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レイラ

軍議

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「デモニューマが初めて確認されたのは、今から十年ほど前。我が国と隣国との国境近くにある町だった。そこに、空からデモニューマが舞い降りたのだ。その一匹のデモニューマによって、千人いた町の住人の半数が殺された。国境を守る軍が駆け付け対処したものの、その部隊に至っては、わずかに生き残った者も、もう二度と戦場には立てぬ体にされた。

デモニューマの伝承は昔からあったが、そのすべてはすでに討ち滅ぼされたと書物にはある。ゆえに、我らはデモニューマとの戦い方を知らなかった。

その後、隣国で騒乱が確認されるようになった。初めのうちは単なる内乱だと我々は思っていたが、そうではなかった。隣国はデモニューマの侵攻を受けていたのだ。ただ、我が国とその国とは対立関係にあったため、情報は入ってこなかった。我が国が放っていた間諜からの連絡も、一切が途絶えてしまった。デモニューマとの争いに巻き込まれてしまったのだろう。

我々がようやくデモニューマについての情報を得られたのはさらに一年が過ぎた頃だった。隣国からかろうじて逃げ延びた生き残りが保護されて、その口からな。

その者達の話を合わせ、魔王の居城と目されているのは、ここより西に一ヶ月ひとつき歩いたところにある、<エジェレネイカ山>と呼ばれる険しい山だ。我々はまだ一人として辿り着けていないが、魔王とデモニューマめらによって滅ぼされた国々の生き残りの彼らももう、あまりの恐怖に心を壊されつくして、保護された屋敷から一歩も出てこないので、死んだも同然だが……」

王宮に出向いたレイラは、エギナやパティリエカと共に、<軍議>に参加した。デモニューマへの対処と、今後の方針を話し合うために行われているものだった。

「魔王とデモニューマ共は、人間の国を容赦なく滅ぼしていっている。捕虜や人質を取るでもなく、ただただ人間を殲滅することが奴らの目的だ。これまでにも分かっているだけでも十の国がそれによってこの世界から完全に消え失せた。奴らは人間を根絶やしにするつもりなのだ。魔王とデモニューマ共を殲滅しなければ、人間に明日はない!」

エギナが拳を握り締め震わせながら力強くそう口にした。そのこと自体には誰も異を唱えなかった。

もっとも、本来なら彼女はこの場にいられるような立場ではないのだが。パティリエカと共にレイラの<身元引受人>的な存在になっていることで、例外的に認められているのだ。

そして、パティリエカの隣には、シェイナの姿も。

こちらも、普通は認められないが、レイラのたっての希望により、特別に許されている。これは、

『城壁内での立ち振る舞いをシェイナに学んでもらう』

という狙いもある。時間は一ヶ月程度しかない。とにかくその間に可能な限り、城壁内で暮らしていくための基礎的なスキルを身に付けてもらわないといけない。

なお、この種の軍議に部外者を立ち入らせることについて<間諜スパイ>などを心配するむきもあるだろうが、<敵>が人間であればそれを心配する必要もあるだろうが、魔王とデモニューマらがその種の<諜報戦>を行っていることを示す情報は一切なく、ただただ圧倒的な<暴力>によって人間の国を蹂躙するだけだということも分かっているので、<間諜スパイ>の可能性を考慮する必要はまったくないことも分かっているという。

情報が、<賤民>らに漏れることを心配する必要もない。

『勝手に住み着くことを黙認してもらっている代わりに、自分達の命は自分で守る』

ことは彼らも百も承知なので、いまさら知られて困る情報もないからだ。

『厳しい世界に生きているがゆえの覚悟ですね……』

レイラはそう思うものの、今の時点で自分が口出ししても詮無いことも分かるため、何も言わない。

それに、魔王とデモニューマを倒せば済む話だ。

今はそれに必要な情報を集める時間なのだ。

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