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悪役令嬢は呼び出される

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その日私はデュランに呼び出されて久しぶりに情報ギルドまで来ていた。

「ごきげんよう」
そう挨拶して、今日も今日とてミラを愛でる。
ミラは以前は少し痩せ気味で心配だったが、若干ふっくらして可愛らしさに磨きがかかっていた。

かわええ…。
そう心で思いながらミラの髪の毛を複雑な編み込みにしていく。

「あー…その、なんだ。ミラを可愛がってもらえるのは嬉しいが、今日は大事な報告があるんだが」
半分呆れたようなデュランの声が聞こえて、そういえば何か大事な話があるとかで呼び出されたんだった、と私は当初の目的を思い出した。

「ついついミラの可愛らしさに引き寄せられてしまいましたわ。報告とやらをお願いできるかしら?」
褒められて喜ぶミラが尊いわぁ。

ミラの髪の毛を触る手を止めず、私はデュランに話を促す。

「んんっ…先日オフィスにエマ・ウェインから特ダネを『王都だより』に載せて欲しいという依頼があった」
咳払いをして注意を引いてからデュランが話し始める。

そんなことをしなくてもちゃんと聞いてますよー。
それにしても、『王都だより』ってまんまなネーミングね。
誰がつけたか知らないけれど、センスがちょっと…。
いや、何事もわかりやすい方がいいのだから、これはこれでOKなのかしら?
特にこの新聞もどきはどちらかというと平民向けだしね。

「どんな内容かは聞きまして?」
「あー…それはだな…」
何だかデュランが言いづらそうにしている。

なるほどね。
どうせ私への誹謗中傷なんでしょう。
公爵令嬢であるエレナが下位貴族である男爵令嬢のエマを虐めたとか。
そういった内容なのは想像がついた。

というか、私にとっては予想通りだ。

「公爵令嬢エレナ・ウェルズが男爵令嬢のエマ・ウェインを虐げているとか、そういった内容なのではなくて?」
私の言葉にデュランが驚きの表情をしている。

「そんなことは絶対にないと思っているが、エマ嬢の言っていることに心当たりがあるのか?」
「私が彼女を虐めているとでも?」
「…いや、ないな」

まさかというような顔をしたデュランはすぐさま自分で否定した。
一瞬でも疑うなんてちょっとご立腹なんですけど。

「当たり前でしょう。私にとって彼女なんて取るに足らない存在ですのよ。やたらと絡まれて困っているところですの」
「そうか。そうだよな」
そう言うと、デュランは一枚の紙を私に見せる。

「彼女がこの紙を持ってやってきたんだ」

なになに…。
私はエマが書いたと思われる紙に目を通した。

あらー。
見事に自分の都合のいいように書いてるわ。
そして内容的にはライアンルートの噂にあたる部分ね。

ライアンルートでは、芸術祭の後に平民の間から『高慢で意地悪なエレナよりも優しくて平民にも心を砕いてくれるエマを王太子妃に』という噂が広まるのだ。

だけど今回私はエマの企みをことごとく潰してきたし、私がエマを虐めているという客観的事実はない。

平民は貴族のことなんてわからないだろうからどうとでもなると思ってこんなことを言ってきたんでしょうけど。
浅はかよねぇ。
ま、私としては予想通りの行動を取ってくれる方が楽でいいんだけどね。

「これはどう考えても事実無根だろ?だから載せる必要はないと思っているんだが、エレナ嬢には自分に関する情報はすべて報告するようにと依頼を受けているから今回来てもらったんだ」

「ちゃんと依頼をこなしていただけて助かりますわ」
そう言うと私はデュランにエマの紙を返した。

「この特ダネとやら、紙面に掲載していただいてけっこうですわ」
「え!?」
「ですから、エマ様のお望み通りこのままの内容を掲載してください」
「しかし…エレナ嬢から依頼されている情報操作というのは、こういった内容のものを止めるということではないのか?」
「止めなくても問題ありません。その代わりに…」

エマの計画を利用して反撃するために、私は口を開いた。
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