60 / 201
悪役令嬢は赤面する
しおりを挟む
発表会での冤罪ポイントはやっぱり音楽室での目撃情報なわけで、ならばその時間に別の場所で別の人に目撃してもらえばいい。
なんなら目撃者は多ければ多い方がいいのだ。
そしてなるべく嘘や誤魔化しは少ない方が望ましい。
という訳で。
私は今空き教室で件の男爵令嬢からの手紙を片手に持ち、もう一方の手にペーパーナイフを持っている。
先ほどまで一緒だったダグラスにはジェシカを呼びに行ってもらっているため今は不在にしていた。
私を1人にすることを渋る姿に護衛の任務と分かっていても少しときめいてしまったことは内緒だ。
なんだか大事にされているような気がして。
今までだったら「気をつけてくださいね」と言うくらいでサクッと呼びに行ってくれたんだけど…ダグラスにも何か心境の変化があったのかしら?
ちなみに、発表者が各自の楽器を音楽室に持ち込むのが許されるのは30分後から。
私もあまりもたもたしてはいられない。
男爵令嬢からの手紙はまだ内容を確認していなかった。
おそらく音楽室への呼び出しだと思うけど、エマのことだから足がつくようなヘマはしていないだろう。
「さて。やりますか」
私は気合をいれる。
痛いのは嫌だ。
嫌だけど…ここは一つ我慢のしどころ。
そう思って、私は令嬢からの手紙を机に置くと恐る恐るペーパーナイフを左手人差し指の先に当てる。
ほんの少しよ。
少しだけ力を入れて…多少血が出るくらいでいいから。
そう思ってナイフを持つ手にグッと力を入れた瞬間。
「お嬢さま!!」
ダグラスの声が教室内に響いて、驚きで私は手を滑らせた。
「あ…」
予定より大きく指先を滑ったナイフは薄く皮膚を切り裂いて、床にポタタっと血が滴り落ちる。
わっ!
床を汚しちゃった!
人は驚くと一時的に痛みを忘れるものなのか、最初に思ったのはそんなどうでもいいことだった。
「なにをやってるんですか!」
いつになく強い物言いのダグラスが私の手を掴むと心臓よりも上に上げる。
いやいやダグラスくん、驚かしたのはあなたよ。
そしてたぶんそれほど傷は深くない。
ダグラスの後ろから教室に入ってきたジェシカがやっぱりやったのかとでもいうような顔をしている。
なによ。
私は有言実行がモットーなのよ。
「保健室に行きましょう」
いつになく怖い顔のダグラスが低い声で言う。
そうそう、目的は保健室に行くこと。
そしてそれまでになるべくたくさんの人に目撃されること。
「わかりましたわ」
そう言うと私はハンカチを取り出して指に巻いた。
止血がてら押さえて、さぁ保健室へと思ったところで体がふわっと浮く。
「へ?」
わかっている。
令嬢にあるまじき言葉だと言うことは。
しかし、しかしだ。
なんで!?
なぜ私はダグラスにお姫様抱っこをされているのー!?
「ダ…ダグラス、怪我をしたのは手ですのよ。足は問題ないので自分で歩けますわ」
焦る私を無視してダグラスはスタスタと歩き出す。
「お嬢さまの言うことは聞きません。落とされたくないなら大人しくしていてください」
めちゃくちゃ近い位置にダグラスの美貌がある。
抱えられた腕はしっかりしていて安定感は抜群。
厚い胸板とか腕の筋肉とか、触れているから体越しにしっかりと感じた。
はわわわわ!
鼓動が急激に速くなる。
みなさん、人生初のお姫様抱っこですよ。
焦るなと言う方が無理でしょう!
おかげさまでとても目立った。
目撃者も大変たくさんいた。
女生徒は頬を赤らめ、男子生徒は面白がるような表情を浮かべている。
なんたる羞恥プレイ。
私は赤面しているのが見られないように、うつむいて顔を隠すしかなかったのだった。
なんなら目撃者は多ければ多い方がいいのだ。
そしてなるべく嘘や誤魔化しは少ない方が望ましい。
という訳で。
私は今空き教室で件の男爵令嬢からの手紙を片手に持ち、もう一方の手にペーパーナイフを持っている。
先ほどまで一緒だったダグラスにはジェシカを呼びに行ってもらっているため今は不在にしていた。
私を1人にすることを渋る姿に護衛の任務と分かっていても少しときめいてしまったことは内緒だ。
なんだか大事にされているような気がして。
今までだったら「気をつけてくださいね」と言うくらいでサクッと呼びに行ってくれたんだけど…ダグラスにも何か心境の変化があったのかしら?
ちなみに、発表者が各自の楽器を音楽室に持ち込むのが許されるのは30分後から。
私もあまりもたもたしてはいられない。
男爵令嬢からの手紙はまだ内容を確認していなかった。
おそらく音楽室への呼び出しだと思うけど、エマのことだから足がつくようなヘマはしていないだろう。
「さて。やりますか」
私は気合をいれる。
痛いのは嫌だ。
嫌だけど…ここは一つ我慢のしどころ。
そう思って、私は令嬢からの手紙を机に置くと恐る恐るペーパーナイフを左手人差し指の先に当てる。
ほんの少しよ。
少しだけ力を入れて…多少血が出るくらいでいいから。
そう思ってナイフを持つ手にグッと力を入れた瞬間。
「お嬢さま!!」
ダグラスの声が教室内に響いて、驚きで私は手を滑らせた。
「あ…」
予定より大きく指先を滑ったナイフは薄く皮膚を切り裂いて、床にポタタっと血が滴り落ちる。
わっ!
床を汚しちゃった!
人は驚くと一時的に痛みを忘れるものなのか、最初に思ったのはそんなどうでもいいことだった。
「なにをやってるんですか!」
いつになく強い物言いのダグラスが私の手を掴むと心臓よりも上に上げる。
いやいやダグラスくん、驚かしたのはあなたよ。
そしてたぶんそれほど傷は深くない。
ダグラスの後ろから教室に入ってきたジェシカがやっぱりやったのかとでもいうような顔をしている。
なによ。
私は有言実行がモットーなのよ。
「保健室に行きましょう」
いつになく怖い顔のダグラスが低い声で言う。
そうそう、目的は保健室に行くこと。
そしてそれまでになるべくたくさんの人に目撃されること。
「わかりましたわ」
そう言うと私はハンカチを取り出して指に巻いた。
止血がてら押さえて、さぁ保健室へと思ったところで体がふわっと浮く。
「へ?」
わかっている。
令嬢にあるまじき言葉だと言うことは。
しかし、しかしだ。
なんで!?
なぜ私はダグラスにお姫様抱っこをされているのー!?
「ダ…ダグラス、怪我をしたのは手ですのよ。足は問題ないので自分で歩けますわ」
焦る私を無視してダグラスはスタスタと歩き出す。
「お嬢さまの言うことは聞きません。落とされたくないなら大人しくしていてください」
めちゃくちゃ近い位置にダグラスの美貌がある。
抱えられた腕はしっかりしていて安定感は抜群。
厚い胸板とか腕の筋肉とか、触れているから体越しにしっかりと感じた。
はわわわわ!
鼓動が急激に速くなる。
みなさん、人生初のお姫様抱っこですよ。
焦るなと言う方が無理でしょう!
おかげさまでとても目立った。
目撃者も大変たくさんいた。
女生徒は頬を赤らめ、男子生徒は面白がるような表情を浮かべている。
なんたる羞恥プレイ。
私は赤面しているのが見られないように、うつむいて顔を隠すしかなかったのだった。
445
お気に入りに追加
2,281
あなたにおすすめの小説
愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた
迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」
待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。
「え……あの、どうし……て?」
あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。
彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。
ーーーーーーーーーーーーー
侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。
吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。
自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。
だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。
婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。
※基本的にゆるふわ設定です。
※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます
※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。
※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。
悪役令嬢が行方不明!?
mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。
※初めての悪役令嬢物です。
プロローグでケリをつけた乙女ゲームに、悪役令嬢は必要ない(と思いたい)
犬野きらり
恋愛
私、ミルフィーナ・ダルンは侯爵令嬢で二年前にこの世界が乙女ゲームと気づき本当にヒロインがいるか確認して、私は覚悟を決めた。
『ヒロインをゲーム本編に出さない。プロローグでケリをつける』
ヒロインは、お父様の再婚相手の連れ子な義妹、特に何もされていないが、今後が大変そうだからひとまず、ごめんなさい。プロローグは肩慣らし程度の攻略対象者の義兄。わかっていれば対応はできます。
まず乙女ゲームって一人の女の子が何人も男性を攻略出来ること自体、あり得ないのよ。ヒロインは天然だから気づかない、嘘、嘘。わかってて敢えてやってるからね、男落とし、それで成り上がってますから。
みんなに現実見せて、納得してもらう。揚げ足、ご都合に変換発言なんて上等!ヒロインと一緒の生活は、少しの発言でも悪役令嬢発言多々ありらしく、私も危ない。ごめんね、ヒロインさん、そんな理由で強制退去です。
でもこのゲーム退屈で途中でやめたから、その続き知りません。
融資できないなら離縁だと言われました、もちろん快諾します。
音爽(ネソウ)
恋愛
無能で没落寸前の公爵は富豪の伯爵家に目を付けた。
格下ゆえに逆らえずバカ息子と伯爵令嬢ディアヌはしぶしぶ婚姻した。
正妻なはずが離れ家を与えられ冷遇される日々。
だが伯爵家の事業失敗の噂が立ち、公爵家への融資が停止した。
「期待を裏切った、出ていけ」とディアヌは追い出される。
妹のことを長年、放置していた両親があっさりと勘当したことには理由があったようですが、両親の思惑とは違う方に進んだようです
珠宮さくら
恋愛
シェイラは、妹のわがままに振り回される日々を送っていた。そんな妹を長年、放置していた両親があっさりと妹を勘当したことを不思議に思っていたら、ちゃんと理由があったようだ。
※全3話。
婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話
婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!
志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。
親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。
本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる