146 / 201
悪役令嬢は証拠の在処を知る
しおりを挟む
レオのショッキングな告白につかの間沈黙が落ちた。
そんな中最初に立ち直ったのは年の功なのかルドだった。
「レオ殿が事件の詳細を知っている理由はわかった。あまり言いたくなかっただろうことを口にさせてしまい申し訳ない」
「いいえ。問題ありません」
対してレオは常と変わらずの態度だ。
動揺も狼狽もない。
それは精神が達観しているからか心を失っているからか。
後者な気がしてならないよね。
それでも、さっきのレオの瞳は『無』ではなかったと思う。
あの揺らぎは何かしらの感情がよぎったせいだろうから。
「話を続けよう。今大事なのは事件の証拠なわけだが、レオ殿には何か心当たりがあるのだろうか?」
ルドはただのおじさんの振りをしているけどやっぱり違う。
話をまとめるのも問いかける質問も無駄がない。
「あります」
レオの返答に、場の緊張が一気に高まった。
「卑怯で臆病な者は自分に都合の悪い物をどうすると思いますか?」
不意に問い返されて、ルドが目を見張る。
「王妃が卑怯で臆病な者だということか?……そうだな、手元に証拠があれば見つかる危険が上がる。証拠も、なんなら事件の関係者もまとめて隠滅、つまり処分したんじゃないか」
ルドの考え方は妥当とも言える。
証拠は少ない方が見つかりにくいはずだ。
「普通であればそう考えるでしょうね」
レオはもたれていた窓枠から少し身を起こした。
「側妃殿下毒殺事件にしても、その前の侯爵様が暴漢に襲われた事件にしても、関わった人の数が多い。事件なんてものは関わった人間が多ければ多いほど真相が漏れていく確率が上がります」
人の口に戸は立てられぬっていうもんね。
ましてや側妃殿下の事件は侍女一人とってもその立場に辿り着くまでにたくさんの人を介したはずだ。
「人を縛るものはいろいろあります。契約、感情、そして……脅迫」
脅迫。
物騒すぎる。
「王妃はすべてのやり取りの証拠を残してあります。それは王妃の弱点となりますが、裏を返せば共犯者への脅しにも使える。諸刃の剣であったとしても、証拠があると思えば共謀した者たちも迂闊には動けなくなるのです」
そこで初めてレオはその顔に表情をのせた。
嘲るような、侮蔑するような、そんな表情を。
「古くは私に関する契約書もありますよ。隷属のアーティファクトを施された子どもを譲渡する、そしてその見返りに何を貰うのかが記載されている、そんな契約書が」
「それはニールセン伯爵家と交わした契約書ということかしら?」
「そうです」
それは……言ってみれば人身売買の契約書ということなんじゃ……。
「人身売買はこの国では禁止されているだろう」
「ダグラス殿、たとえ禁止されていたとしても法を犯す者は気にしません。表沙汰にならなければいいと思っていますから」
うん、そういう人たちがいるのはわかっている。
なんなら今集まっている人の中でもデュランはこのことについてあまり踏み込みたくはないだろう。
犯罪は犯していなくても、情報を取り扱う上で法スレスレなことをする場面もあるだろうから。
「つまり王妃の手元には、表に出せばその罪を問えるだけの証拠がたくさんあるということです」
過去の事件の証拠が処分されることなく今でも存在している、それはこの場において何よりも求められている答えではあるけれど。
問題はその証拠がどこにあって、どうやって手に入れるかだろう。
「レオ殿はその証拠の保管場所を知っているのだろうか?」
「ルド殿、王宮内で王妃にとって一番安心できて他者の介入を避けられる場所はどこか、と考えれば自ずと答えは出るかと」
「つまり、王妃の私室、ということか」
「ご明察です」
王妃の私室か……。
証拠を隠すには妥当な場所ではあるけれど、こちらがその証拠を手に入れるには難しい場所だよね。
「陛下や陛下の影であっても王妃の私室は不可侵の場所。証拠があるとわかっていて手が出せないのは……厳しいな」
室内に沈黙が落ちる。
誰もが証拠を手に入れるにはどうしたらいいか頭を悩ませたその時、レオがあっさりと告げた。
「証拠入手は、私がします」
そんな中最初に立ち直ったのは年の功なのかルドだった。
「レオ殿が事件の詳細を知っている理由はわかった。あまり言いたくなかっただろうことを口にさせてしまい申し訳ない」
「いいえ。問題ありません」
対してレオは常と変わらずの態度だ。
動揺も狼狽もない。
それは精神が達観しているからか心を失っているからか。
後者な気がしてならないよね。
それでも、さっきのレオの瞳は『無』ではなかったと思う。
あの揺らぎは何かしらの感情がよぎったせいだろうから。
「話を続けよう。今大事なのは事件の証拠なわけだが、レオ殿には何か心当たりがあるのだろうか?」
ルドはただのおじさんの振りをしているけどやっぱり違う。
話をまとめるのも問いかける質問も無駄がない。
「あります」
レオの返答に、場の緊張が一気に高まった。
「卑怯で臆病な者は自分に都合の悪い物をどうすると思いますか?」
不意に問い返されて、ルドが目を見張る。
「王妃が卑怯で臆病な者だということか?……そうだな、手元に証拠があれば見つかる危険が上がる。証拠も、なんなら事件の関係者もまとめて隠滅、つまり処分したんじゃないか」
ルドの考え方は妥当とも言える。
証拠は少ない方が見つかりにくいはずだ。
「普通であればそう考えるでしょうね」
レオはもたれていた窓枠から少し身を起こした。
「側妃殿下毒殺事件にしても、その前の侯爵様が暴漢に襲われた事件にしても、関わった人の数が多い。事件なんてものは関わった人間が多ければ多いほど真相が漏れていく確率が上がります」
人の口に戸は立てられぬっていうもんね。
ましてや側妃殿下の事件は侍女一人とってもその立場に辿り着くまでにたくさんの人を介したはずだ。
「人を縛るものはいろいろあります。契約、感情、そして……脅迫」
脅迫。
物騒すぎる。
「王妃はすべてのやり取りの証拠を残してあります。それは王妃の弱点となりますが、裏を返せば共犯者への脅しにも使える。諸刃の剣であったとしても、証拠があると思えば共謀した者たちも迂闊には動けなくなるのです」
そこで初めてレオはその顔に表情をのせた。
嘲るような、侮蔑するような、そんな表情を。
「古くは私に関する契約書もありますよ。隷属のアーティファクトを施された子どもを譲渡する、そしてその見返りに何を貰うのかが記載されている、そんな契約書が」
「それはニールセン伯爵家と交わした契約書ということかしら?」
「そうです」
それは……言ってみれば人身売買の契約書ということなんじゃ……。
「人身売買はこの国では禁止されているだろう」
「ダグラス殿、たとえ禁止されていたとしても法を犯す者は気にしません。表沙汰にならなければいいと思っていますから」
うん、そういう人たちがいるのはわかっている。
なんなら今集まっている人の中でもデュランはこのことについてあまり踏み込みたくはないだろう。
犯罪は犯していなくても、情報を取り扱う上で法スレスレなことをする場面もあるだろうから。
「つまり王妃の手元には、表に出せばその罪を問えるだけの証拠がたくさんあるということです」
過去の事件の証拠が処分されることなく今でも存在している、それはこの場において何よりも求められている答えではあるけれど。
問題はその証拠がどこにあって、どうやって手に入れるかだろう。
「レオ殿はその証拠の保管場所を知っているのだろうか?」
「ルド殿、王宮内で王妃にとって一番安心できて他者の介入を避けられる場所はどこか、と考えれば自ずと答えは出るかと」
「つまり、王妃の私室、ということか」
「ご明察です」
王妃の私室か……。
証拠を隠すには妥当な場所ではあるけれど、こちらがその証拠を手に入れるには難しい場所だよね。
「陛下や陛下の影であっても王妃の私室は不可侵の場所。証拠があるとわかっていて手が出せないのは……厳しいな」
室内に沈黙が落ちる。
誰もが証拠を手に入れるにはどうしたらいいか頭を悩ませたその時、レオがあっさりと告げた。
「証拠入手は、私がします」
681
お気に入りに追加
2,281
あなたにおすすめの小説
愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた
迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」
待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。
「え……あの、どうし……て?」
あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。
彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。
ーーーーーーーーーーーーー
侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。
吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。
自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。
だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。
婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。
※基本的にゆるふわ設定です。
※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます
※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。
※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。
悪役令嬢が行方不明!?
mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。
※初めての悪役令嬢物です。
プロローグでケリをつけた乙女ゲームに、悪役令嬢は必要ない(と思いたい)
犬野きらり
恋愛
私、ミルフィーナ・ダルンは侯爵令嬢で二年前にこの世界が乙女ゲームと気づき本当にヒロインがいるか確認して、私は覚悟を決めた。
『ヒロインをゲーム本編に出さない。プロローグでケリをつける』
ヒロインは、お父様の再婚相手の連れ子な義妹、特に何もされていないが、今後が大変そうだからひとまず、ごめんなさい。プロローグは肩慣らし程度の攻略対象者の義兄。わかっていれば対応はできます。
まず乙女ゲームって一人の女の子が何人も男性を攻略出来ること自体、あり得ないのよ。ヒロインは天然だから気づかない、嘘、嘘。わかってて敢えてやってるからね、男落とし、それで成り上がってますから。
みんなに現実見せて、納得してもらう。揚げ足、ご都合に変換発言なんて上等!ヒロインと一緒の生活は、少しの発言でも悪役令嬢発言多々ありらしく、私も危ない。ごめんね、ヒロインさん、そんな理由で強制退去です。
でもこのゲーム退屈で途中でやめたから、その続き知りません。
融資できないなら離縁だと言われました、もちろん快諾します。
音爽(ネソウ)
恋愛
無能で没落寸前の公爵は富豪の伯爵家に目を付けた。
格下ゆえに逆らえずバカ息子と伯爵令嬢ディアヌはしぶしぶ婚姻した。
正妻なはずが離れ家を与えられ冷遇される日々。
だが伯爵家の事業失敗の噂が立ち、公爵家への融資が停止した。
「期待を裏切った、出ていけ」とディアヌは追い出される。
妹のことを長年、放置していた両親があっさりと勘当したことには理由があったようですが、両親の思惑とは違う方に進んだようです
珠宮さくら
恋愛
シェイラは、妹のわがままに振り回される日々を送っていた。そんな妹を長年、放置していた両親があっさりと妹を勘当したことを不思議に思っていたら、ちゃんと理由があったようだ。
※全3話。
婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話
婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!
志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。
親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。
本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる