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悪役令嬢は赤面する

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発表会での冤罪ポイントはやっぱり音楽室での目撃情報なわけで、ならばその時間に別の場所で別の人に目撃してもらえばいい。
なんなら目撃者は多ければ多い方がいいのだ。

そしてなるべく嘘や誤魔化しは少ない方が望ましい。

という訳で。
私は今空き教室で件の男爵令嬢からの手紙を片手に持ち、もう一方の手にペーパーナイフを持っている。

先ほどまで一緒だったダグラスにはジェシカを呼びに行ってもらっているため今は不在にしていた。

私を1人にすることを渋る姿に護衛の任務と分かっていても少しときめいてしまったことは内緒だ。
なんだか大事にされているような気がして。
今までだったら「気をつけてくださいね」と言うくらいでサクッと呼びに行ってくれたんだけど…ダグラスにも何か心境の変化があったのかしら?

ちなみに、発表者が各自の楽器を音楽室に持ち込むのが許されるのは30分後から。
私もあまりもたもたしてはいられない。

男爵令嬢からの手紙はまだ内容を確認していなかった。
おそらく音楽室への呼び出しだと思うけど、エマのことだから足がつくようなヘマはしていないだろう。

「さて。やりますか」
私は気合をいれる。

痛いのは嫌だ。
嫌だけど…ここは一つ我慢のしどころ。

そう思って、私は令嬢からの手紙を机に置くと恐る恐るペーパーナイフを左手人差し指の先に当てる。
ほんの少しよ。
少しだけ力を入れて…多少血が出るくらいでいいから。

そう思ってナイフを持つ手にグッと力を入れた瞬間。

「お嬢さま!!」
ダグラスの声が教室内に響いて、驚きで私は手を滑らせた。

「あ…」
予定より大きく指先を滑ったナイフは薄く皮膚を切り裂いて、床にポタタっと血が滴り落ちる。

わっ!
床を汚しちゃった!
人は驚くと一時的に痛みを忘れるものなのか、最初に思ったのはそんなどうでもいいことだった。

「なにをやってるんですか!」
いつになく強い物言いのダグラスが私の手を掴むと心臓よりも上に上げる。

いやいやダグラスくん、驚かしたのはあなたよ。
そしてたぶんそれほど傷は深くない。

ダグラスの後ろから教室に入ってきたジェシカがやっぱりやったのかとでもいうような顔をしている。

なによ。
私は有言実行がモットーなのよ。

「保健室に行きましょう」
いつになく怖い顔のダグラスが低い声で言う。

そうそう、目的は保健室に行くこと。
そしてそれまでになるべくたくさんの人に目撃されること。

「わかりましたわ」
そう言うと私はハンカチを取り出して指に巻いた。
止血がてら押さえて、さぁ保健室へと思ったところで体がふわっと浮く。

「へ?」
わかっている。
令嬢にあるまじき言葉だと言うことは。
しかし、しかしだ。

なんで!?
なぜ私はダグラスにお姫様抱っこをされているのー!?

「ダ…ダグラス、怪我をしたのは手ですのよ。足は問題ないので自分で歩けますわ」

焦る私を無視してダグラスはスタスタと歩き出す。

「お嬢さまの言うことは聞きません。落とされたくないなら大人しくしていてください」

めちゃくちゃ近い位置にダグラスの美貌がある。
抱えられた腕はしっかりしていて安定感は抜群。
厚い胸板とか腕の筋肉とか、触れているから体越しにしっかりと感じた。

はわわわわ!
鼓動が急激に速くなる。
みなさん、人生初のお姫様抱っこですよ。
焦るなと言う方が無理でしょう!

おかげさまでとても目立った。
目撃者も大変たくさんいた。
女生徒は頬を赤らめ、男子生徒は面白がるような表情を浮かべている。

なんたる羞恥プレイ。

私は赤面しているのが見られないように、うつむいて顔を隠すしかなかったのだった。
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