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悪役令嬢は思い惑う

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書類の一枚目に書かれていたのはレオの生い立ちだ。
そして二枚目に、私の目的の内容があった。

隷属のアーティファクトに縛られたレオの所有権は、最初はニールセン家の正妻が持っていた。
しかしある時正妻はとある人物に所有権ごとレオを贈っている。

そう。
まさしく物のように。

贈られた先はグラント国王妃、ナターシャ・グラント。
そう書類には記されていた。

王妃!?
そうか、そういえばニールセン家は王妃の派閥だ。

待って待って。
ということは、レオは王妃に仕えているということ?
それでなぜウェルズ家の専属護衛になんてなってるの?
スパイ?

頭の中で思考がぐるぐると回っている。
一気に入ってきた情報が多過ぎて混乱していた。

一度冷静になろう。

レオは貴族の出身だがその扱いはまるで奴隷のようなものだった。
生家では正妻に虐げられており、その後王妃に贈られている。
現在のレオの主は王妃ナターシャ。

つまり今は私を狙っているということだろうか。
私が側妃の事件を探っていることがバレたのはレオから?
いや、昨日の襲撃事件は別件ということもあり得る。

それにレオならやろうと思えばいつでも私を事故に見せかけて亡き者にすることができるはずだ。
しかし今のところそんな気配はなかった。

レオにとって命令に従うことは当然のことだから、そこに殺意などないのだろうか。
いやいや、でもレオから私を害そうなんて雰囲気を感じたことはないよね。
それともそれが当たり前の仕事だから日常と変わらない生活線上に人の生き死にがあるのだろうか。

あー、もう!
そうよ、わかっている。
私はレオを信じたいんだ。
今までレオが見せてきた姿がすべて偽りだとは思えないから。

甘い考え、だよね。
ダグラスに聞かれたら怒られそう。

いずれにせよ今すぐレオを護衛から外すという考えはやはり無かった。
王妃側にレオの出自についてこちらが把握していることを知られたくない、というのもある。

同時に、一つの考えが浮かんだ。

もしかすると両親が側妃の事件とレンブラント家の繋がりを知ったのはレオを雇ったことが契機だったのではないか。
タイミング的にはあり得る。

長い間ずっと表に出てこなかった情報がこぼれ出た、そこには今までにない何かしらの変化があったはずだから。

それにしてもレオはどんな気持ちで私の側にいるのだろう。

アーティファクトに縛られている限りそこにどんな意志があろうともレオは命令に従わなければいけない。
生まれた時から自由の無い人生。
自由を知らなければ不自由を意識しないものなのか。
いや、そこに心がある限り何も感じないなんてあり得ない。

あの瞳。
かつての友と似ている諦観の浮かんだあの眼。
似ているけれど、レオの眼は捨てきれないものをまだ孕んでいるようにも思えた。

これは自己満足だ。
私は思う。
レオの意志関係なしに彼をその呪縛から解き放ちたいと願うことは、私の自己満足でしかない。

かつての友は。
ビルの屋上から飛んでそこに何を見たのだろう。

私は手元の書類をもう一度眺めた。
レオと王妃の繋がりを示すその書類を。

レオは獅子身中の虫だろうか。

今はまだ、わからなかった。
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