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威厳
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今回の玲那のやり方が常に上手くいくとは限らない。これが常に正解であるとは限らない。
しかし、少なくとも琴羽には非常に『刺さった』のだった。玲那の指摘は、ことごとく琴羽にとっては図星だった。
そして琴羽自身が、実は利発で聡い子供であったことが功を奏したと言えるだろう。
「……」
何を言っても何をやってもまるで通用しないことに琴羽は意気消沈し、大人しく宿題を終わらせると、
「帰る……」
と言い出した。
そこで玲那が、
「家まで送ります」
と申し出ると、それには応えず、さりとて拒絶もせず、勝手についてくるのを好きにさせた。
明らかに落ち込んでいるようではあったが、玲那は敢えて慰めるようなことはしなかった。それと同時に、もし、琴羽が甘えるような様子を見せた時にはそれを受け止めるべく心積もりもしていた。
きっぱりと言い負かしはするが、さりとて突き放しはしない。
大人の<強さ>と<懐の大きさ>を示す為である。
琴羽は、自分に容易く振り回される大人の様子を見て、すっかり舐め切っていたのは事実だった。腕力では勝てなくても、経済力では勝てなくても、『口でなら勝てる』と思い込んでしまっていた。
そして、琴羽にそう思わせたのは、他でもない彼女の周囲の大人自身である。
子供の<戯言>にムキになり、浮足立ち、ことごとく隙を見せてきたのは大人の側なのだ。
ネットのやり取りを見れば分かるだろう。
『感情的になった方が負け』
であると。
『自分の気持ちに正直になる』
というのは、良い意味でよく使われる言葉だが、それは決して『感情のままに行動するのが良い』という意味でないことは、少し考えれば分かる筈である。『自分の気持ちに正直になったストーカー』等が起こした事件を見るまでもなく。
なのに、そういう負の一面には目を瞑り、『ただ自分の感情を表に出すことが良いことだ』と思い込んでいる人間は決して少なくないと思われる。そうして、子供が未熟であるが故にやらかしたことに感情的になり、大人としての分別を見失うのだ。
琴羽のような子供は、大人のそういう部分を舐めて、見くびっているのである。
だから琴羽のような子供に対して感情的になるのは<悪手>なのだ。それは付け入る隙を晒すことに他ならないのだから。
彼女に対して必要な手段は、殴ることでも、怒鳴ることでも、下手に出ることでもなかった。
なぜなら彼女は、<ケツの穴の小さい大人>を舐め切っていたのだから。
そんな彼女を相手にいくら感情的になっても、大人としての威厳など示せる筈もなかったのだった。
しかし、少なくとも琴羽には非常に『刺さった』のだった。玲那の指摘は、ことごとく琴羽にとっては図星だった。
そして琴羽自身が、実は利発で聡い子供であったことが功を奏したと言えるだろう。
「……」
何を言っても何をやってもまるで通用しないことに琴羽は意気消沈し、大人しく宿題を終わらせると、
「帰る……」
と言い出した。
そこで玲那が、
「家まで送ります」
と申し出ると、それには応えず、さりとて拒絶もせず、勝手についてくるのを好きにさせた。
明らかに落ち込んでいるようではあったが、玲那は敢えて慰めるようなことはしなかった。それと同時に、もし、琴羽が甘えるような様子を見せた時にはそれを受け止めるべく心積もりもしていた。
きっぱりと言い負かしはするが、さりとて突き放しはしない。
大人の<強さ>と<懐の大きさ>を示す為である。
琴羽は、自分に容易く振り回される大人の様子を見て、すっかり舐め切っていたのは事実だった。腕力では勝てなくても、経済力では勝てなくても、『口でなら勝てる』と思い込んでしまっていた。
そして、琴羽にそう思わせたのは、他でもない彼女の周囲の大人自身である。
子供の<戯言>にムキになり、浮足立ち、ことごとく隙を見せてきたのは大人の側なのだ。
ネットのやり取りを見れば分かるだろう。
『感情的になった方が負け』
であると。
『自分の気持ちに正直になる』
というのは、良い意味でよく使われる言葉だが、それは決して『感情のままに行動するのが良い』という意味でないことは、少し考えれば分かる筈である。『自分の気持ちに正直になったストーカー』等が起こした事件を見るまでもなく。
なのに、そういう負の一面には目を瞑り、『ただ自分の感情を表に出すことが良いことだ』と思い込んでいる人間は決して少なくないと思われる。そうして、子供が未熟であるが故にやらかしたことに感情的になり、大人としての分別を見失うのだ。
琴羽のような子供は、大人のそういう部分を舐めて、見くびっているのである。
だから琴羽のような子供に対して感情的になるのは<悪手>なのだ。それは付け入る隙を晒すことに他ならないのだから。
彼女に対して必要な手段は、殴ることでも、怒鳴ることでも、下手に出ることでもなかった。
なぜなら彼女は、<ケツの穴の小さい大人>を舐め切っていたのだから。
そんな彼女を相手にいくら感情的になっても、大人としての威厳など示せる筈もなかったのだった。
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