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悪役令嬢はため息をつく

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「嵐のようでしたわね」

唖然としながらクレアが言う。

「ライアン様ってあんな性格でしたかしら?」

そしてソフィが戸惑ったように続けた。

まぁ、ライアンは昔から思慮が足りずに短気な面があったけど、エマと一緒に行動するようになってからその欠点がさらに助長された感じはある。
相乗効果で悪くなるって……ある意味相性が最悪ってことなんだけど。

「昔から考え方が幼い面はお持ちでしたけど……今は近くでお諌めしたり助言する方がいらっしゃらないみたいですから、そのせいもあるのかもしれませんわ」
「あ……」

クレアがハッと気づいたような表情になる。

そう。
オーウェンもベイリーも、ライアンのそばにいた時はおかしいことはおかしいとちゃんと言っていた。
その点彼らは正しく側近だったし、今後のためにも身分に臆することなく忠告できる人材を学生のうちからつけるというのはライアンへの配慮だったはずだ。
結局ライアンは自分の手でその存在を切り捨ててしまったのだけど。

人と人の関係はお互いに影響し合うものだからより良くなることもあれば悪くなることだってある。
ライアンが悪い方へ変化しているとしたら、エマの影響なのかゲームの強制力なのか。
いずれにせよだからといって許せるものではない。

「さぁさぁ、今のことは忘れて、せっかくなのでドレス選びを楽しみましょう?」

気持ちを切り替えるように言った私の言葉に、辺りに漂っていた後味の悪い雰囲気が掻き消えた。

その後、クレアとソフィの意見も取り入れながらジェシカと私のドレス選びは終了した。
二人は婚約者と色をそろえるという制限があるためか自分のドレスではあまり冒険ができないらしく、それはそれは楽しく私たちのドレスを選んでくれた。

特にジェシカのドレス選びが白熱したのはどんなドレスでも着こなせるからだ。

やっぱり引き締まった体ってドレスを選ばないのね。
ジェシカは鍛えているせいもあるのか出るところは出ているし、体幹がしっかりしているためとても姿勢が良い。
クレアもスタイル抜群だが、彼女は見るからに艶やかでけしからん体型であるのに対して、ジェシカは脱いだらすごいパターンだった。

いやぁ、途中でライアンとエマの乱入があったものの、可愛い女の子たちとのショッピングはとても良い時間でした。
誰にともなくご馳走さまと心の中で呟きつつ、私は馬車に揺られていた。
遠慮するジェシカを先に送り届けての帰りである。
クレアとソフィはそれぞれの家から迎えが来ていたが、ジェシカは自力で帰るというのだからやはり彼女も貴族令嬢としては特殊なのだろう。

「エレナ様が楽しまれたようで何よりです」

不意に目の前に座っているレオがそう言って、私はでもねぇと思い返す。

今回のショッピングで、レオはエレナ様至上主義を遺憾なく発揮していた。
それはもう周りがドン引きするレベルで。

ドレスに合わせる靴を選ぶ時なんて、自らの腿に靴を乗せ恭しく私の前に跪くんだから。
いやいや、その靴なかなかのヒールよ?
ピンヒールとまではいかないけれど、腿の上に置いたら痛いのでは?
それ以上に靴を履くための台はちゃんとあるんだけど!

ただ、それでもレオがちゃんと線引きしているんだなと思ったのは私の足にはほんの少しも触れなかったこと。
淑女の足は家族か婚約者でもなければ見せてはいけないものというのがこの世界の常識ということもあって、レオは私が試し履きする時も台役に徹していた。

いや、それなら普通に台を使えば良くない?って思うんだけどね。
なぜかそれを嬉々としてやっていたんだから、ジェシカだけでなくクレアとソフィも驚くはずだわ。
別れ際なんて未知なる生物を見るような目でレオのことを見ていたような気がしなくもない。

それでいいのか、レオ。

そう思いながらも、なんだか楽しそうな本人を見ていると止める気にもならなかったのだけど。
まぁ、害があるわけではないしいいのかしら?
兄やダグラスに知られたら自覚が足りないって怒られそうだけど。

でも本当、不思議なことにレオからは男女のあれやこれやな感情は感じない。
ただ純粋に私に仕えるのが嬉しいという態度をされるとどうしたらいいか困るんだよね。

以前レオはこう言った。

自分の心と体は繋がっていないのだと。
小さな頃から理不尽な目に遭い続けてきたレオは、心で拒否していることであっても体は別の意志で動かすことができるらしい。
それが自分を守るための術だったんだろうけど、聞いていた私は心が潰れる気持ちになった。

笑顔で『王妃のことは憎悪していますけど、抱くことはできます』って言われた時はどうしようかと思ったよ……。

だから私はできる限りレオがやりたがることはさせてあげたい。
もちろん、私の意思に反することはダメだけど。

麗しい容姿の美丈夫が微笑む様を眺めながら、私はなんともいえないため息をついたのだった。
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