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悪役令嬢は陛下の決断を知る

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「側妃殿下毒殺に関わる薬草の件、そして侯爵家当主の暴漢事件の件、共にレンブラント家の領地で収集できる証拠はある程度押さえられたと思うのだが、いかがだろうか?」
「そうですね。ひとまずこれ以上探りを入れて怪しまれるのも避けたいですし、領地の方はここまででいいかと」

ルドの問いかけに兄が答えた。

「それなら今度は、差し替える証拠書類についてレオ殿に確認してもらいたいのだが?」

そう言って、デュランがいくつかの書類や書簡、契約書と思われる紙の束を応接机の上に広げた。

「あまり時間が無かったにも関わらず、よくこれだけの物をそろえられましたね」

一つ一つの書類を確認しながらレオが感嘆の声を上げた。

「一応情報を扱うのが仕事なんでね。それぞれの家の紋章とかはすでに確認済みだったし、仕事の一環で伝手はいろいろある」

もしかすると該当の家の者が見てもぱっと見ではその真偽がわからないかもしれない。
そう思わせるだけ精度が高い出来上がりだった。

「ただ、これだけの量の書類を一度に運んでいたら目立つのではないでしょうか?」

もっともな懸念を兄に問われて、レオも難しい顔をする。

たしかに、王妃に呼ばれてやってきたレオがこれだけの物を抱えていたらいかにも怪しいよね。
一番いいのは王宮のどこかに隠しておいて、王妃を眠らせてから運ぶ方法だろうけど……。
レオ一人では時間的にも厳しいし見つかる可能性が格段に上がってしまう。

「俺の子飼いや以前影の任務についていた連中に運び役をやらせてもいいが、王宮の中はさすがに危険が多い。以前とは違って出入りが自由の身じゃないんでな」

そうだった。
ルドは以前陛下の影をしていたんだよね。
現役時代であれば王妃の私室とかの特別なところ以外は出入り自由だったんだろうけど、今同じことをしようものなら見つかり次第侵入者として捕まってしまうだろう。

「それに関しては陛下の影に協力をお願いしている」

今までもっぱら聞き役に徹していたダグラスが言葉を発する。

「陛下の?」
「そうだ。陛下の影はルドがその任を担っていた時からはだいぶ変わっている。中には知った顔もいるとは思うが、以前の影を王宮内に手引きすることは無理だろう」

陛下の影が協力してくれるということは、陛下は今回の私たちの計画、ひいては以前の二つの事件の真相を知ったということだろうか?
そういえばダグラスは最近頻繁に王宮へ行っていた。
その時に陛下に相談していた?

「陛下は……陛下は王妃に側妃殿下殺害の罪を、そしてレンブラント家には侯爵家当主殺害の罪を問うつもりだ。そしてライアンは廃嫡すると決められた」

ダグラスの言葉に、室内の空気がザワッと揺れた。

「陛下が、そうおっしゃたと?」
「そうだ」

ルドの問いに対してダグラスの答えは簡潔だ。

そう。
ライアンは廃嫡になるのね。

王になる資質という面でライアンが国を背負って立つのは荷が重いとは思っていた。
それでも、今この時まで後継者として変わらずに据えられていたことを考えると、何とも言葉にし難い思いが胸の中に広がる。

これは以前のエレナの思いだろうか?
どれだけわだかまりを抱えようとも、幼少時から今までエレナはライアンの婚約者だった。
ライアンが王として立つために、そのためだけにずっと頑張ることを強要され続けてきたことを思えば、複雑な気持ちになるのもわからないでもなかった。

エレナにとって、ライアンの廃嫡は自身の努力の否定と感じられても仕方がないのかもしれない。

本当、中身が私で良かったと思う。
私にしてみればライアンは見るたびに愚かなことをし続ける残念な男でしかないし、こんな男が王座に就けば国は傾くに違いないと確信が持てる。

以前のエレナと違って、躊躇わずにライアンを追い詰めることができるからだ。

「陛下のご協力が望めるのは何よりですわ」

私はそう言って全員を見回した。

証拠がそろい方法が決まったのなら、あとは実行するのみ。
すべては修了式までに、そう、断罪劇の前までに済ませなければならない。
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