魔法使いは廃墟で眠る

しろごはん

文字の大きさ
上 下
26 / 40

第四章

しおりを挟む
真夜中の街は椿の思っていた以上に閑散としている。本来星明かりを塗り潰す程の眩い街灯も、野良猫や虫の鳴き声を掻き消す人々の喧騒も全くない。まだ新年を祝う時期ではあるが連日の物騒な事件の為夜中に出歩く人が激減しているのだろう。事件自体は無差別に行われ人が集まる飲食店やホテルで被害が出る時もあれば人通りが少ない公園で起こることもある。魔力を集めるのが狙いなら病院なども狙いそうなものだが意外にも病院での被害はない。体力的に弱っている人が多いのが良くないのか真偽は不明だがこれ以上被害は出せない。そう思い今回は大きな餌を用意してみた。
「椿君、私寒いわ。帰りたい」
「もうちょっと頑張ろうね」
昼のやる気はどこに行ったのか。外出して約30分でキキョウは既に根を上げていた。ダッフルコートに身を包み手袋耳あても完備。防寒装備は完璧なのだがそれでも真夜中は寒い。
「そんな厚着してて戦う時邪魔にならねぇのか?体温調節の魔術使えばいいじゃねぇか」
「体温調節はあまり好きではないの」
反対にエレオノーラと飛鳥は鎧の装飾が施された騎士団の礼装を。真冬という時期を考えれば寒そうなものだが魔術で調節しているのだろう。便利な魔術だと思うが魔眼を解放していない椿には魔術を行使出来るほどの魔力は無いしそもそも式を理解することが出来そうにないので無縁な話だ。キキョウは例の廃墟で暮らしていた時はよく使っていたと言っていたが一緒に暮らしてからは使うところを未だ見たことがない。不思議な拘りではあるが本人にその気が無いのなら無理に使えと言う気もない。
「ワガママ言ってないで歩きますよ」
「しょうがないわね」
飛鳥に叱られまた歩き出す。飛鳥もキキョウが本気で言っている訳では無いとわかっているだろう。家でもよく見る光景だ。
とはいえこの四人で夜中とはいえ街を歩くのは非常に目立つ。四人とも未成年。警察に見つかれば職務質問は免れ無いし補導されるだろう。それだけであればいいが飛鳥は細剣を、自分は飛鳥から借りた長剣を、そしてエレオノーラに至っては彼女の倍の大きさはあろうかとい巨大な斧を背負っている。聞けばこの斧こそが彼女の王鍵であると言うがとにかく目立つ。認識を妨げる魔術を使い4人とも一般人に認識されないようになっていると説明を受けたが本当に大丈夫なのだろうか。事実、今の所は稀に擦れ違う人に悲鳴を挙げられたり視認されたりということは無いが。
「しかし何も起こらねぇな」
「今夜中に何か起こると思うよ」
「根拠は?」
「無いけど......」
「あてにならねぇ...」
捜査は始まったばかり。まだ相手側からの行動は何も無いが何かしら仕掛けてくる可能性は高いと椿は確信していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

別れてくれない夫は、私を愛していない

abang
恋愛
「私と別れて下さい」 「嫌だ、君と別れる気はない」 誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで…… 彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。 「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」 「セレンが熱が出たと……」 そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは? ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。 その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。 「あなた、お願いだから別れて頂戴」 「絶対に、別れない」

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

処理中です...