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第50話 交渉が終わって
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魔王との交渉が終わり、ジャックとピクシーは魔大陸南端の砂浜で、狼煙を上げてローガンが迎えに来るのを待っていた。
「なぁ……お前あの時、適当なこと言ったろ?」
時間を持て余したのか、ジャックは魔王との交渉の時のことを振り返っていた。
ジャックの言うあの時とはピクシーが魔王もその配下もジャックと剣のことを怖がっていると言った時の事を指している。
ジャックはそう言われたときはその言葉を単純に信じてしまったが、今振り返ると魔王はそれほど剣を恐れていなかったのでは? と思える。
「えっ? ボクそんなこと言ったっけ?」
ピクシーはジャックから視線を外し、はぐらかそうとした。
「……」
ジャックはピクシーをじっと睨んでいる。
「だって、ジャックあの時魔王の迫力に負けてるように見えたんだもん……もしかして怒っちゃった?」
ピクシーはジャックがどう感じているのかは察しているのだろう。その上でおどけている。
「いや……助かったよ。ありがとな」
ジャックはこれまでもピクシーには何度も助けられている。その度に感謝はしていたが、明確にそれを言葉に出したのはこれが初めてであった。
「あららー ジャックがそんなに素直にお礼を言うなんて、雨でも降ってくるのかなー? これから船に乗るのに海が荒れたらボク困っちゃうー」
ピクシーは自分も素直になれない性格だから、ジャックが素直に礼を言ったことで照れている。案外こういう性格の者には素直にものを言った方が効果があるのかもしれない。
「お前、ホントにいい奴だよな。人間の女だったら結婚したいくらいだ」
意外にピクシーが照れていることに気を良くしたジャックは、いつもペースを持ってかれっぱなしなので、ちょっといじめてやろうという意地悪心が顔を出していた。
こう言ったらピクシーはもっと照れて困るだろう……そんな気持ちがジャックにそう言わせたのだが……
「えっ!? ジャック本気なの? ……妖精族は一生に一度だけ……妖精の神様に強く願うと人間になれるんだ。一度人間になったら魔法も使えなくなるし、元に戻れなくなっちゃうけど……ボク……良いよ」
ピクシーは顔を真っ赤にして、上目遣いでジャックを見つめている。
「えっ!?」
ピクシーを困らせるつもりで言った冗談だったが、話が思いもよらぬ方向に向かったことでジャックは動揺した。流石に「冗談でした」で済むような雰囲気ではなさそうなので、ジャックは次の言葉を慎重に選ばなければならなかった。
「……ぷっ」
そんな困り顔で固まっているジャックを見ていたピクシーが、限界を迎えて吹き出した。
「あ、このやろー」
ピクシーが吹き出したのを見て、さっきのが冗談だと気付いたジャックはその安堵の表情とは真逆の言葉を口にした。
流石に役者が違う……ジャックは大笑いしているピクシーを見てそう感じていた。
「でも、さ。ジャックかっこ良かったよ」
ピクシーは笑顔でウィンクしながらそう言った。
これは本心なのか、はたまた冗談なのか……役者としては格下のジャックには分からない。しかし恐らくは前者なのだろう……少なくともジャックはそう感じていた。
そうこうしている内にローガンの小舟が沖合に見えてきた。
国に戻った後はまたあわただしくなるだろう。ジャックの顔にはその覚悟が浮かんでいる。
「なぁ……お前あの時、適当なこと言ったろ?」
時間を持て余したのか、ジャックは魔王との交渉の時のことを振り返っていた。
ジャックの言うあの時とはピクシーが魔王もその配下もジャックと剣のことを怖がっていると言った時の事を指している。
ジャックはそう言われたときはその言葉を単純に信じてしまったが、今振り返ると魔王はそれほど剣を恐れていなかったのでは? と思える。
「えっ? ボクそんなこと言ったっけ?」
ピクシーはジャックから視線を外し、はぐらかそうとした。
「……」
ジャックはピクシーをじっと睨んでいる。
「だって、ジャックあの時魔王の迫力に負けてるように見えたんだもん……もしかして怒っちゃった?」
ピクシーはジャックがどう感じているのかは察しているのだろう。その上でおどけている。
「いや……助かったよ。ありがとな」
ジャックはこれまでもピクシーには何度も助けられている。その度に感謝はしていたが、明確にそれを言葉に出したのはこれが初めてであった。
「あららー ジャックがそんなに素直にお礼を言うなんて、雨でも降ってくるのかなー? これから船に乗るのに海が荒れたらボク困っちゃうー」
ピクシーは自分も素直になれない性格だから、ジャックが素直に礼を言ったことで照れている。案外こういう性格の者には素直にものを言った方が効果があるのかもしれない。
「お前、ホントにいい奴だよな。人間の女だったら結婚したいくらいだ」
意外にピクシーが照れていることに気を良くしたジャックは、いつもペースを持ってかれっぱなしなので、ちょっといじめてやろうという意地悪心が顔を出していた。
こう言ったらピクシーはもっと照れて困るだろう……そんな気持ちがジャックにそう言わせたのだが……
「えっ!? ジャック本気なの? ……妖精族は一生に一度だけ……妖精の神様に強く願うと人間になれるんだ。一度人間になったら魔法も使えなくなるし、元に戻れなくなっちゃうけど……ボク……良いよ」
ピクシーは顔を真っ赤にして、上目遣いでジャックを見つめている。
「えっ!?」
ピクシーを困らせるつもりで言った冗談だったが、話が思いもよらぬ方向に向かったことでジャックは動揺した。流石に「冗談でした」で済むような雰囲気ではなさそうなので、ジャックは次の言葉を慎重に選ばなければならなかった。
「……ぷっ」
そんな困り顔で固まっているジャックを見ていたピクシーが、限界を迎えて吹き出した。
「あ、このやろー」
ピクシーが吹き出したのを見て、さっきのが冗談だと気付いたジャックはその安堵の表情とは真逆の言葉を口にした。
流石に役者が違う……ジャックは大笑いしているピクシーを見てそう感じていた。
「でも、さ。ジャックかっこ良かったよ」
ピクシーは笑顔でウィンクしながらそう言った。
これは本心なのか、はたまた冗談なのか……役者としては格下のジャックには分からない。しかし恐らくは前者なのだろう……少なくともジャックはそう感じていた。
そうこうしている内にローガンの小舟が沖合に見えてきた。
国に戻った後はまたあわただしくなるだろう。ジャックの顔にはその覚悟が浮かんでいる。
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