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悪役令嬢はチャンスをものにする
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痛いのは嫌いだ。
当然、自ら痛い思いをするなんてあり得ない。
あり得ないのだが。
このチャンスをものにしないというのも無いよね。
そう思って私は小振りのナイフを手に取る。
机の上には隷属のアーティファクト。
やらないといけないことはわかっている。
ヒタリッと左手の親指にナイフを当てた。
スッと横に引くと指の先から赤い血がタラッと滴り落ちる。
落ちた血液が所有者の青のマーブル模様の上に染みていく。
じっとその様子を見つめていた私はすぐに気づいた。
マーブル模様は変化したけど、紫にならない?
デュランは必要な血液は数滴だと言っていた。
たしかに模様は変わった。
つまりレオの所有者はこの時点で王妃ではなく私になったのだと思う。
でも私が望んでいるのはレオの解放だ。
このままでは所有者の変更しかできていないってことだよね?
なんで?
もっと血が必要ということだろうか。
私は意を決するともう一度ナイフを親指に当てる。
深呼吸をしてから先ほどよりも少し力を込めてナイフを引いた。
「あっ……」
緊張で汗をかいていたせいだろうか、うっかりと、手が滑った。
「いっ……たぁ……」
思わず声も出ようものだ。
パタタタッと指から血が落ちていく。
所有者の青の窪みを超えて周りまで染まるくらいの量の血に、自分でやったことながら気分が悪くなった。
「う……」
小さくうめきながら目を凝らすと、血溜まりの奥でマーブル模様が変化していく。
まるで吸い込むように窪みが血を吸収して紫に変わったのが見えた。
血の量の問題だったのだろうか?
そう思いながら、今度はすでに赤く染まっている隷属者の白へ血を落とす。
嗅ぎ慣れない鉄くさい匂いが辺りに広がる中、少し色褪せていた赤が血に染まり鮮やかさを取り戻していく。
レオの血で染められてから隷属の白はかなりの時間が経過していたのだろう。
その色褪せたところに鮮血が滴れば自動的に色は濃くなる。
これで本当にレオは解放されるのか、解放されたならどんな変化が現れるのか。
そう思いながら見守っていたら突然教室のドアが勢いよく開け放たれた。
「エレナ様!!」
大きめの声で自分の名前を呼ばれ思わず肩が跳ねる。
「……なっ!!」
声の主はレオだった。
手から血を滴らせている私に驚いたのか、レオにしては珍しく手荒く私の手を掴むと上にあげる。
一瞬遅れて血を止めるために心臓よりも上に上げたのだと気づいた。
「何をしているんですか!」
常日頃穏やかで冷静なレオが声を荒らげている。
レオが怒っているのはわかったが、私の方も通常では見ることのない量の血に気持ち悪くなっていた。
そんな状況の中で突然隷属のアーティファクトが眩い光を放った。
「え!?」
「何!?」
しかしその光は一瞬で消える。
そして後に残されたのは、所有者の青も隷属者の白もどちらもが黒く変色したアーティファクトだけ。
「なぜこれがこんなところに?」
どことなく呆然とした声でレオが言う。
さっきまで私の血に動揺していたレオは、ここで初めてそれの存在に気づいた。
「レオ、体調に何か変化はあって?」
問いかけに、レオは自分がまだ私の手首を掴んでいることに慌てる。
すぐにハンカチを取り出して私の親指に巻くとしっかりと握って止血するように言った。
「エレナ様、いったいこれはどういうことでしょう?」
もはやどこもかしこも疑問だらけのレオが視線だけはアーティファクトから外さずに問いかけてくる。
「まずはこれを片づけてからお話ししましょう」
あれだけ滴って、アーティファクトだけでなくその周りの机も汚していたはずの血は綺麗さっぱり消えていた。
私はまず自分のナイフを片づけると隷属のアーティファクトをライアンの机の引き出しに丁寧にしまった。
これを見れば王妃は何かが起こったことにすぐに気づくだろう。
なぜなら所有者の青も隷属者の白も色が変わってしまったから。
それでも、何が起こったかまではわからないはずだ。
レンブラント家縁の老人があえてあの本を持ち出したのだとしたらあれがオリジナルに違いない。
情報の希少性から考えても模写した物が残っている可能性は低いだろう。
それに、なんといってもあれは古代語が理解できなければ解読できないしね。
とりあえずはレオが隷属のアーティファクトから解放されたことがバレる可能性は低いだろうと判断して、私はそのまま教室から離れたのだった。
当然、自ら痛い思いをするなんてあり得ない。
あり得ないのだが。
このチャンスをものにしないというのも無いよね。
そう思って私は小振りのナイフを手に取る。
机の上には隷属のアーティファクト。
やらないといけないことはわかっている。
ヒタリッと左手の親指にナイフを当てた。
スッと横に引くと指の先から赤い血がタラッと滴り落ちる。
落ちた血液が所有者の青のマーブル模様の上に染みていく。
じっとその様子を見つめていた私はすぐに気づいた。
マーブル模様は変化したけど、紫にならない?
デュランは必要な血液は数滴だと言っていた。
たしかに模様は変わった。
つまりレオの所有者はこの時点で王妃ではなく私になったのだと思う。
でも私が望んでいるのはレオの解放だ。
このままでは所有者の変更しかできていないってことだよね?
なんで?
もっと血が必要ということだろうか。
私は意を決するともう一度ナイフを親指に当てる。
深呼吸をしてから先ほどよりも少し力を込めてナイフを引いた。
「あっ……」
緊張で汗をかいていたせいだろうか、うっかりと、手が滑った。
「いっ……たぁ……」
思わず声も出ようものだ。
パタタタッと指から血が落ちていく。
所有者の青の窪みを超えて周りまで染まるくらいの量の血に、自分でやったことながら気分が悪くなった。
「う……」
小さくうめきながら目を凝らすと、血溜まりの奥でマーブル模様が変化していく。
まるで吸い込むように窪みが血を吸収して紫に変わったのが見えた。
血の量の問題だったのだろうか?
そう思いながら、今度はすでに赤く染まっている隷属者の白へ血を落とす。
嗅ぎ慣れない鉄くさい匂いが辺りに広がる中、少し色褪せていた赤が血に染まり鮮やかさを取り戻していく。
レオの血で染められてから隷属の白はかなりの時間が経過していたのだろう。
その色褪せたところに鮮血が滴れば自動的に色は濃くなる。
これで本当にレオは解放されるのか、解放されたならどんな変化が現れるのか。
そう思いながら見守っていたら突然教室のドアが勢いよく開け放たれた。
「エレナ様!!」
大きめの声で自分の名前を呼ばれ思わず肩が跳ねる。
「……なっ!!」
声の主はレオだった。
手から血を滴らせている私に驚いたのか、レオにしては珍しく手荒く私の手を掴むと上にあげる。
一瞬遅れて血を止めるために心臓よりも上に上げたのだと気づいた。
「何をしているんですか!」
常日頃穏やかで冷静なレオが声を荒らげている。
レオが怒っているのはわかったが、私の方も通常では見ることのない量の血に気持ち悪くなっていた。
そんな状況の中で突然隷属のアーティファクトが眩い光を放った。
「え!?」
「何!?」
しかしその光は一瞬で消える。
そして後に残されたのは、所有者の青も隷属者の白もどちらもが黒く変色したアーティファクトだけ。
「なぜこれがこんなところに?」
どことなく呆然とした声でレオが言う。
さっきまで私の血に動揺していたレオは、ここで初めてそれの存在に気づいた。
「レオ、体調に何か変化はあって?」
問いかけに、レオは自分がまだ私の手首を掴んでいることに慌てる。
すぐにハンカチを取り出して私の親指に巻くとしっかりと握って止血するように言った。
「エレナ様、いったいこれはどういうことでしょう?」
もはやどこもかしこも疑問だらけのレオが視線だけはアーティファクトから外さずに問いかけてくる。
「まずはこれを片づけてからお話ししましょう」
あれだけ滴って、アーティファクトだけでなくその周りの机も汚していたはずの血は綺麗さっぱり消えていた。
私はまず自分のナイフを片づけると隷属のアーティファクトをライアンの机の引き出しに丁寧にしまった。
これを見れば王妃は何かが起こったことにすぐに気づくだろう。
なぜなら所有者の青も隷属者の白も色が変わってしまったから。
それでも、何が起こったかまではわからないはずだ。
レンブラント家縁の老人があえてあの本を持ち出したのだとしたらあれがオリジナルに違いない。
情報の希少性から考えても模写した物が残っている可能性は低いだろう。
それに、なんといってもあれは古代語が理解できなければ解読できないしね。
とりあえずはレオが隷属のアーティファクトから解放されたことがバレる可能性は低いだろうと判断して、私はそのまま教室から離れたのだった。
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