背負っていることを彼らはしっかり理解している。
それに、彼らはエマの取り巻きではない。
だからエマに有利な証言をするとは限らないということをエマはわかっていないのだろう。
「おわかりいただけたかしら?私はエマ様を池に突き落としてはいませんし、エマ様が証人とおっしゃった彼らもその場面を目撃してはいません。言いがかりをつけるのはやめていただきたいですわ」
ライアンはエマの言っていることを何も疑わずに信じているのだろうか?
そうだとしたら浅はかというしかない。
「……っ!突き落とさなかったという証拠にもならないでしょう!?私はエレナ様に突き落とされたのよ!違うというならその証明をしてみせなさいよ!!」
悪魔の証明ね。
『ない』ことの証明は不可能だ。
でもここにはそれを可能にする物がある。
「わかりましたわ。私もいわれのない疑いをかけられるのは迷惑ですので」
そう言って、私は男子生徒が持っていたハンカチを手に取った。
「では、一つずつ確認いたしましょう」
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