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人間という生き物

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自宅までの道のりを、宿角玲那すくすみれいなと並んで歩いたものの、琴羽は一言も言葉を発することはなかった。そんな気分になれなかったのだ。

これまで大人をいいように振り回してきた筈の自分が殆ど何もできずに黙らされてしまったことに落ち込んでいたのである。

そして玲那は、そんな琴羽に慰めの言葉を掛けるようなこともなかった。ここで慰めるのは、この少女にとっては追い打ちになると考えたからである。

玲那の目的は、生意気な子供を打ち負かすことではない。ただ、いちいち大人に噛み付いていては自分が損をするということに気付いてほしいだけだ。

しかしそれは、子供自身が気付かないと意味がない。

『ごめんなさい』

と謝罪させるだけでは気付いたことにならない。

大人はとかく、形だけでも謝罪させることに拘るが、形だけの謝罪が通用するのは、体裁を重視する人間同士の間だけである。本人に謝罪の意思がなければ、反省してなければ、体裁に拘らない人間はいくらでも口先だけの謝罪ができてしまう。そして、

『取り敢えず謝っておけば済むんだから、ちょろいちょろい』

と考える。

琴羽がまさにそのタイプだった。大人を欺く為なら『ごめんなさい』とも言うし、頭だって下げる。そして、腹の中で舌を出すのだ。

『謝っておいたらいいんでしょ?』

と。

玲那はそれが分かるから。かつての自分がまさにそうだったから、謝罪を要求することもない。

『ごめんなさいは?』

とは、今は言わない。

もし、琴羽が心から反省し謝罪をしたいと思っているのに口に出せないでいると察した時には、『大人に命じられたから謝罪した』という形として助け舟を出す為に、それを促すことはするが。

しかし今はその時ではなかった。

子供に『ごめんなさい』と言わせてマウンティングして良い気分になりたい訳でもない。

実が伴わなければ何の値打ちもなかったのだった。

だから今は、琴羽が何を感じ、何を考えているかを見極める段階だった。故に敢えて何も言わない。

琴羽もまた、今は何をしていいのか、何を言っていいのか分からなかった。頭の中がぐちゃぐちゃで、整理できなかった。

負けを認めるのは悔しい。それだけはしたくない。でも、手も足も出ないのもまた事実。

『どうしたらいいのか分かんない……』

それが正直な気持ちだった。

たぶん、素直に負けを認めて下ってしまえば楽になれるだろう。が、子供にだって<プライド>というものはある。

感情に振り回されては結局損をするのだとしても、だからといって感情をまったく無視してしまうのもまた、人間という生き物の場合には悪手なのかもしれない。

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